HQトリビアの登場からおよそ8カ月が過ぎたが、いまだに数百万人が日々利用している現状を受け、HQは、それが単なる口コミによるヒットではなく、現実のビジネス、メディアの帝国になることを証明しようと頑張っている。
2017年秋以降、「HQトリビア(HQ Trivia)」が大人気となっている。
エージェンシーの従業員たちは、午後の電話会議が中止になって毎日3時からのライブ配信が見られるようになればいいのにと願うほどだ。無料のモバイルアプリは平日の気晴らしだけでなく、実際に賞金を獲得するチャンスも提供する。
HQトリビアの登場からおよそ8カ月が過ぎたが、いまだに数百万人が日々利用している現状を受け、HQは、それが単なる口コミによるヒットではなく、現実のビジネス、メディアの帝国になることを証明しようと頑張っている。「キム・カーダシアン:ハリウッド(Kim Kardashian: Hollywood)」や「フォートナイト(Fortnite)」のような人気モバイルゲームがアプリ内課金で金のなる木になったのに対し、HQトリビアはこれまで、広告ビジネスに依存してきた。
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初期のパートナーたちは、スポンサードゲームが成功しているのは、儲かりそうなビジネスチャンス(シャイニー・オブジェクト)だからではなく、現実に売上増加をもたらすからだと言っている。これこそまさに、HQの共同創設者で最高経営責任者(CEO)のルス・ユスポフ氏が聞きたいことだ。
While some tech companies are selling your private data, tweaking elections or being called to appear before Congress, we're focused on making advertising something that people actually don't mind.
— Rus (@rus) 2018年4月10日
テック企業にはプライバシーデータを売ったり、選挙で裏工作をしたり、議会に呼び出されたりしているところがあるが、我々は、人々が自然に受け入れられる広告のようなものを作ることに焦点を絞っている。
収入戦略は「互恵関係」
HQの当面の唯一の収入戦略は、ゲームの権利獲得でブランドが料金を支払うスポンサーシップに似ているものだ。たとえば、NBCは料金を払って音楽オーディション番組「ザ・ボイス(The Voice)」でその権利を買い取った。HQのプレイヤーは5月14日(米国時間)、賞金5万ドル(約560万円)とザ・ボイス決勝戦へのペア旅行を獲得するチャンスを得た。
HQでのザ・ボイスゲームは、東部標準時の午後11時30分に配信されたが、140万人のプレイヤーを集めた。NBCの18~34歳の視聴率、ならびに12~17歳の視聴者数は、今シーズンの生番組開始以来の月曜日の放送では最高の数字を叩き出したと、NBCエンターテインメント(NBC Entertainment)のデジタル担当エグゼクティブバイスプレジデントのロブ・ヘイズ氏は語る。
ヘイズ氏は、NBCとHQの取り組みを説明するのに「スポンサーシップ」という言葉を使おうとはしなかった。ヘイズ氏はむしろ、この契約は互恵関係だと見ている。
「あれはスポンサーシップではなく、素晴らしいマーケティング計画だった。双方ともに得るものがあった。(HQが言っているように)資金提供をするなら、こういうやり方はひとつだけではない」と、ヘイズ氏は語る。
That time that @blakeshelton and @kelly_clarkson we're on @hqtrivia with @ScottRogowsky! I got eliminated on a question about the Voice, which I didn't watch because I don't have cable! pic.twitter.com/bhcg1MyrsB
— Sarah Carmichael (@SarahCarms) 2018年5月15日
いま、@blakeshelton と @kelly_clarkson と @ScottRogowsky と一緒に @hqtrivia に挑戦中! ザ・ボイスについての問題で脱落しちゃった。番組を見てないから。だってケーブルTVがないんだもん!
ヘイズ氏は、これほどのオーディエンスエンゲージメントでさえ、惹きつけるのに苦労はしなかったという。
HQは「台本を用意していない。スタジオと制作会社を持っていれば、かなり簡単にやれる。我々は制作すらしていない。彼らがしたのだ」と、ヘイズ氏は話す。
ユーザー最適化された番組
実際、HQの親会社インターメディア・ラボ(Intermedia Labs)は、モバイルとそのオーディエンス向けに最適化された番組を作る能力があることを証明してきた。3月に配信したHQのナイキ(Nike)用番組は、ピーク時には170万人が視聴し、その過半数は20分間の放送をすべて見ていた。賞品のなかに特製モデルのスニーカーがあったことで参加意欲が高まった。ナイキのグローバルコーポレートコミュニケーションディレクターを務めるサンドラ・キャレオン・ジョン氏は、HQとの関わりはナイキにとって「成功」だったという。
「ソーシャル内での感情は好意的だった。HQトリビアの最初の賞品が特別仕様の『エア マックス270(Air Max 270)』だったので、世間は騒いだ。全体として、『エア マックスの日(3月26日)』の前後にブランドを際立たせる効果的な取り組みだったと思う」と、キャレオン・ジョン氏は語った。
お金だけでなく、ユニークな賞品も人々がここに戻って来る理由のひとつだ。こうした特製品は、アドバイヤーたちがSnapchat(スナップチャット)で成功するコマース戦略と呼ぶものに似ている。
「お金をもらえることは素敵だし楽しい。『ミレニアル世代は体験が大好き』と言われるが、我々は無料の限定版の賞品をまだ愛している」と語るのは、ローンチキャピタル(Launch Capital)のベンチャーキャピタリスト、ジェイ・カプーア氏だ。カプーア氏は、以前は定期的にHQをプレイしていたが、いまはスポンサードゲームだけをプレイするようにしている。
While 115M+ ppl tuned in to watch #SuperBowlLII, almost 2M people tuned in to watch @hqtrivia! That's insane!
