大手ブランドはFacebookへの疑念を募らせているが、パブリッシャーにとってはその規模や使いやすさ、正確なターゲティングがサブスクリプションビジネスを牽引するもっとも強力なツールであり、止めることはできない。経済も広告も低迷している今、収益を追い求めるうえでFacebookの重要性はますます大きくなっている。
大手ブランドのなかには、ヘイト活動への資金提供やそこから利益を得るのをやめるというFacebookの言葉に疑問を持っているところもあるだろう。だが、一部のマーケター、特にD2CブランドやサブスクリプションパブリッシャーはFacebookを成功に欠かせない重要な存在と考えている。
Facebookはパブリッシャーにとって、自社プラットフォーム以外でサブスクリプションビジネスを牽引するもっとも強力なツールといえる。Facebookの圧倒的な規模の大きさ、使いやすさ、そしてターゲティングの正確さがダイレクトレスポンス広告にとって理想的だからだ。経済も広告も低迷している今、収益を追い求めるうえでFacebookの重要性はますます大きくなっている。
Facebookとの複雑な関係
Facebookをあまり好まないというパブリッシャーでさえFacebookに広告を掲載する理由は明らかだ。コンサルタント企業であるザ・スターリング・ウッズ・グループ(The Sterling Woods Group)のCEOロブ・リスタグノ氏によれば、同社と取引しているパブリッシャーの顧客獲得コストは1年目のサブスクリプション料金の50~100%になるのが普通だという。供給が少なく需要が多くなったこの数カ月間は、Facebookでの顧客獲得コストを半減できたパブリッシャーもあるようだが、リスタグノ氏や広告バイヤーによれば、通常の状態に戻りつつあるという。
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「Facebookでの支出はマーケティングミックスにとって欠かせないものだが、注意すべきことがいくつかある」と、リスタグノ氏は話す。たとえば、価格が高いにもかかわらずFacebookのアルゴリズムによって自社のビジネスが認知されるまでは、短期間にお金を惜しみなくつぎ込む必要がある。「一夜にして成功するとか、『試しに』1000ドル(約11万円)を投じただけでうまくいくなどと期待すべきではない」と同氏は指摘する。
ニュースパブリッシャー、なかでもサブスクリプションパブリッシャーとFacebookの関係は以前から一筋縄ではいかないものだった。「Googleがニュース業界をサポートしたいというのは信じられるが、Facebookがそういってもまったく信じられない」と、あるサブスクリプションパブリッシャーの幹部はいう。実際、購読者を増やすという点で、Facebookの公式ツールがもたらす成果は控えめだ。だが、リードジェネレーション(見込み客獲得)という点では優れた手段となっている。たとえば、メールアドレスと引き換えに特典を提供するサブスクリプションの広告で特定のユーザー層を引き込み、あとでリターゲティングを行って彼らを顧客に変えることができる。
「一部のパブリッシャーは大いに満足しており、非常に大きな成功を収めている」と別のパブリッシャー幹部はいう。「Facebookは効率がいいと思われているが、価値の高いデータへのアクセスに関する懸念があり、パブリッシャーが適切なターゲットオーディエンスを引きつけられるかどうかはわからない。パブリッシャーが利用できる数多くのツールのひとつではあるものの、その効果は状況によって異なる」。
コストを費やすパブリッシャーたち
コンデナスト(Condé Nast)は、最近になってFacebookへの広告支出を増やしたサブスクリプションパブリッシャーのひとつだ。4月には、コンデナストのポートフォリオ全体で購読者が2倍に増えたが、その半分はFacebookなどの有料マーケティングによるものだった。オンライン広告プラットフォームのパスマティックス(Pathmatics)の推定では、コンデナストは現時点で1950万ドル(約20億8430万円)以上をFacebookに費やし、米国で23番目にFacebookでの支出が多い企業だと見られる。米DIGIDAYはこの件についてコンデナストにコメントを求めたが、回答は得られなかった。
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は、今年に入って2450万ドル(約26億1870万円)をFacebook広告に支払っている。これは米国で18番目に多い金額だ。同社はこの件に関するコメントを拒否したが、パスマティックスの推定金額は実際の2倍以上だと語った。また、年末にかけてFacebookでの支出を減らして行く予定だという。
ちなみに、ニューヨーク・タイムズはCNNなどと同じく、Facebook広告のボイコットに関する記事で、米国のモバイルFacebookユーザーを対象としたウェブ調査や、Facebookが報告した決算結果に基づくCPM推計値を用いたパスマティックスのデータを利用している。
さらにパスマティックスによれば、ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)は現時点で2230万ドル(約23億8360万円)をFacebookに費やしており、Facebookへの支出が20番目に多い企業だという。同社もコメントを拒否したがこの金額は不正確だと語った。Facebookへの支出額で100位以内に入ったメディアブランドのリストにはBuzzFeedやCBS、Spotify(スポティファイ)なども名を連ねている。
脱Facebookの兆しも
Facebookは今後もダイレクトレスポンス広告を配信する場所のひとつとなるだろう。ただし、サブスクリプションパブリッシャーたちは(費やすコストと購読者数の)適切なバランスを見つけ、「(問題があるにかかわらず)Facebookが自分たちのメディアプランに常に関与してるのはそこにユーザーがいるからだ」と言い訳をしながら利用することになる。
「そのバランスが見直されない限り、パブリッシャーはFacebookに読者を奪われながらFacebookにお金を払い続けるという無限のサイクルにはまることになる」と、広告費を慈善団体に寄付できるプラットフォームを手がけるグッドループ(Good-Loop)の創設者、エイミー・ウィリアムズ氏はいう。「私はパブリッシャーを責めたりはしない。敵が圧倒的な力をもっているなら、その敵と一緒に寝るのもありだろう。だが我々はFacebookが必ずメディアプランに関与するというこの悪循環から抜け出してみることができるのだ」。
Facebook広告のボイコットが、(マーケティング予算の削減を余儀なくされたときに社会問題への「意識の高さ」を示すのには役立つだろうが)過去の運動と同じ結果に終わるのではないかと懐疑的な目を向けている人たちは大勢いる。マーク・ザッカーバーグ氏は、ブランドがすぐに戻ってくると予想する一方で、メディアの監査や認定をおこなう業界団体であるメディア・レーティング・カウンシル(Media Rating Council)によるブランドセーフティ監査に同意した。パスマティックスの推定によると、米国でFacebook広告への支出が多い上位100社が同社の広告収入全体に占める割合はわずか6%だ。収益の大部分は、Facebookの精度の高い地域ターゲティングを必要とする数多くの中小企業からもたらされている。
もっとも、わずかながら変化の兆候も見られる。ボイコット運動に参加する広告主は増えており、彼らはFacebookに代わる手段を探し求めている。メディアエージェンシーのIPGメディアブランズ(IPG Mediabrands)は「責任感のある」メディアを購入するためのフレームワークを立ち上げた。グッドループは2016年10月の創立以来、さまざまな慈善活動に合わせて100万ドル(約1億円)以上を寄付しており、6月には対前年比で1000%の成長を達成している。ウィリアムズ氏によると、新型コロナウイルスが流行して以降、自ら問い合わせてくる見込み客の数が倍増したという。
ただし、パブリッシャーが自社のファネルでもっともアクティブな場所のひとつをあえて切り捨てようとしない限り、リーチとターゲティングにおいてFacebookより効果的な手段はない。
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:ガリレオ、編集:分島 翔平)