従来型TVが落ち込み続ける中、TVネットワーク各社が新たな広告収入源と期待しているのが自社で展開する広告付きストリーミングサービスだ。サービスの数が多ければ在庫も増やすことができるかもしれない。ただし、十分な視聴者を確保するためには先行して熾烈な争いを繰り広げるサブスクサービスとの戦争に突入することになる。
2021年は、広告収入型ストリーミングサービス戦争において、これまでで最大の年になりそうだ。
ディスカバリー(Discovery)、バイアコムCBS(ViacomCBS)、ワーナーメディア(WarnerMedia)はそれぞれ、2021年に主要な広告収入型ストリーミングサービスの開始または再開を予定している。これらのTVネットワークグループは、ディズニー(Disney)のHuluやNBCユニバーサル(NBCUniversal)のピーコック(Peacock)らの仲間入りをすることになる。それに、Amazonやロク(Roku)、YouTubeなどのデジタルプレイヤーは、従来型のテレビからストリーミングに移行する広告費を獲得すべく動き出した。特にAmazonやロクの2大コネクテッドTVプラットフォームは、急成長するストリーミング広告市場の「宿主」としての地位を確立しようとしている。
はっきりさせておくと、広告収入型ストリーミング戦争は以前から進行中だ。HuluとYouTubeは、ここ10年近くTV広告費を奪い合ってきた。さらにこの数年のあいだで2社に加えて、Amazonとロクが参入した。2019年には競争の激化とリニアTV(従来型のTV放送)で続く視聴率低下を受け、ストリーミングのピッチを強化しなければというプレッシャーがTVネットワークに掛かっていた。
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そして、ストリーミングの広告費をめぐる戦いは、2020年に新たな局面に達している。TVネットワークはこの数年間ストリーミング戦略を強化してきたが、コロナ危機を受けさらに緊急性を帯びてきた。
ストリーミングへの圧力
コードカッティング、つまり有料TV放送の解約は加速しており、有料TV局上位数社の合計で、2020年第2四半期には前年同期よりも多くの契約者を失った。また、有料TV局がTVネットワーク各社に支払っている番組使用料も先行きが危ぶまれ、TVネットワークのリニアTV広告売上とストリーミングビジネスにさらに圧力が掛かった。
3月に外出時出命令が発令されたあと、ストリーミングサービスの視聴者数は急増して高止まりしたが、リニアTVの視聴者数は増加したあとで減少した。NFLやNBAのようなメジャーなライブスポーツの復活によりリニアTVの視聴者数は増加する可能性があるが、(ようやく緩和しはじめたばかりの)物理的な制作停止によってTV番組のスケジュールが延期を余儀なくされたため、どんなサポートも押しとどめられる恐れがある。
ストリーミングの台頭とリニアTVの終焉を背景に、TVネットワークはようやく従来の契約者に頼ることをやめ、ストリーミングのピッチを拡大しつつある。たとえば、ディズニーは2019年にHuluを完全子会社化し、NBCユニバーサルは2020年にピーコックの配信を開始した。そして、有料TVビジネスから解き放たれたストリーミングサービスを運営するTVネットワークの数は、2021年に増え続けるだろう。
「参戦」を急ぐTVネットワーク各社
ディスカバリーは2021年初めに、現在提供している同社の配信アプリのような有料TVのバンドルサービスではなく、独立したストリーミングサービスを展開する。ワーナーメディアのHBOマックス(HBO Max)は、2021年春に広告収入型ストリーミングサービスを開始する。バイアコムCBSのCBSオールアクセス(CBS All Access)は2014年から存在しているが、2021年初めにパラマウントプラス(Paramount+)へとリブランドされる、大幅なアップグレードがおこなわれる予定だ。
バイアコムCBSは、このトレンドの最前線にいたTVネットワークのようだ。CBSオールアクセスの運営に加え、2019年には無料の広告収入型ストリーミングTVサービス、プルートTV(Pluto TV)を買収し、アップフロント(広告枠の先行販売)ピッチの柱にした。2020年には、ディズニーとFOXが、Huluとトゥビ (Tubi)をそれぞれアップフロント契約にバンドルし、あとに続いた。
その後バイアコムCBSは、プルートTVのインベントリをCBSオールアクセスのインベントリと結びつけ始めた。NBCユニバーサルは、スポンサー契約が2021年まで続くため、2020年のアップフロント交渉ではピーコックのピッチを積極的にはおこなわなかったが、代わりに同社の傘下にあるすべてのネットワークのインベントリを集約した「ワン・プラットフォーム(One Platform)」を広告主に提案した。NBCユニバーサルはいずれ、ワン・プラットフォームを通じてほかのリニアTVやストリーミングサービスのインベントリに加え、ピーコックのインベントリを販売できるようにする予定だ。
本格的な「戦争」の前哨戦
低迷する広告市場のなかで、TVネットワークグループのストリーミングサービスは、不振のリニアTVビジネスを下支えした。リニアTVのインベントリは、広告費の大半を獲得したかもしれない。しかし、エージェンシーの幹部らによると、TVネットワーク各社が2020年現在、広告収入を大幅に減少させていない主な理由はリニアTVが健闘したのではなく、彼らのストリーミングサービスのインベントリに流れ込む広告費が増えたからだという。
「NBCやFOX、そしてワーナーメディアは、すごく運がよかった。HBOマックスは広告モデルを導入することを宣言し、各社もアップフロント中にいくつかのストリーミングサービスを実装できた」と、あるエージェンシー幹部は話す。
だが、TVネットワークグループがストリーミング分野での幸運を利用するには、自分たちの広告付きストリーミングサービスに、広告主が投資する価値があるほど視聴者がいることを示す必要があるだろう。ネットワークは今年ストリーミングの利用を始めた人や、TV番組を提供するストリーミングサービスへの加入を考えて有料TVの契約をキャンセルした人々から恩恵を受けるかもしれない。
だが、今のところ視聴者がTVネットワークの広告収入型ストリーミングサービスで、これまで見慣れたTV番組を視聴するには引き続き料金を払う必要がある。視聴者にとってはサービスのメリットが薄く、有料TVとのバンドル販売にとどまってしまう可能性があるのだ。また、Netflixやディズニープラス(Disney+)などもひしめく熾烈な視聴者の可処分時間の奪い合いのなか、サービスを拡大するのはさらに困難だと思われる。広告収入型ストリーミングサービス戦争は、必然的にサブスクリプションストリーミングサービス戦争と融合し、本格的なストリーミング戦争になる。
[原文:How TV networks are setting up for the expanding ad-supported streaming war]
Tim Peterson(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:分島 翔平)