NFT(非代替性トークン)やメタバース、仮想通貨(クリプトカレンシー)については依然、懐疑論が根強い。そのため、ブロックチェーンに多少なりとも関心を抱くパブリッシャーはどこも、オーディエンスを自身のブロックチェーン試行の顧客、参加者にするためにまず、人々への教育から始める必要性を痛感している。
NFT(非代替性トークン)やメタバース、仮想通貨(クリプトカレンシー)については依然、懐疑論が根強い。
インターネットを日常的に利用する多くの人々が、お金をだまし取られるのではないかと訝しみ、NFTでデジタルアートを買いたいと思う理由もわからない、というのが現状だ。NYの仮想通貨取引所ジェミニ(Gemini)の調査報告「2021年度クリプト実態調査(2021 State of Crypto)」によれば、2021年初頭時点で、何らかの仮想通貨を所有する米国民は、人口の14%でしかなかった。
そのため、ブロックチェーンに多少なりとも関心を抱くパブリッシャーはどこも、オーディエンスを自身のブロックチェーン試行の顧客、参加者にするためにはまず、人々への教育から始める必要性を痛感している。たとえば、デジタルメディア企業リーフ・グループ(Leaf Group)は、NFTコレクションとアート作品、それぞれへの投資を比較し、自社ネットワークに属するアーティストらへのアピールに努める一方、ライフスタイルパブリッシャーのブリット+Co(Brit+Co)とスポーツパブリッシャーのターナー・スポーツ(Turner Sports)も、オーディエンス教育と報酬付き参加を通じて、ブロックチェーンに対する恐怖心の軽減に努めている。
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無論、ブロックチェーンの仕組みを詳しく知りたいと、すべてのオーディエンスが思っているわけではない(あなたもそのひとりなら、ブロックチェーンについてわかりやすく解説したこちらのページを)。とはいえ、この先NFTをお気に入りのパブリケーションから購入したり、メタバースでのイベントに参加したりするつもりなら、NFTが自身の生活に及ぼすさまざまな影響についての理解は必須となる。
「ブロックチェーンはいつか必ず各業界を網羅することになるだろうが、これを受け入れる人数を一気に増やすには、潜在的リスクを上回る身近な便利さを実感してもらうしかないと思う。かつてオンラインショッピングにクレジットカードを使うなんて、頭がどうかしているとしか思えない、という考え方が支配的だったが、そのときと同じだ」と、リーフ・グループCEO、ショーン・モリアーティ氏は話す。「ブロックチェーンテクノロジーの利用法は無限だが、受入率を押し上げるのはやはり、手近な例だと思う」。
ブロックチェーンを身近に感じさせる
リーフ・グループは実際、ブロックチェーンを自社のビジネスにおいてもオーディエンスにとっても有効利用できる位置にある。いずれも人気のメディアブランド、ハンカー(Hunker)とウェル・プラス・グッド(Well+Good)のパブリッシャーであり、アートマーケットプレイスのサーチ・アート(Saatchi Art)およびソサエティ6(Society6)の運営者でもある同社にとって、コマースは事業の核をなす。そして、デジタルアートのNFTへの変換は理に適っている。NFTと聞いて、人々が最初に思い浮かべるのが絵やデジタル絵画、またはイラストである事実を鑑みれば、なおさらそう言える。
同社は初のNFTコレクション、ジ・アザー・アヴァターズ(The Other Avatars)をサーチ・アートのブランド名を冠して2022年前半に投入し、まずはサーチ・アートネットワーク所属アーティストらによるフィンセント・ファン・ゴッホの自画像を再構築した作品を発表するという。
「『このJPEGは無料で手に入るのに、どうしてわざわざ?』と揶揄する声もある。しかしながら、たとえば、モナ・リザの複製印刷は? 簡単に手には入るが、それは本物のモナ・リザではない」とモリアーティ氏は話す。アートバイヤーとアーティストに対して、デジタルアートはフィジカルなアート作品と同じく、歴とした投資対象なのだと納得させることが鍵だと、氏は言い添える。