Congrats to all 168 winners and best wishes to my fellow #Giants who still don't know who to root for in this Super Bowl 😢🤷🏽♂️#HQTrivia Tracker below, as always: pic.twitter.com/MwUKPB1ZWi
— Jay Kapoor (@JayKapoorNYC) 2018年2月5日
#SuperBowlLII は1億1500万人が見たが、@hqtriviaも200万人ほどが見た! 信じられない!
168人の勝者たちよ、おめでとう! そして、今年のスーパーボウルで誰を応援するかいまだにわからないという仲間の #Giants の幸せを祈る。#HQTrivia のトラッカーはいつもどおり
「はるかに質のよい注目」
HQの広告購入価格は契約の範囲によって異なる。ワーナー・ブラザース(Warner Bros.)は、3つの映画のスポンサードゲームで300万ドル(約3億3000万円)を支払ったと伝えられている。NBCは、正確な支払い額は明かさなかったが、5万ドル(約560万円)の積立金と決勝戦までの旅費全額を少なくとも部分的に資金提供していると話した。
だが、こうしたスポンサーシップの成功がどれくらい続くかはわからない。HQは当面、ワーナー・ブラザーズの3つの映画はすべて、HQとの統合後の公開第1週目のボックスオフィス売上で第1位を記録したと多いに宣伝できる。ナイキのエア マックス270もまた、今年もっとも売れたスニーカーの上位5つに入っている。
NBAのシカゴ・ブルズ(Chicago Bulls)のデジタルコンテンツコーディネーターで、HQをよくプレイするカミール・ストライチャーズ氏は、「私がスポンサーなら、断然、テレビよりHQにお金をかけるだろう。特に上手くやってくれるのなら。はるかに質のよい注目を集められる」と語る。
直面している複数の課題
目前に待ち構える問題のひとつに、HQアプリのダウンロード数の減少がある。アプリ分析サービスを提供する企業、アップトピア(Apptopia)によると、HQアプリは公開以来、770万ダウンロードを記録した。2018年に入ってAndroid版が登場するとダウンロード数は跳ね上がったが、週ごとのダウンロード数は4月以降減り続けている。
さらにHQは、公開以来ずっと、類似アプリとの競争に直面している。HQトリビアの類似アプリのメーカーは最近、「マジョリティー・ルールズ(Majority Rules)」というゲームを公開した。「グラビティー(Gravy)」というショッピングゲーム番組もある。Facebookもまた、クリエーター向けのゲーム番組用フォーマットを発表している。HQの以前からのライバルであるザ・キュー(The Q)は、パンドラ(Pandora)などの広告主と独自に契約した。
パンドラの編集担当バイスプレジデント、ビル・クランドール氏は次のように語る。「ザ・キューのトリビアは、熱心な音楽ファンが我々のプラットフォーム上で音楽を褒め称え、そのエキサイティングな進化について知れる瞬間に、彼らにリーチできる素晴らしい場所だ。ワン・ダイレクション(One Direction)とブラック・ウフル(Black Uhuru)についての問題の両方に正解する人がいるなら、我々は惜しみない賛辞を送るだろう」。
パンドラがHQと手を組むことを考えているか、という問いに対して、クランドール氏はコメントを拒否した。
HQでの広告の未来
NBCではHQとのさらなる契約や別のトリビアアプリ配信は予定していないが、このフォーマットには今後も注目し続けるつもりだ、とヘイズ氏はいう。
「我々はあらゆる人々と話し合いをしている、と言っておくのが安全策だろう。同じ種類のインフラストラクチャーやサービスを提供できる企業が世の中にあることを我々は知っている。正直な話、我々もトリビア空間にいて、同じことを自身でもできたのだ」と、ヘイズ氏は言い、NBCが2013年に放送した「ザ・ミリオン・セカンド・クイズ(The Million Second Quiz)」に言及した。
一方でHQもスポンサー付きゲームの割当数を決めておらず、主にスポンサーから声がかかるのを待っている状態だ。HQでの広告の未来について、HQのチームは、違う種類のアプリや製品の収益化を検討していると話す。
クリエイティブエージェンシーのコードワード(Codeword)で上級編集者を務めるセージ・ラザロ氏は、自身のクライアントのためにHQのスポンサーシップを検討しているという。ラザロ氏は、プレイヤーにとってもブランドにとってもメリットがあるので、この契約はデジタルメディアの広告オプションのなかでユニークだと思っている。
「最初の大流行が収まってからプレイするのをやめた人もたくさん知っているが、HQはずいぶん改良されていると思う。スポンサーシップは単なる広告とは違ってユーザー価値を追加する。人々が合図とともに瞬間的な判断を繰り返すこういうゲームでは、これがとても重要だ」と、ラザロ氏。
スケールビジネスの段階
HQはひとつのアプリの成長に焦点を絞ってきたが、違う体験も提供しはじめている。スコット・ロゴースキーはメインゲームのレギュラーホストを務め、オリジナルホストのひとりでもあるシャロン・カーペンターは現在、英国版HQのホストを務めている。5月にはHQにとって初のバーチカルとなる「HQスポーツ(HQ Sports)」をローレン・ガンビーノを迎えて開始した。
「ほかの多くのスタートアップと同様に、彼らはまだスケールビジネスの段階にいるというのが(HQに対する)私の見解だ」と、NBCのヘイズ氏は語る。「彼らにはフォーマットがある。いまゲームをプレイしている人のためのものか、新しい視聴者のためのものかはともかく、近いうちに彼らが新しい何かを思いつくことは間違いないだろう」。
Kerry Flynn(原文 / 訳:ガリレオ)