新型コロナウイルスの感染拡大やロックダウンの時期は国によってさまざまで、オーディエンスの動向の変化のタイミングも地域ごとに異なる。だがヴォーグは、オーディエンスの行動パターンを分析。その結果に基づき、グローバルのマーケティング活動を変更した結果、記録的な数のオーディエンスの獲得に成功したのだ。
コンデナスト(Condé Nast)が26カ国の市場で展開するグローバル雑誌、ヴォーグ(Vogue)。2021年もコロナ禍が続くなか、同誌は世界中のオーディエンスに共通する重要な類似点とその活用方法を見出している。
新型コロナウイルスの感染拡大やロックダウンの時期は国によってさまざま。それゆえ、オーディエンスの動向の変化のタイミングも地域ごとに異なる。だが、3年以上にわたってヴォーグインターナショナル版のオーディエンス開発を担当してきたサラ・マーシャル氏のチームは、オーディエンスの行動パターンを分析し、日常的な習慣から何を期待し、何を嫌うのか、その傾向を把握しようと努めてきた。同氏のチームはこれらの行動パターンの分析結果に基づき、グローバルのマーケティング活動を変更した結果、記録的な数のオーディエンスの獲得に成功した。
コロナ禍で一時読者は減少
コンデナストが出版しているヴォーグは、米国版やフランス版、日本版、イタリア版をはじめとする11のバージョンに分かれる。それ以外にも、他社と共同で出版するエディションが3種類、ほかのパブリッシャーにライセンス提供している国際版が15種類存在する。マーシャル氏によると、各地域版のウェブサイトへの2020年11月の合計トラフィックは、前年比で40%増加し、過去最高となる5800万人のユニーク訪問者数を記録している。米国版だけでも、同月に1600万人のユニーク訪問者を集めた。
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マーシャル氏は、オーディエンスの行動における最大の変化のひとつとして、調査開始から2週間、夕方になると読者数が全サイトで減少していた点を挙げる。「2019年の時点では、国を問わずあらゆるヴォーグサイトで、ロイヤルオーディエンス(毎月4回以上同じヴォーグのサイトを訪問しているユーザー)とそれ以外のオーディエンスの両方で、トラフィックのピークは夜の10時だった」。
だが、2020年の第12週および第13週(3月16日および23日の週)には、ヴォーグのサイトを訪れる人が激減した。理由として、新型コロナウイルス関連のニュースの閲覧が増えたことで、ニュースサイトに読者が流れたためと考えられる。
ヴォーグ・スペインの読者数。2020年第11、12、13週の夕方の読者数が減少し、14週目に再び増加に転じている(コンデナスト提供)
ヴォーグの10サイトにおける平均セッション数。2020年3月から8月の夕方のセッション数が減少している(コンデナスト提供)
「イタリアやスペイン、フランスでは当時すでに厳しいロックダウンがおこなわれていた。その後イギリスと米国でロックダウンが始まったとき、読者が同様の動きを見せることはあらかじめ予測された。ただし、より俯瞰的に状況を把握できるようになるまでには数週間かかった」とマーシャル氏は語る。
行動の予測と興味の追跡
マーシャル氏は当時、ヴォーグインターナショナル版のデジタル編集者と毎日話し合い、「オーディエンスの行動を予測する」ことに重点を置いた活動に取り組んでいた。そして、これらのオーディエンスが2週間ほどで戻ってくることを分析結果から確信した。マーシャル氏は2020年5月以降、1カ月半にわたってあふれかえるパンデミック関連のニュースに飽きたオーディエンスが「逃避」すべくコンテンツを探すようになり、ヴォーグのトラフィックの急増につながったと見ている。
米国版ヴォーグでコンテンツ戦略担当責任者を務めるアンナ・リサ・ヤブズリー氏によれば、5月にはインターナショナル版のサイトのトラフィックでも同様のパターンが見られたという。同氏は「メットガラ(NYのメトロポリタン美術館で開催されるファッションイベント)がおこなわれる5月は、例年トラフィックが非常に多くなる。だが2020年はガラ自体が中止になったにもかかわらず、トラフィックが非常に多かった」と語る。このときヴォーグは、過去のメットガラを振り返るコンテンツを公開しており、2020年でもっとも多いトラフィックを記録したという。
また、マーシャル氏のチームは、1日のさまざまな時間帯でオーディエンスがどういったコンテンツに興味を示しているか追跡を開始。SNSのエンゲージメントや検索キーワードのデータを集めた結果、朝にはファッション業界の最新情報を、夕方にはよりリラックスできるような多様なライフスタイル関連のコンテンツを求めていることが分かった。
慈善事業や文化、ファッションの歴史、サステナビリティ、エシカル商品のコンテンツはよく読まれており、検索数も多かった。その調査結果を受けた編集部は、SNSをはじめとするさまざまなチャネルで戦略的にコンテンツ構成を組み変え、適切なタイミングで提供することでオーディエンスを増やすことに見事成功したのだ。
情報は広告主とも共有
メディアコンサル企業クォンタムメディア(Quantum Media)のプリンシパルであるエイバ・シーブ氏は、インターナショナル版を基軸に各国版のオーディエンス戦略を練るというのはあまり一般的なやり方ではないとしつつ、ヴォーグの独特なグローバル展開は奏功し、成功へ導いたと述べている。
ヴォーグは主に、贅沢やファッションといった分野を重視しており、地域による読者層や読者の趣向に違いが少ないという特徴がある。この特徴こそが、調査結果に基づく戦略を、言語以外の差異なしに、多くのオーディエンスに一様に適用できるという大きなメリットをもたらしている。 「国ごとに大きな違いはあると思うが、我々のオーディエンスはグローバルでありつつパターンは似通っている。その点で確信が持てていたので、グローバルデータから得られる知見を常に社内に共有できた」とマーシャル氏は語る。
マーシャル氏は、こういったオーディエンスの分析情報を、一流ファッションブランドをはじめとするヴォーグの主要な広告主と共有したという。同氏は「各社の消費者行動への関心は非常に高い。特にひとつの行動が最終的に消費者にとっての何につながっているのかを知りたがっている。それゆえオーディエンスを調査するにあたり、興味だけでなく、習慣や行動に関する情報なども欲しがっている」と語る。
「大きなアドバンテージだ」
米エージェンシーのジャニュアリーデジタル(January Digital)で戦略サービス部門シニアディレクターを務めるメーガン・ジョーンズ氏によると、同社が提携するDKNYやオネスト・カンパニー(The Honest Company)、トゥミ(Tumi)といったクライアントは、広告出稿するメディアを選択するにあたり、事前にパブリッシャーから提供される情報はすべて歓迎しているという。
ジョーンズ氏は次のように語る。「リアルタイムでの購入は、広告主にとっても高い買い物だ。だから直接購入向けのインベントリーを差別化して、ユーザーの行動を詳細に分析できるというのは、パブリッシャーのインベントリー販売における大きなアドバンテージである」。
[原文:How Vogue’s international approach to audience data helped it reach record readers]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)