リーフ・グループのサーチ・アートは、実績と人気の有無にかかわらず、すべてのアーティストの作品をキュレートし、販売することで知られている。これはつまり、自社市場で売れるか否かは、アーティストが誰かではなく、作品自体の質で決まる、という姿勢を前面に押し出していることを意味する。同社はこれと同じ姿勢をNFTコレクションにも持ち込み、自社ネットワークのデジタルアートにはフィジカルアートと寸分違わぬ技術と熱意が込められている、という点を強調するとともに、専門家を起用し、厳しい目で作品を吟味していくという。そうすることで、同社でのNFT購入品は、フィジカルアート作品と同じく、専門家の目を通じてしっかりとキュレートされていると、信頼と安心感をバイヤーに抱かせられるのだと、モリアーティ氏は話す。
ただし、NFTの購入も作成も、実際のプロセスはクレジットカードの利用ほど簡単なものではなく、そのためサーチ・アートのGM、ウェイン・チャン氏と、チャン氏が率いるチームは、ネットワークに属するアーティストらが学ぶための、そしてバイヤーが基本を知るためのガイド作りに取り組んでいる。NFTアセット(資産)とアーティストが手にする対価のどちらも、同社にとって収益性の高い対象となりうるため、同ガイドには仮想通貨ウォレットの作り方と売買するアセットをハッキングから保護する方法が、いずれも記されている。
「これは一過性のプロジェクトではない」とチャン氏。「もっと大きなロードマップがある。これをメイン市場に組み入れるという大きな構想がある」。
教育を通じてクリプト初心者に自信を持たせる
ブリット+Coがブリット+Co読者に仮想通貨について教えるカンファレンスの開催を始めたのは4年前のことで、同社は2022年もこの取り組みを続けていくと、創業者でCEOのブリット・モーリン氏は話す。
ブリット+Coは受講者がレッスンをひとつ終えるたびにトークンを発行しており、そうしたゲーム感覚を加えることで、受講を途中で止める人数をできるだけ減らすよう工夫している。同様の戦略はクリプトパブリッシャーのディクリプト(Decrypt)も実践しており、同社は2021年前半、自社アプリの使用を促すべく、報酬トークンを導入した。
「正直なところ、クリプト、NFTにはインターネット界に起きるすべての新たな大波と同じく、金銭的利益が大いに見込める。私としてはそれだけでも、女性と非白人にはとりわけ、クリプト、NFTに対する理解をぜひ深めてもらいたいと強く思っている。というのも、これは公正な扱いを受けていない集団が数兆ドル規模の新業界に何の妨害も受けずに入れる、歴史上初めての機会だからだ。では、なにが足かせになっているのか? ようするに、皆よくわかっていないからなんだ」と、モーリン氏は話す。モーリン氏は先ごろ、クリプト企業の援助にフォーカスする投資会社を共同設立した。
ターナー・スポーツも同じく、人々にNFT投資を促し、さらにはほかのNFTコレクターとの交流を促進するべく、ゲーム感覚を取り入れている。ファンタジースポーツとスポーツ賭博の両愛好家にはクリプト投資家およびNFTコレクターと同様の性向がある点を踏まえ、同社デジタルリーグビジネスオペレーション、グロース&イノベーション部門SVPのヤン・アディジャ氏は、両者をつなぐかけ橋を見つけたいと話し、実際、現実世界でも価値を有するNFTベースのゴルフゲームを開発している。
アディジャ氏は米DIGIDAYポッドキャストで次のように語っている。「それもまた仮想通貨の面白いところだ。ユーザーはゲームやスポーツに勤しむだけでなく、同時にそれに付随する資産価値も保有できる」。
[原文:‘Convince them that this is real’: How publishers are getting audiences to adopt the blockchain]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)