ガーディアン(The Guardian)が、ファーストパーティデータ戦略の一環として、読者にサインイン(登録)を求めるようになった。その狙いは、広告製品を改善して、読者により関連性の高い広告を提供し、自社の財務を確実に安定させることにある。
ガーディアン(The Guardian)が、ファーストパーティデータ戦略の一環として、読者にサインイン(登録)を求めるようになった。
最高製品責任者のキャスパー・ルウェリン・スミス氏によれば、ガーディアンは12月に、一部のオーディエンスに対して登録ウォールのテストをはじめていたという。その狙いは、広告製品を改善して、読者により関連性の高い広告を提供し、自社の財務を確実に安定させることにある。
「読者にサインインを求めることで、読者に支援を求める方法をパーソナライズしたり、(読者の同意を得て)広告を配信したり、より優れたユーザー体験を提供したりするときに、より多くの情報が利用できるようになる」と、キャスパー・ルウェリン・スミス氏は述べている。
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「両方に相乗効果をもたらす」
読者が記事をクリックすると、無料の登録を促すメッセージが表示されるが、登録は必須ではなく、「Not Now」(今はしない)タブをクリックすれば記事の続きが表示される。4月に入って、ガーディアンは同じようなテストを開始し、メディア関係者らの関心を集めている。登録を行ったユーザーは、コメントを残したり、編集部のニュースレターを購読したり、割引価格や特別価格の提案を受けたりするといったメリットが得られる。ガーディアンの側も、読者が好むコンテンツなどに関する貴重なインサイトを得られるようになる。ガーディアンへの支援を求めるメッセージには、読者がその月に読んだ記事の数も表示される。
「これは好ましい動きだ」というのは、エンダース・アナリシス(Enders Analysis)のシニアアナリスト、アリス・ピックホール氏だ。「登録は読者のエンゲージメントと寄付を促進するファネルの一部であり、広告の品質とターゲティングの改善にもつながるため、その両方に相乗効果をもたらすだろう」。
登録ウォールは、購読者の獲得と維持、および広告製品の強化に欠かせないファーストパーティデータの質を高めてくれる。昨年には、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)、ハースト・ニュースペーパーズ(Hearst Newspapers)、トリビューン・パブリッシング(Tribune Publishing)など、登録ウォールの見直しに乗り出すパブリッシャーが増加した。登録ウォールは、コンテンツの好みを可視化するだけでなく、製品やコンテンツのカスタマイズを可能にするため、より多くの購読者を獲得できるようになる。サブスクリプションプラットフォームを手がけるピアノ(Piano)によれば、読者が購読者に変わる割合は、登録ユーザーのほうが匿名ユーザーより10倍高いという。
サードパーティCookieの代替
ファーストパーティデータは、購読者の維持にも役立っている。「ファーストパーティデータがなければ、解約に関する分析が十分にできない」とメディアアナリストのトーマス・ベクダル氏は指摘する。北欧のパブリッシャーであるシブステッド(Schibsted)は、ファーストパーティデータを利用して購読者が解約に至る過程を詳しく調べ、解約を思いとどまる購読者の数を10%増やすことに成功した。
パブリッシャーが貴重なファーストパーティデータを構築するもうひとつの狙いは、瀕死状態のサードパーティCookieに代わる手段を準備することだ。ワシントン・ポスト(The Washington Post)やボックス・メディア(Vox Media)、それにビジネスインサイダー(Business Insider)もこうした取り組みを進めている。登録ウォールを設けて、読者にメールアドレス、住所、職名などの情報を入力してもらうことで、広告主がターゲティングに利用できる強固なユーザー基盤を確立し、広告料として請求できる金額を増やすことが可能になるのだ。5月下旬には、登録ウォールを導入してからまだ1年も経っていないニューヨーク・タイムズが、サードパーティの広告データの利用をすべてやめると表明した。
ガーディアンは、ジャーナリズムはすべての人に開かれた自由な存在であるべきだという強い信念を維持しており、とりわけパンデミックが発生しているあいだは、正確な情報にアクセスできることが市民の基本的権利だとする姿勢を貫いている。今回の動きはペイウォールを導入するものではなく、そのための布石でもない。
有料サポーター200万人が目標
最近は、トラフィックは多いものの、広告収入は少ない。ガーディアンの社内データによれば、同社のユニークブラウザ数は3月に世界全体で3億6600万に達し、2月の1億9100万から倍増した。日別の訪問者数と週別の訪問者数は、ともに30%程度増加したという。3月のページビュー数は21億7000万を記録したが、これは2019年10月に記録した最高記録7億5000万を大きく上回る数値だった。
ニュースサイトへのトラフィックは少しずつ減りはじめているが、パンデミックの前と比べればまだ高い。コムスコア(comScore)のデータによると、英国ではガーディアンの4月の月間ユニークユーザー数は3470万で、3月の3570万からは減少した。それでも、2月の2560万と比べればかなり多い。
だが、パブリッシャーのプログラマティック収益は65%減少している。多くの広告主がキャンペーンへの支出を停止しているのに加え、ブランドが新型コロナウイルスの記事をブロックしているために、CPMが低下しているからだ。
広告収入の重要性は変わらないが、ガーディアンでは2022年までに有料サポーターを200万人にまで増やす計画だ。
Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)