ワシントン・ポストは、2020年3月から4月にかけて、新型コロナウイルス関連の記事を無料で読める措置を実施。これにより同誌のサブスクライバーは増加した。このペイウォールの解除は、成功の一因であることに間違いない。しかしその背景には、パンデミック以前から取り組んできた同誌の戦略も大きく影響していた。
ワシントン・ポスト(The Washington Post)は、3月から4月にかけて、新型コロナウイルス関連の有料記事を無料解放した。これにより、ほかのパブリッシャーと同様、ワシントン・ポストのサブスクライバーは増えることとなった。しかし、このペイウォールの解除は、成功の一因であることに間違いないが、その背景には、パンデミック以前から取り組んできた、同誌の戦略が大きく影響しているという。
10月末に行われたDIGIDAYパブリッシング・サミット・ワールドワイド(Digiday Publishing Summit Worldwide)で、同誌CMOミキ・キング氏は、ここ数年、多くのパブリッシャーが読者収益の低迷にぶつかるなか、ワシントン・ポストがグローバルに成功について述べる。同氏によるとその要因は、マーケティングや価格設定、バンドル化(セット販売)、そして地域ごとに異なる戦略展開にあるという。
キング氏によると、ワシントン・ポストのサブスクリプションビジネスは、2020年初頭から前年比で40%以上の成長を遂げており、特に米国以外の地域では前年比で60%以上の収益増を叩き出したのだという(購読者の具体的な数字については、明かされていない)。「成長の要因のひとつは、2020年以前から実施してきた施策が実を結んでいることが挙げられる。我々はコロナ禍以前から、すでにそれに耐え得る環境を作ることができていた」。
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現在、米国外におけるワシントン・ポストのサブスクライバーは、全体の10%未満に過ぎないが、同誌はその数を20%に増やすことを目標としている。これは、ワシントン・ポストが現在抱える、米国外の読者数を考えれば妥当な数字だ。なお、コムスコア(Comscore)によると、9月にワシントン・ポストのWebサイトのユニーク訪問者数は9160万人だったという。
取り組みの中身
キング氏によると、米国外のトラフィックの大半は、イギリスやカナダ、オーストラリアといった英語圏からのものとなっている。そのため、同誌はこれらの市場におけるサブスクライバーを増やすことにとりわけ力を入れてきた。 そこで同誌が実施してきたのが、グローバルなニュースをフックにした、ニュースレターの配信やペイドメディアによるSNSマーケティングだ。キング氏によれば、グローバル市場向けのマーケティング施策で活用されるクリエイティブのうち9割は、記事の一部や画像を使用するとともに、グローバルな観点を強調しているという。
さらに同誌は、登録プロセスの摩擦を取り除くため、決済時の通貨をそれぞれの地域に合わせるなどの工夫も行なっている。こうした取り組みは、2020年はじめから数カ月にわたって行われてきた。また、英国のフィナンシャル・タイムズ(Financial Times)とのバンドル化を進め、一方の読者に対してもう一方の購読料を割引するサービスを提供してきたという。
キング氏は、10月に数週間展開された、フィナンシャル・タイムズとのバンドルキャンペーンは、まだ「本格的なものではない」と語る。同氏は今後もフィナンシャル・タイムズとの提携は改善・拡大の余地があると述べており、来年にはカナダの地元パブリッシャーとのバンドル化も検討しているという。
2種類のターゲット
米国に本社を置くFTIコンサルティング(FTI Consulting)の通信メディア技術実行マネージングディレクターを務める、ピート・ドゥセッテ氏によると、ワシントン・ポストは国際市場に進出する際、主に2種類のグループをターゲットにしていると指摘する。
そのひとつは、米国外に住んでおり、米国のニュースを必要としている海外駐在員だ。そしてもうひとつが、世界最大の経済大国であり、政治的にも世界規模の影響力を持つ米国のニュースをすべて追いたいと考えている、グローバルな視点を持つオーディエンスだ。
「世界各国のユーザーが寄せる米国への関心は、これまでにないほど高まっている」とドゥセッテ氏は語る。
また、価格設定についていえば、ワイントン・ポストの購読料は、米国においては一律なのに対し、米国以外の国や地域ではそれぞれ異なっている。これについてキング氏は、ローカルなオーディエンスのあいだで、もっとも関心の高いコンテンツは自国のニュースである可能性が高いと述べる。また、そうしたオーディエンスは、すでにローカルパブリッシャーの媒体を購読していることが多い。これらを念頭に置いた上で、価格設定を最適化する必要があるのだという。
「トロントに住んでいる人にとって、ワシントン・ポストは最初に購読するパブリッシャーにはならないだろう。そのため、その地域のパブリッシャーよりは、低い価格設定となっている。我々の競合は、その市場におけるほかのグローバルパブリッシャーだ」。 一方前出のドゥセッテ氏は、キング氏が述べるプライシングについて、「これらは短期的な戦略だろう」と分析する。というのも、価格は今後上乗せするチャンスがあるためだ。
大事なのは地域に根ざすこと
1年半前に、同誌は成長維持のために、グローバル・ブランド・パートナー、およびマーケティング責任者にナンシー・カトラー氏を据えて、グローバルニュースルームの構築を続けてきました。キング氏によると、この采配は、その地域のローカル出版物と競合するのではなく、その地域に馴染みのあるグローバルなニュースの視点を提供するためなのだという。
「本気でグローバルな購読者を増やしたいのであれば、本社からのコントロールだけでは足りない」とドゥセッテ氏は語る。「各国の市場動向とトレンドを理解するため、それぞれの地域に根ざした取り組みは不可欠だ」。
[原文:How the Washington Post is expanding its global subscriber base]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)