業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズ。今回はUSAトゥディ(USA Today)を擁するガネット(Gannett)や、シカゴ・トリビューン(Chicago Tribune)を擁するトロン(Tronc)で勤務してきた若手記者から、日刊紙の第一線での生活について話を聞いた。
新聞はこれまで、持続可能なデジタルメディアのモデルを見つけることにおいて、どの印刷メディアよりも悪戦苦闘してきた。
業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズ。今回はUSAトゥディ(USA Today)を擁するガネット(Gannett)や、シカゴ・トリビューン(Chicago Tribune)を擁するトロン(Tronc)で勤務してきた若手記者から、日刊紙の第一線での生活について話を聞いた。
なお、以下のインタビューには若干の編集が加えられている。
Advertisement
――新聞は成長産業とは言えないが、ずっと新聞社で働きたかった?
大学時代に学生新聞にかかわっていて、それがきっかけで興味をもつようになった。ジャーナリズムを学ぶため、大学院にも進学した。周囲がほのめかす懸念はある程度認識していたが、それでも私はジャーナリズムに夢中だった。ニュースはすべて、印刷版の新聞から収集していた。印刷媒体のジャーナリズムというスタイルに、どこかしら好きな要素がある。印刷がもつブランド、名声、歴史に魅了されたのだ。
――あなたの期待は現実と一致していた?
人員不足や限られたリソースといった問題は、パブリッシャーが生み出しうるジャーナリズムに直接的な影響を及ぼしかねない。どこにいようと優れたジャーナリズムの提供は可能だとずっと思っていたし、いまでもそうだ。でも、私が働いてきた職場は、本当に人手不足だった。制作しているコンテンツの質の低下が目に見えてわかった。苛立つ思いがした。
――具体的に言うと?
たとえば、シフトごとにコピーエディターが1人いて、2紙以上を担当する。そのコピーエディターには、原稿の整理編集のほかに、ページのレイアウトなどの職務もある。その結果、間違いが見過ごされてしまい、それによって新聞の信頼性が損なわれることになる。
これは数ある皮肉な状況のひとつだ。新聞は読者の拡大に注力しているにもかかわらず、間違えることで読者を失っているのだから。まさに、ザルで水を汲んでいるようなものだ。印刷版の新聞は毎日発行しなければならない。
私が見てきたのは、記者たちが去っても、会社は代わりを見つけるのに手間取ったり、あるいは見つけられなかったりする状況だった。いま私は、3つの現場を掛け持ちしていて、上っ面をなでるのがやっとのありさまだ。これは読者に対する一種の不正行為だ。
――あなたが在籍してきたニュース編集室では、デジタル版は新しいものではない。ニュース編集室が印刷版とデジタル版のニーズのバランスをとっている様子をどう見ていた?
ガネットでは、デジタル版に比重が置かれるようになったタイミングは適切だった。デジタル版は「未来のニュース編集室」と呼ばれていた。締め切りは早められたが、それは必要なことだった。
肩書きが変わりエディターは「コーチ」に、コピーエディターは「プロデューサー」になった。彼らのメールの署名をはじめ、何もかもが変わった。思うに、我々はみな、出版業界が注力すべきことはたくさんあったと感じているはずだ。エディターからコーチに肩書きを変えることなどは、些末な問題にすぎない。
――スタッフはこうした変化にどう適応した?
我々は個別に自身のポジションを再志願する必要があった。何年も前から所属していた人たちは、後味の悪い思いをすることになった。ソーシャルメディアに対する変化も伴い、個々にソーシャルメディアで注目を集めるよう求められた。とにかくストレスがたまった。みな、あれやこれやに対して、丸ごと懐疑的だった。こうした変化が士気を高めることは一切なかった。
――ミレニアル世代として、新聞社を魅力的な職場だと思ったことは?
私の同僚はだいたい20代だった。たぶん新聞社は、ベテラン記者たちを引き止めておく努力を怠っているのだろう。スタッフが成長するペースに給料は追いつかないし、こんなスケジュールでは家庭をもつことも難しい。
私の以前の仕事はどちらも、3万ドル(約300万円)台前半の年俸だった。わかりきったことだが、この業界に入ると薄給になる。私にもそれはわかっていたが、なんとかやっていく覚悟はできていた。しかし一般には、歳を取るに従って「ワンベッドルームのアパート暮らしなら年収3万ドルでもいいが、結婚して子供もできたら?」と思うようになる。
――スタッフはこれらの変化に不平を言わなかったのか?
集団としては、不満の声があがっていた。しかし、不満の対象の多くは、会社から言い渡されたことだった。自分の望みをすべて訴えることもできたが、エディターに文句を言ってみたところで、彼らが采配を振るっているわけではなかった。結局、苦笑いで耐えるしかない。
――意気消沈するような話だが、あなたは今後もジャーナリズムの世界にとどまる?
わからない。その質問を2年前にされていたら「もちろん」と答えていただろうが……。いまの私は、ほかの選択肢に対してもオープンになっている。私が知っている記者の大半は、ポジティブな変化をもたらしたいという理由で、ジャーナリズムの世界に足を踏み入れている。とくに印刷版の記者たちはそうだ。もし私が本当にジャーナリズムを離れるなら、非営利団体で何か仕事を見つけることを望むだろう。
――新聞に改革を望む点をひとつ挙げろと言われたら?
新聞は、ジャーナリズムの側面にもっと投資する必要がある。雇うスタッフを増やせば、記者たちは負担から解放され、実りある記事も増えるだろう。だが残念ながら、それが新聞社にできる唯一のことなのに、実行できないのだ。
Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)
Photo by GettyImage