ビジネスメディアのクォーツ(Quartz)は、AppleがiOS11のアップデートにAR機能が導入されることを発表してから1週間で、同アプリのダウンロード数が1万回に達した。高級ブランドを中心に、ARに強い関心があるという。同社では、ストーリーを魅力的に伝えることのできるARに新たな可能性を見出そうとしている。
ビジネスニュースサイトのクォーツ(Quartz)は、読者が拡張現実(AR)に強い関心を持っていることに気づきはじめた。クォーツによると、2017年9月19日(米国時間)にAppleが「iOS 11」のアップデートにAR機能が含まれることを発表した翌週、クォーツアプリは1万回ダウンロードされたという。その結果、全デバイスを通じた同アプリのダウンロード数が合計約78万に達した。
2016年2月に公開されたクォーツアプリは、ボットを使ったメッセージアプリにヒントを得て、半分は自社サイトから、残りの半分はほかのWebサイトからのニュースを配信している。アップデート以来、ニュースアイテムの一部には、読者がインタラクティブに操作できるAR機能が挿入されている。
これまでのところ、たとえば、土星探査機「カッシーニ」、1980年に楽器メーカーのローランドが発売したリズムマシン「TR-808」、ロゼッタ・ストーン、テスラ モデル3、ベルリンの壁などの画像にAR機能を挿入して投稿してきた。ニュースのすべてがARに適しているわけではないが、カッシーニの実物大のサイズやスケール、アナログなリズムマシンを見られることで、読者のアプリ内体験を充実させている。
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吉か凶かはまだ不明
同社のクリエイティブディレクターのマイケル・ドラン氏は、「ARはすごくいい体験になるか、あるいはどうしようもなくひどいものになるかのどちらかだ」と言う。「ストーリーを伝えられるなら、試してみるのには面白い。アプリに追加しているので、読者の体験を邪魔することはない」。
クォーツアプリで登場したベルリンの壁(西ドイツでは「反ファシストの防護壁[Antifaschistischer Schutzwall]」として知られている)。読者はアプリ内で画像を自由に動かすことができる。
ストーリーにARが合うかどうかを判断したあと、AR処理を施すオブジェクトが特定され、スキャンされる。場合によっては、すでにスキャン画像が存在することもある。たとえば米航空宇宙局(NASA)から入手できるカッシーニ探査機などだ。その工程で、オブジェクトをリアルに見せつつ、美しさも追求する、バランスを取っていく。
クォーツの広報担当者によると、アプリ内でARオブジェクトを見る機会があった読者の3分の2は、ARビューアーで画像を見続けたという。同社は正確な数値は特定していないが、平均して同アプリのアクティブ・ユーザーは1日に2回アプリをチェックし、およそ3分程度アプリを使っているという。一方、ブリーチャー・リポート(Bleacher Report)のユーザーは、1日あたりの利用時間が5分だ。クォーツによると、アクティブ・ユーザーのうち35%はボットから紹介されるすべてのコンテンツに目を通しているそうだ。
ARで先をいく
新しいテクノロジーがすべてそうであるように、ARの測定方法には改善の必要がある。クォーツでは、読者が指で画像をズームしてARを楽しんでるときに、オブジェクトを回転した回数を追跡することはできるが、この情報がどれだけブランドにとって有効か判断している段階だ。
ドラン氏は、Appleのアップデートにより、特に自動車や高級ブランドが興味を見せたと述べている。「米国(と欧州、中東、アフリカ)から多くの関心が寄せられている。我々は、何がよいAR体験なのか、クライアントと議論しているところだ。ブランディングとARを統合するステージにある」。
同社のグローバル戦略担当シニアバイスプレジデントのジョイ・ロビンズ氏は、AR体験をよくするにはどうしたらよいかをクライアントに助言し、エージェンシーに対してはテクノロジー面の教育をしているという。ボット分野においてもクォーツは、アドバイザー的な役割を担っており、クライアント向けツアーを実施したり、ブランド向けにボットの活用法についてイベントで講演したりもしている。「我々にとってARは、(ボットと)同じレベルの影響力を確立するチャンスとなる」。
クォーツのAR機能は、ふたりの開発者をメインに、編集チームのほか、デザイナー、テスター、研究者、製品マネージャーらのサポートを得て実現されている。2017年末には200人体制にまで拡大する予定だ。
VRは別もの
クォーツは、Appleの「ARKit」テクノロジーを利用した最初のアプリのひとつだ。ワシントン・ポスト(The Washington Post)も、ARを駆使したシリーズを展開している。
パブリッシャーはこれまで、仮想現実(VR)のほうに関心を示してきたが、VRヘッドセット向けのコンテンツを作ることはコストがかかるだけでなく、ARより多くの開発作業が必要になる。ドラン氏は、「我々は、ARとVRはふたつのまったく違うものと認識している。ARはストーリーを魅力的に見せるものだが、VRがストーリーそのものだ」と語る。「VRをやるかについては、何も議論していない」。
カッシーニ:NASAのカッシーニのモデルを見れば、土星表面の画像撮影に使われたレーダー盤を含め、探査機のメイン構造がわかる。
Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)