パブリッシャーにとってライセンス事業は新しい収入源ではないものの、その重要性は次第に高まりつつある。多くのパブリッシャーが小売企業やメーカーと連携して製品開発や商品化に従来よりも意識的に取り組んでいる。ブランドと違和感のない製品、オーディエンスに売れそうな製品を展開する新たなライセンス戦略は実を結びつつある。
パブリッシャーにとってライセンス事業は新しい収入源ではないものの、その重要性は高まりつつある。
レガシーかデジタルネイティブかに関係なく、多くのパブリッシャーが小売企業やメーカーと連携して製品開発や商品化に従来よりも意識的に取り組んでいる。自分たちのブランドと違和感のない製品、自分たちのオーディエンスに売れそうな製品を展開するという新たなライセンス戦略は、すでに実を結びつつあるようだ。
ライセンスビジネスの業界誌、ライセンスグローバル(License Global)が発行する2020年版の「グローバルライセンサーズリスト上位150社」によると、メレディスコーポレーション(Meredith Corporation)、ハースト(Hearst)、BuzzFeed、コンデナスト(Condé Nast)で2018年から2019年にかけて、自社ブランドの商品化による年間総売上高が10億ドル単位とは言わないまでも、数千万ドル規模で伸びている。
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「自分たちのブランドを違和感なく再構築する」
メレディスはベターホームズ&ガーデンズ(Better Homes & Gardens)、オールレシピズ(Allrecipes)、サザンリビング(Southern Living)などのライフスタイル系ブランドを多数保有しており、ライセンスグローバルのリストでは第1位のウォルトディズニーカンパニー(The Walt Disney Company)に次いで、第2位にランクインしている。昨年、傘下のメディアをブランド化した商品の売上総額は265億ドル(約2兆8000億円)にのぼった。
メレディスは現在有効なライセンスプログラムを25件保有している。同社のコーポレートコミュニケーションを統括するマイク・ラヴェル氏によると、その総額は9800万ドル(約103億円)にのぼり、6月30日を末日とする2020会計年度における総収入の3%に相当する。ブランドライセンス事業の収益は前年比3%増だった。
直近のライセンス契約2件のうちのひとつはオールレシピズブランドのキッチン用品で、スーパーマーケットチェーン大手のクローガー(Kroger)が今年1月に販売を開始した。もうひとつはサザンリビングの姉妹メディアであるコースタルリビング(Coastal Living)ブランドの家庭用家具で、ユニバーサルファニチャー(Universal Furniture)が昨年春に発売し、来春には屋外用家具に拡大することが決まっている。
ライセンスグローバルでコンテンツディレクターを務めるアマンダ・シオレティ氏によると、メレディスのライセンス事業はこれだけにとどまらず、他社と一線を画すものがあるという。それが、「ベターホームズ&ガーデンズ」と住宅用不動産サービスのリアロジーホールディングス(Realogy Holdings)がライセンス契約を結んで設立した、ベターホームズ&ガーデンズ不動産(Better Homes & Gardens Real Estate)だ。
「製品にロゴを貼るだけのライセンス事業は遠い昔の話だ」とシオレティ氏は語る。「いまやそれは自分たちの重要なブランド資産を違和感なく、合理的に再構築するというもっと思慮深く洗練されたプロセスとなっている」。
一大ライセンス保有企業となったBuzzFeed
BuzzFeedは現在100件前後のライセンス契約を抱えており、広報担当者の話によると、ライセンス事業の売上高は前年比で40%以上増えるものと見込んでいる。
BuzzFeedがライセンス事業に参入した2017年当時、その売上高は500万ドル(約5億2700万円)にも満たなかった。2019年になるとこの数字は2億6000万ドル(約274億円)に膨らみ、上位150社のリストでも92位にランク入りした。
