パブリッシャーの間に、シリコンバレー流の考え方が浸透しつつある。ニュースを製品として考えるようになってきているのだ。
そうした考え方が浸透するにつれて、プロダクトチームの重要性が強調され、ここ数年の間にパブリッシャーにおいて中心的役割を担うようになった。メディア企業における「プロダクト」というのはつかみどころのない言葉だが、編集コンテンツと収益化とテクノロジーを統合し、ひとつの包括的な体験を創出したものという定義になる。また、ユーザーを最優先に考え、シリコンバレーの鉄則にならって、開発の迅速化に重きを置くのも特徴だ。
本記事では4つのパブリッシャーを取り上げ、各企業がプロダクトについて、どのように考え、それが編集業務にいかに影響しているかを見ていく。
パブリッシャーの間に、シリコンバレー流の考え方が浸透しつつある。ニュースを「プロダクト(製品)」として考えるようになってきているのだ。
そうした考え方が浸透するにつれて、プロダクトチームの重要性が強調され、ここ数年の間にパブリッシャーにおいて中心的役割を担うようになった。メディア企業における「プロダクト」というのはつかみどころのない言葉だが、編集コンテンツと収益化とテクノロジーを統合し、ひとつの包括的な体験を創出したものという定義になる。また、ユーザーを最優先に考え、シリコンバレーの鉄則にならって、開発の迅速化に重きを置くのも特徴だ。
「すぐれたプロダクトデザインは、その体験を最大化した先にある」と語るのは、先日フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times)の最高プロダクトおよび情報責任者に就任したケイト・オリオーダン氏。同氏いわく、「すぐれたプロダクトでいちばん重要なのは、顧客を理解し、顧客のニーズと要望を理解することだ」。
Advertisement
本記事では4つのパブリッシャーを取り上げ、各企業がプロダクトについて、どのように考え、それが編集業務にいかに影響しているかを見ていく。
Quartz:全部署から関係者を招集
経済ニュースメディア「クオーツ」では、編集記事がプロダクトなら、広告もプロダクトだ。優れたユーザー体験の創出のためには、両方を中心に据える必要がある。
このアプローチを核として、「クオーツ」は同社初となるニュースアプリを開発し、2016年2月にリリース。このために、デザイン部門やエンジニアリング部門だけでなく、編集部門や収益部門からも社員を招集し、5人体制の開発チームを結成した。
こうした統合的なアプローチが「クオーツ」のプロダクトの核心だ。また、その目的は開発者と編集スタッフがスムーズに協力して働けるようにすることにある。同社のプロダクト開発チームは、事業部門ではなく、編集者のケビン・ディレイニー氏の管理下にあるのだ。
「クオーツ」のプロダクト担当バイスプレジデント兼編集長を務めるザック・セウォード氏は、「全員が一体となって、機能的かつ効果的な製品を開発するには、彼ら全員がひとつの部屋に集って話し合い、一緒に問題を解決することが不可欠だった。これらの要素のうち、ひとつでも欠けていたら、最終的な産物としてのプロダクトは崩壊してしまう」。
NYT:ユーザー最優先の体験を
デジタルネイティブなパブリッシャーの大部分がユースケース(仕様)を第一に考えたデジタル製品の開発を中心としてきた。その一方で老舗パブリッシャーも、デジタルパブリッシャーが得た教訓を取り入れている。
164年の歴史をもつ「ニューヨーク・タイムズ(New York Times)」は、その歴史の大半が紙面に縛られていた。しかし、インターネット、とりわけモバイルの登場で状況は一変し、さまざまなフォームファクタとユースケース、新製品に対する投資が活発化している。
たとえば、初期の「NYT Now」アプリは、モバイル仕様向けにどのような変更を加えるべきかを考慮せず、単に「ニューヨーク・タイムズ」の記事を寄せ集めただけだった。だが、同社は2014年にこのバージョンを刷新し、現行バージョンのアプリをリリースした。こちらでは、見出しがモバイルに最適化され、記事を要約した箇条書きのまとめがついている。また、最新ニュースをキャッチアップできるような解説も毎日配信しているのだ。
「ニューヨーク・タイムズ」でプロダクト担当シニアバイスプレジデントとして30人体制のプロダクトチームを率いるデビッド・パーピッチ氏は、次のように述べている。「我々は、単なる日々のニュースに留まらない形で当社のブランドを展開していく方法を模索している。レシピアプリ『NYT Cooking』のような製品は興味深い。モバイルユーザーを最優先に考え、そこから遡ってプロダクト開発をすることで、ニュースを違った形で届けられるからだ」。
Vox:プロダクトを幅広く定義
もっとも厳密な定義に従えば、パブリッシャーのプロダクトとはエンドユーザーが見たり、読んだり、利用したりする「もの」のこと。たとえば、記事や動画やアプリがそれだ。Vox Mediaは、この定義を少し拡大して、目には見えにくいが編集記事や広告製品にとって欠かせない「もの」も含めた。
たとえば、サーバー運用のパフォーマンスは、サイト訪問者は気にも留めないだろうが、サイトの読み込みや実行の速度を左右するのだ。データサイエンスや分析能力も同様だろう。こうした能力は、同社が独自にカスタム設計を行ったCMS「コーラス(Chorus)」を通してコンテンツ配信をしているブランドにも役立つし、どのようなコンテンツに投資を続けるべきかというインサイトを編集チームに与えることにも役立っている。
「我々がプロダクトに対する定義について、とても広く解釈している理由は、そこの含まれるものすべてが我々の全事業において欠くべからざる一部だと見なしているからだ」と、Vox Mediaの最高製品責任者であるトレイ・ブランデット氏は語る。同氏が率いる100人体制のプロダクトチームは、編集部門と広告部門の間に位置している。
FT:CEOを直接つなぐホットライン
プロダクトチームが、パブリッシャーにとってどれだけ重要性をもつようになったかを測るひとつの指標として、CEOと直接つながるメンバーがチームにどれだけいるかが挙げられる。
「フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)」のケイト・オリオーダン氏は、同社CEO、ジョン・リディング氏の直属の部下だ。一方、「ニューヨーク・タイムズ」のプロダクトおよびテクノロジー担当兼エグゼクティブバイスプレジデントを務めるキンゼイ・ウィルソン氏の上司は、編集長のディーン・バケット氏とCEOであるマーク・トンプソン氏の2人だ。
オリオーダン氏は、「我々がCEOと非常に近い関係にあるのは、企業として成功を収めるうえでプロダクト部門の役割が非常に重要であることを示している」と述べている。
Ricardo Bilton (原文 / 訳:ガリレオ)
Image via Thinkstock / Getty Images