「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:NYT)」がスクープ記事を報じたら、記事掲載時間に関わらず、そのプッシュ通知のCTRは、全世界で最大60%に及ぶこともある。これは、「速報」だからというだけではなく、米国内の11人体制の専従チームが練り上げた、「プッシュ通知戦略」の賜物でもある。
「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:NYT)」がスクープ記事を報じたら、記事掲載時間に関わらず、そのプッシュ通知のCTRは、全世界で最大60%に及ぶこともある。とりわけ、週末に公開される記事だと、その割合は高くなるという。
これは、「速報」だからというだけではなく、米国内の11人体制の専従チームが練り上げた、「プッシュ通知戦略」の賜物でもある。同社は、プッシュ通知をよりローカル重視にカスタマイズして、国外市場でのエンゲージメントを高めようと、まずはイギリスとオーストラリアでテストをはじめた。
「プッシュ通知は長いあいだ、情報を広くバラ撒くためだけの手段とされていた。記事を公開する操作をした瞬間、何百万もの携帯電話へ同時に通知が届くという認識だ。だが、いま、人々はよりきめ細かな管理を期待している」と、NYTのプロダクトディレクター、アンドリュー・フェルプス氏は語る。「NYTは真のグローバルなニュースメディアになることを試みている。新たなオーディエンスにリーチする方法として、プッシュ通知は自然な展開だ」。
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イギリスにおけるテスト内容
NYTが米国内限定のプッシュ通知を送ることはめったにないが、たとえば野球選手の最新成績など、外国からの反響をあまり期待できない内容もある。そこで、同紙は6月に1カ月間、英国内でトライアルキャンペーンを行った。一部のユーザーには、ターゲット化されたプッシュ通知を週に最大3回追加で送信。もう一方には、1日2~3回程度、通常のグローバルなプッシュ通知だけを送信した。
折しも、テストは欧州連合(EU)離脱是非を問う国民投票の期間に重なった。「その点では幸運だった。肥沃な土地を手にしたようなものだ」と、NYTでアシスタントエディターを務めるエリック・ビショップ氏は語る。
ロンドンに拠点を置く記者たちが、英国中の小さな町を訪ね、地元住民たちと話して投票後の雰囲気を伝え、その一部はアラートで配信された。国内の主要なニュース、たとえば労働党のジョー・コックス議員殺害事件なども、アラートで配信された。
チームが注目した主な指標
ライバルが配信するニュース速報のプッシュ通知に差をつけることは難しい。だからこそ、NYTは通知の多様化を進め、特集、大事件の捜査の進捗、インフォグラフィック主体の解説記事などを別々に通知した。イギリスでの実験では、ニュース速報ではないプッシュ通知のいくつかが好成績を納めた。なかでも反響が大きかったのは、投票結果がデビッド・キャメロン前首相のキャリアにどう影響するかを解説した記事だったと、ビショップ氏は振り返る。
チームが注目した主な指標は、タップスルーとオプトアウトだ。イギリス国内仕様のプッシュ通知を受け取った人のアプリ使用時間は4%増加し、プッシュ通知の受信拒否は上昇しなかった。翌週ふたたびアプリに戻ってきた人の数は、追加のアラートを受け取ったユーザーのほうが3%多かったという。
インスタントメッセージアプリ「Slack(スラック)」のボットも活用。どんなニュース通知が英国で反響を呼んでいるか、プッシュを送る価値があるかどうかを編集者が判断できるようにした。「英国、夏の五輪スポーツへの巨額投資が奏功」という記事は、ボットが選んだもので、英国におけるこの記事へのアクセスは米国の13.6倍になった。
目標は在外米国人だけでない
6月の実験は、ニュース通知を国に合わせて仕立てる計画の手はじめにすぎない。次に同様のテストを行う国は、オーストラリアになりそうだ。その目標は、在外米国人だけでなく、幅広いオーディエンスに魅力を伝えること。「多くの地域では、NYTは自分とは無縁だと考えられている可能性があるが、我々は取り組みの一環として、外国の人々にその国に関するニュースを伝えていることを示したい。プッシュ通知は、我々から人々にリーチし、その価値を発見してもらう方法のひとつだ」と、フェルプス氏は語る。
NYTはまた、プッシュ通知をユーザーのデバイスに設定されている言語に合わせて、フランス語やスペイン語に翻訳して配信する試みも実施。フェルプス氏は、具体な数値を明かさなかったものの、自国語で通知を受け取ったオーディエンスからの「劇的な」トラフィック増加があったと述べた。
この1年半のあいだに、NYTはプッシュ通知によるニュースの伝え方を大胆に変更してきた。以前のチームは単に記事の見出しを配信するだけだったのだ。その施策について、「ロック画面での通知に違和感があり、適切な戦略ではなかった」と、ビショップ氏は振り返る。
さらに同氏は「ロック画面ではたいてい、友人からのテキストメッセージも、ニュースの通知も同じように表示される。そこで我々は、このスペースにふさわしい調子で書きたいと考えた」と付け加えた。いまでは、通知はすべて1~2文のまとめに変わり、なぜそのニュースが重要かがわかるようになっている。「たとえユーザーがスワイプしなくても、プッシュ通知が価値をもたらすように」。
専従チームの実験は続く
どの記事を通知するかを判断するにあたっては、編集の観点からのジャッジがきわめて重要だ。通知のローカライズのために使われるツールは、国別で使用することもあるが、欧州の大陸側、アジアといった地域単位で使われるケースの方が多い。米国の編集者は、ロンドン、パリ、香港、ラテンアメリカにいる国外の編集者と連携している。ロンドンには、プッシュ通知専門の編集者が1人いる。彼女の仕事はそれだけではないが、ほかの3人のスタッフとともに通知の運用にあたっている。
ローカル通知のパーソナライズと頻度の適切なレベルを判断することは難しい。米国では多くの場合、ユーザーが通知をスワイプして記事に進まない場合、次には同じトピックの通知は配信されない。国外ではチームがまだ適切なロードマップを策定している段階で、今後も実験が繰り返されるだろう。
「我々が進化を続けるなかで、我々のジャーナリズムが読者のニーズに応えられる方法について考えることは、興味深いことだ」と、ビショップ氏は付け加えた。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)