シオレティ氏によると、BuzzFeedはブランドライセンシングを有効に活用しているパブリッシャーの好例だといい、「伝統的でないブランドの伝統的なアプローチだ」と評価する。同社が上位150社のリストに初めて登載されたのは昨年のことで、このときは132位だった。「彼らは明らかに最大の効果を出せるスイートスポットを捉えている。その原動力は自分たちが種を蒔いて育てた数々のブランドだ」。
たとえば、テイスティ(Tasty)とグッドフル(Goodful)はBuzzFeedのライセンス事業を牽引する主要ブランドだ。Tastyブランドの調理器具はウォルマート(Walmart)が販売している。広報担当者の話によると、このふたつのブランドの商品化を拡大する一方で、ライフスタイルカテゴリーのニフティ(Nifty)ではDIYと生活雑貨、ブリングミー(Bring Me!)では旅行商品のライセンス契約について、それぞれ小売企業と協議を進めているという。
「消費者はブランドのお墨付きをほしがる」
ライセンスグローバルのリストによると、ハーストのライセンス商品の売上高は2018年の5億500万ドル(約532億円)から2019年には5億8000万ドル(約611億円)に増加した。その結果、順位も昨年の71位から今年は63位に上昇した。ハーストはライセンス事業の収益について詳しい情報を公表していないが、新規の契約をいまも次々と結んでいる。最近の事例では、寝具と家具を扱うアイドル(Idle)と複数ブランドの契約を締結した。
アイドルとハーストマガジンは複数年のライセンス契約を結び、アイドルのマットレス製品にハーストの4つのブランド名をつけて販売する。両社はこの契約でレベニューシェアモデルを採用する。
第1弾として、今年第4四半期にカントリーリビング(Country Living)ブランドのマットレスを発売する。来年早々には、ハウスビューティフル(House Beautiful)、メンズヘルス(Men’s Health)、ウィメンズヘルス(Women’s Health)のブランド名を冠したベッドインボックス(特殊な圧縮技術を用いてマットレスをコンパクトに梱包した)製品がお目見えする。
ハーストマガジンとのコラボレーションには「消費者の絶大な信頼」という利点があると、アイドルのクレイグ・シュマイザーCEOは語る。アイドルにとってパブリッシャーとのライセンス契約は今回が初めてとなる。「マットレスのような高額商品では、消費者はブランドのお墨付きをほしがる」ため、市場に数多く存在するベッドインボックスのメーカーのなかで、アイドルが「抜きん出る」には大きなアドバンテージになるという。
ライセンス事業を再構築
さらに、ライセンス事業の再編に取り組むパブリッシャーもある。コンデナストのセルフ(Self)は女性の健康とウェルネスをテーマとするオンラインマガジンで、キャロライン・キルストラ編集長によると、1979年の活字版の創刊以来、何らかの形でブランドのライセンシングをおこなってきた。だが昨年いくつかのライセンス契約の終了にともない、新しい方向性を打ち出すためにフィットネス系の製品からウェルネス中心の展開へと軸足を移した。
そして来年早々、セルフはアダルトグッズメーカーのジミージェーン(Jimmyjane)との提携を通じてライセンス事業を再開する。
昨年、コンデナストはライセンス事業の売上高として、前年よりも1億ドル(約105億円)多い2億5000万ドル(約263億円)を計上した。ライセンスグローバルの順位も、2019年版のリストでは121位だったが、今年は96位に上昇した。
「私たちのブランドロゴをつけた製品であれ、私たちが推奨する製品であれ、私たちがこの製品は買う価値があると言えば、読者は信用してくれる」とキルストラ氏は語る。ライセンス事業の再構築にあたり、オーディエンスのニーズに応えられる製品開発に注力したいという。
「ブランドへの親近感がライセンス事業の要諦だ」とライセンスグローバルのシオレティ氏は言う。「消費者は自分が共感するブランドの商品により強く引きつけられるものだ」。
[原文:‘Finding their sweet spot’: How publishers are quickly becoming large global licensors]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:英じゅんこ、編集:分島 翔平)