かつて、ウェブのいたるところから発せられるサードパーティCookieの強力なトラッキングシグナルから引き出されていた広告費。それを得るべく、パブリッシャー各社は近年、新規・既存のエディトリアルコンテンツの上に築かれるオリジナルのコンテクスチュアルオーディエンスセグメントを、さまざまな手法で引き出してきた。
6月末から7月はじめにかけて、ジ・インディペンデント(The Independent)が運営する気候ハブのホームページのトップを飾ったのは、太平洋岸北西部を襲った熱波だった。このホームページの目的は、グリーンな生活に並々ならぬ関心を寄せる読者と、エコフレンドリーなメッセージや商品を世に送るブランドを結びつけることだ。
この環境特化型バーティカルは、エディトリアル事業を展開する一方で、環境問題への意識の高い消費者からなるオーディエンスセグメントを形成し、広告主に売り込みをかける手段をジ・インディペンデントに提供している。パブリッシャー各社は近年、新規・既存のエディトリアルコンテンツの上に築かれるオリジナルのコンテクスチュアルオーディエンスセグメントを、さまざまな手法で引き出してきた。ジ・インディペンデントの気候ハブも、それらのなかのひとつなのだ。
だが、彼らはいま、過酷な環境に直面している。かつて、ウェブのいたるところから発せられるサードパーティCookieの強力なトラッキングシグナルから引き出されていた広告費。それを得るべくパブリッシャー各社は戦っているが、彼らの競合相手は大手プラットフォームだけではない。ジ・インディペンデントやリビングリー(Livingly)、BuzzFeedなどのパブリッシャーは、コンテクスチュアルオーディエンスに対する彼らのアプローチには金を払う価値があるということを、広告主にもわかってもらわなければならない。GoogleがサードパーティCookieの廃止の延期を決定し、これにより何か新しいことを試さなければという切迫感は薄れそうではあるが。
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ジ・インディペンデント:一般的でないオーディエンスセグメント
ジ・インディペンデントが半年前に立ち上げた気候ハブ。その目的は、心理的属性や消費者の購買習慣を示す、気候関連の記事、炭素排出量が少ない旅行先のレビューなどとのやり取りから収集されたファーストパーティデータに基づく、「あまり一般的ではない」オーディエンスターゲットを形成可能な読者にアピールすることだ。これは、ファーストパーティデータを中心とするコンテクスチュアルターゲットを活用して、オープンプログラマティック市場への依存からの脱却を目指そうという構想の一環となる。
いわば、デジタルのみというこの挑戦的なニュースブランドがテストしているコンセプト、「電気自動車を製造する自動車メーカーや、再生プラスチックを使用する消費財メーカーに足を運び、このユーザーセットが “気候の闘士”であることを特定できたといえるのか?」ということだと、ジ・インディペンデントU.S.のシニアバイスプレジデントを務めるブレア・タッパー氏はいう。ジ・インディペンデントはこれらの新たなコンテクスチュアルオーディエンスを、プライベートマーケットプレイスやプログラマティックギャランティードを介して直販する見込みだという。
ジ・インディペンデントが拡大をめざすもうひとつのカテゴリーは、女性投資家にリーチするカテゴリーだと、タッパー氏は述べる。同社はその実現を、広告主がその価値を評価するオーディエンスに向けたコンテンツを確実に配信していくエディトリアル戦略でめざすという。ジ・インディペンデントには、広告主独自のファーストパーティデータとのマッチングに基づいて、特定のターゲット対象を見つける能力がある。その一方で、個人レベルの顧客情報を持たないがために、ユニークオーディエンスを見つけられない広告主もいる。ジ・インディペンデントはそのような広告主にも力を貸したいと考えていると、タッパー氏はいう。「市場の穴を次々に発見できるようになれば、それがパートナー企業と協働する機会につながる」。
リビングリー:よりスマートなネットワーク購入のテスト
