米国時間4月26日、スポーツ専門ケーブルテレビのESPNが、記者や司会者などおよそ100名の従業員を解雇したと報じられた。同社はこのところ、利用料収入の減少とスポーツ放映権の高騰に苦しんでいた。ESPNが安泰でないなら、どの企業も安泰でないだろう。
ESPNが安泰でないなら、どの企業も安泰でないだろう。
米国時間4月26日、スポーツ専門ケーブルテレビのESPNが、記者や司会者などおよそ100名の従業員を解雇したと報じられた。同社はこのところ、利用料収入の減少とスポーツ放映権の高騰に苦しんでいた。1年あまり前には、制作部門などの従業員およそ300名を解雇している。ESPNのプレジデントを務めるジョン・スキッパー氏は従業員宛ての声明で、同社が直面している現状を認めた上で、次のように語った。
「当社がこの数カ月間行ってきたコンテンツ戦略は、パーソナリティが司会を務める情報番組『スポーツセンター(SportsCenter)』や主要サブブランドが展開するデジタル戦略の融合に重点を置いたものでした。私たちはこうした取り組みをさらに促進し、そのペースを速める必要があります。(中略)そしていつもどおり、効率よく迅速に行動しなければなりません。ダイナミックに変化するには、多様性と価値にさらにフォーカスすることが必要です。そのために私たちは、アンカー、アナリスト、レポーター、ライターなど、実況放送に関わる人材を精査するという困難な仕事に取り組んでいます。目標を達成するには、こうした取り組みが欠かせないのです」。
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ESPN凋落の経緯
ESPNは、ニュース制作会社でありスポーツ放送局でもあるというユニークなポジションにいる企業だ。スポーツ放送のために、ESPNは年間19億ドルをNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の試合に支払っている。また、NBA(プロバスケットボール協会)やNCAA(全米大学体育協会)、そしてほかのスポーツリーグやスポーツ団体の試合を放映するために、数十億ドル規模の契約を結んでいることはいうまでもないだろう。
このおかげで、ESPNは長年にわたって大きな収益を上げてきた。ライブスポーツ番組は、人々がテレビで見たいと思っている数少ないコンテンツのひとつだ。メインチャンネルだけでも、ESPNはケーブルテレビと衛星放送の加入者から1人あたり7ドル以上の利用料を徴収している。おかげで、ESPNの番組を配信するテレビ局から、年間80億ドル以上のお金を稼ぐことができるのだ。多くの人がESPNはコードカッティング(ケーブルテレビを解約する動き)に影響されないと考える理由はここにある。
だが、時代は変化している。2013年以降、ESPNは消費者によるケーブルテレビ解約の影響を受けて、1000万人以上の視聴者を失った。当然ながら、この状況は同社の決算に悪影響をもたらしている。ESPNの親会社であるウォルト・ディズニー・カンパニー(The Walt Disney Company)のケーブルテレビ事業は、前四半期(2016年12月31日締め)の営業利益が8億6400万ドルとなり、前年同期比で11%下落した。ディズニーはこの原因をESPNの減収だと説明している。
「この原因は、スポーツを見ない有料テレビ利用者がESPNを解約していることと、ESPNの主な視聴者である若い男性の多くが昔ほどテレビにお金をかけなくなっていることの両方にある」と、テレビ業界のアナリスト、アラン・ウォーク氏はいう。
デジタル進出の現実
26日のレイオフは、ディズニーが指示したものではなくESPNが実施したものであり、ESPNの幹部らは、同社のビジネスを発展させるために変化が必要だと判断したと、ESPNの情報筋は述べている。同社は2016年、デジタル分野への大規模な投資を実施。看板番組の「スポーツセンター」でデジタル専用コンテンツの制作を増やし、「スポーツセンター」はインスタグラムでもっとも人気の高い動画アカウントのひとつとなった。また、モバイルデバイスでESPNのコンテンツを楽しむユーザーを増やすために、アプリをリニューアルしている。
だが、ESPNの不振は、ほかのメディア企業(特にほかのテレビ会社)が気づきはじめたある事実を示すものだ。テレビはいまでももっとも重要な収入源だが、得られる金額は徐々に減少している。ESPNなどの企業は、契約更新時期を迎えた利用者に料金の値上げを認めてもらうことで、ある程度のコストを埋め合わせられるかもしれない。だが、それだけでは足りなくなるだろう。
「ESPNがうまくできないのなら、いったい誰ができるというのだろうか」とあるライバル企業の幹部は語っている。「料金をいくら上げても、利益が減る傾向は進んでおり、終息の兆しはない。経営陣はみな、将来の現実を目にしているのだ。そこで誰もが、収入源をふたつにする取り組みを熱心に行っている。ESPNは特にそうだ。だが、デジタル関係の業界や企業で、メインの収入源の代わりとなるほどお金を払ってくれるところはない」。
様変わりする稼ぎ方
ESPNと同じように、多くのテレビ企業がデジタルへの対応を急速に進めている。大手テレビ局のHBOなど一部の企業は、ケーブルテレビや衛星放送にお金を払わなくなった人々にリーチしようと、OTT(オーバー・ザ・トップ)サービスを展開中だ。AMCネットワークス(AMC Networks)などの企業は、ニッチな分野で有料制ストリーミングサービスを始めている。一方、NBCユニバーサル(NBCUniversal)やA+Eネットワークス(A+E Networks)などの企業は、いまもオリジナルのデジタルコンテンツを制作している。こうしたコンテンツのなかには、Snapchat(スナップチャット)などのプラットフォームから資金提供を受けているものもある。
問題は、デジタルパブリッシャーなら以前から知っているとおり、オンライン動画でお金を稼ぐ方法が、テレビとは似ても似つかないことにある。
「マルチプラットフォームのメディア企業になると口にするのはすばらしいことだ」と、前述のライバル企業の幹部はいう。「だが、パブリッシャーであることの経済的側面は、テレビネットワークであることの経済的側面とは違う。我々の誰もが、いまよりはるかに無駄を減らし、効率を高めることを求められる。収入は下がるが、コストもそのぶん下がるのだ。有名キャスターのキース・オルバーマン氏やビル・シモンズ氏のような人たちが2000万ドルも稼げる余地は、ここにはない」。
熾烈なデジタル競争
消費習慣の変化も、大手メディア企業がデジタルと従来型のリニアTVとの距離を縮めざるを得なくなった原因だ。かつてデジタル部門の人たちは、従来のテレビ部門の人たちとは離れた席に座っていた。しかし現在では、このふたつの部門の統合が進んでいる。ESPNでさえ、デジタル部門のスタッフが「スポーツセンター」の制作会議で一定の役割を担っているほどだ。
難しいのは、デジタルでは競争がはるかに激しいことだ。「スポーツ分野で世界のリーダー」といわれるESPNでさえ、FacebookやSnapchat、それにブリーチャー・レポート(Bleacher Report)やVox MediaのSBネーション(SB Nation)といったスポーツ専門パブリッシャーとの競争にさらされている。
「現実には、実に多くの企業がデジタルに進出している」とメアリー・スコット氏はいう。同氏は、スポーツとエンターテイメント分野のマーケティングを手がけるユナイテッド・エンターテイメント・グループ(United Entertainment Group)で、グローバル統合コミュニケーション担当プレジデントを務めている。「競争は熾烈だ。EPSNはもちろん魅力的なコンテンツをもっており、もっとも重要な企業のひとつだ。だが、デジタルでどうしても買いたくなるコンテンツかと言われれば、そうとは言いきれない」。
Sahil Patel(原文 / 訳:ガリレオ)