英大手メディアのスカイ(Sky)は、VR(仮想現実)に積極的に取り組んでいる。新たな視聴体験を生み出そうと、VRに探りを入れるメディア企業は多いが、大々的に投資するところはわずかしかない。そんななか、スカイはVR分野の先駆者になることを目指している。2番手になるつもりはないらしい。
スカイは2016年2月、エンターテインメント、ニュース、スポーツのVR体験を創造する、10名の専従チーム「スカイVRスタジオ(Sky VR Studio)」を開設。数々の受賞歴をもつVRディレクター、リチャード・ノックルズ氏をリーダーに迎え、開設以来、スポーツファン向けに多数のVRプロジェクトを生み出してきた。
英大手メディアのスカイ(Sky)は、VR(仮想現実)に積極的に取り組んでいる。新たな視聴体験を生み出そうと、VRに探りを入れるメディア企業は多いが、大々的に投資するところはわずかしかない。そんななか、スカイはVR分野の先駆者になることを目指している。2番手になるつもりはないらしい。
スカイは2016年2月、エンターテインメント、ニュース、スポーツのVR体験を創造する、10名の専従チーム「スカイVRスタジオ(Sky VR Studio)」を開設。数々の受賞歴をもつVRディレクター、リチャード・ノックルズ氏をリーダーに迎え、開設以来、スポーツファン向けに多数のVRプロジェクトを生み出してきた。
最初の2本は、去る3月のF1開催中に公開。各2分ほどの360度動画はFacebook上で公開され、視聴者をピットレーンやチームガレージ、そしてコース上へと引き込んだ。動画はそれぞれ、約250万回以上再生されている。
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イングランドのサッカーリーグ、プレミアリーグとボクシングも、「スカイスポーツ(Sky Sports)」がVRで注目を集めるために目をつけたジャンルだ。同チャンネルは現在、マンチェスター・シティFCのようなデジタルに積極的なサッカークラブと協業している。
4月に公開された、スカイスポーツ25周年を記念した動画では、デビッド・ベッカム氏がVR動画デビュー。320万回以上再生された。さらにベッカム氏の新作VR動画が、「スカイVR(Sky VR)」アプリのリリースに合わせて、公開される予定だ。
スカイスポーツは、英国の自転車選手で、ツール・ド・フランスの優勝者、クリス・フルーム氏にも密着取材を敢行。また、英国のボクシングヘビー級チャンピオン、アンソニー・ジョシュア選手が主役のVR動画では、米国人のチャールズ・マーティン選手との4月の対戦の舞台裏を披露することになる。この対戦を予告する360度動画は、Facebookで22万5000回以上再生された。
ノックルズ氏は、VRが主流になるにはまだ時間がかかるかもしれないが、決して一時の流行で終わることはないと考えている。重要なのは、トップが乗り気になることだ。ノックルズ氏は米DIGIDAYに対し、「我々は、スカイがVR分野のパイオニアになることを望んでいる。それが我々の将来を保証する道になると考える」と語る。
しかし、ここまでの道のりは決して楽ではなかった。今回は、スカイのVRチームが学んだ教訓を紹介する。
重いヘッドセットには短い動画が効果的
スカイにとってはいまのところ、短い動画のほうが長い動画よりも効果的だ。「長い動画を試したい人はたくさんいるだろうが、長時間装着するのに適したヘッドセットがまだない」と、ノックルズ氏は説明する。ただし、技術が進歩して、オキュラスリフト(Oculus Rift)などの市販されているヘッドセットが軽量化され、装着時の不格好さも改善されれば、状況は変わると同氏は予想している。
現在のヘッドセットでは、VR動画は5分以内に収めるのが得策だ。ボクシングのジョシュア選手の動画も5分程度になる。「我々の狙いは、ジョシュア選手を身近に感じてもらうこと。このドキュメンタリーは必ずそうなる」と、ノックルズ氏は期待している。
VRディレクターは演劇プロデューサー
VR動画を制作する際に留意すべきは、視聴者の目線をもはや、従来の映像のようにはコントロールできないということだ。「コンテンツプロデューサーとして我々は頭をVR用に切り替え、演劇的な制作スタイルを取り入れる必要があるだろう」と、ノックルズ氏は語る。
360度動画の撮影の際は、複数のカメラを接続・固定し、編集で映像をつなぎあわせることで、VRビューが生み出される。これが、専門用語でいう「エクイレクタングラー(正距円筒図法)」のパノラマだ。「カメラはすべてを見ている。作り手は、特定のものにオーディエンスの注意を向けさせるのではなく、何を見るかを自由に選ばせる」と同氏。そのため、演劇の舞台と同じようにシーンを整え、どの方向を見ても興味深い映像にすることが不可欠だ。
VRは接写がすべて
没入感がVRの魅力なので、ディレクターはカメラを被写体に近づけることにこだわる。被写体の動きにどこまで近づけるかが、親密感を左右するからだ。
超高速で動く被写体は何であれ映像に収めるのが大変で、自転車競技やF1レースといったスポーツはとても難関だった。この2つのジャンルでは、スカイのVRチームは映像に「浮遊感」を出そうとさまざまな方法を試してきた。
視聴者に被写体の動作の一体感を感じてもらうため、カメラは乗り物に肉薄しつつも、映像酔いを起こさないようにブレを排除する必要がある。自転車選手の撮影では、専用の器具でカメラとカメラマンを自転車の後部に固定し、映像を安定させる工夫をした。
予想外な天候に弱いVR撮影
従来の映像制作では、想定外の天候への対応に関しては蓄積されたテクニックやノウハウがある。快晴の青空と輝く陽光は、従来のビデオカメラ撮影にとって理想的だが、VRの場合は考慮すべき難題が生じることがある。
ほかのケースでは、ツール・ド・フランス会期中にチーム・スカイ(Team Sky)を追う動画に、ノックルズ氏が機材を抱えた撮影クルーを引き連れて山に登ったときのことだ。この撮影では、見渡すかぎりの絶景を収めることが目的だったが、彼ら一行が頂上に着いたとたん、周囲は霧に覆われ、景色が暗くなってしまったという。従来の映像のディレクターなら、照明一式をさっと取り出し、シーンを明るくして撮影できたが、VR映像の場合、照明も照明係も映り込んでしまうため、いつものテクニックは使えなかったという。
Jessica Davies (原文 / 訳:ガリレオ)