リビングリーは広告主に、同社が運営する女性向けサイトのオーディエンスへのリーチには、若者向けポップカルチャーサイト「Zimbio」でTikTokインフルエンサーのリストをチェックしたり、50代以上向けのライフスタイルサイト「It’s Rosy」でRVカー旅行の推奨スポットのリストをチェックしたりしているサイロ化されたサイト固有のオーディエンスを購入するよりも、もっと適した方法があるということをわかってもらいたいと考えている。リビングリーのCEO、エリカ・カーター氏は、たとえば、新米ママを求めている広告主なら、リビングリーの全サイトの豊富な読者理解から構築されたコンテクスチュアルオーディエンスセグメントを通じて、「Lonny」で子どもにも安全な家具のアイデアを探している女性や、妊娠と育児に特化した姉妹サイト「Mabel + Moxie」を訪問している女性にリーチできると語る。
「リビングリーのプラットフォーム全体のオーディエンスについてなら、我々のほうがわかっている」と、カーター氏は話す。
リビングリーのクロスネットワークセグメントは、コンテクスチュアルターゲティングのための新たなプロダクト「IRIS(Insights, Research, Intenders and Scale)」の一角を担っている。IRISは、リビングリーの各サイトのエディトリアルクイズから、オーディエンスが何に関心を持っているのかを示すデータを引き出すためのプロダクトだ。たとえば、ビーガンフードに関するクイズの答えを活用すれば、代替肉の広告を受け入れてくれるユーザーを特定できるかもしれない。リビングリーはまた、オーディエンスセグメントを構築するために、広告主がクイズに挿入するような設問も開発している。
しかし、顧客レベルのターゲティングの先を見据えるように広告主を説得することは、オーディエンスリーチを大きく制限する可能性があり、容易ではないと、カーター氏は述べる。新米ママを対象とするある広告主がいるとして、リビングリーは広告主の複数の技術レイヤーを要するCRMデータベースで押し進めるのではなく、自社のファーストパーティデータ資産を用いることで新米ママを見つけることができる。「ファネルを通過するたびに、アドレス可能なオーディエンスの規模はどんどん小さくなってしまう」と、カーター氏はいう。いまのところ、この「広告主の説得」の段階には、コンテクスチュアルターゲティングのパフォーマンスがマッチする顧客データを使ったターゲティングに見合うことを示すための小テストが付随している。
BuzzFeed:データ収集のためのコマースコンテンツ
クイズを、オーディエンスデータを得るためのアートフォームへと変えたのが、BuzzFeedだ。BuzzFeedはいまなお、「あなたが企画する独立記念日のパーティから、あなたのソウルメイトの最初のイニシャルがわかる」テストなど、さまざまなクイズでサイト訪問者を困惑させている。だがここ最近は、ショッピング中心の商品レビューやウィッシュリストを、独自のやり方でオーディエンスの実際の購入意図に対する理解を深めるのに役立てている。たとえば、BuzzFeedのショッピングセクションのタイトルには、ウェイフェア(Wayfair)などのストアで販売されている商品のレビューがフィーチャーされていたり、ウォルマート(Walmart)の独立記念日セールといった、時間的制約のあるホリデーセールの関連リストがオファーされていたりする。
「今まさに、ショッピングコンテンツ内のロイヤルティを高められる、さまざまな行動を構築しているところだ」と、BuzzFeedの広告戦略部門でシニアバイスプレジデントを務めるケン・ブロム氏は語る。BuzzFeedは3月、広告主への直販とプライベートマーケットプレイスを介した販売を目的とする、カスタマイズされたオーディエンスセグメントを提供するためのファーストパーティデータプラットフォームをローンチした。ブロム氏によると、理想としては、BuzzFeedの独自のコンテンツを通じて生成できる新しい情報が、広告営業担当者に対し、広告主がオープンプログラマティックオークションでは得られなかった、よりカスタマイズされた方法でオーディエンスとインサイトをパッケージ化する材料を提供することだという。
BuzzFeedはまた、アイテムをウィッシュリストに追加できるといった、さまざまな機能をサイトへ追加することを進めている。それには、メールアドレスを生成するサインアップが必要になるだけでなく、BuzzFeedは、ユーザーがいつ商品ページをクリックしたかを追跡することもできる。だが、ブロム氏にいわせると、その中心にあるのはアフィリエイトマーケティングの売上ではない。「我々が広告主に販売できる、独自のファーストパーティデータを構築すること。それがマネタイズだと思う」。
KATE KAYE(翻訳:ガリレオ、編集:小玉明依)