2020年のパンデミックが従来型のテレビやストリーミングサービス、オンライン動画に与えたインパクトは、今後しばらくあとを引くだろう。さらには、将来を見通すことも極めて困難だ。本稿では、映像配信業界の将来について、2020年におけるテレビやストリーミング、オンライン動画業界の変化を振り返りつつ分析する。
2020年のパンデミックが従来型のテレビやストリーミングサービス、オンライン動画といった映像配信業界に与えたインパクトは、2021年どころか、今後しばらく続くだろう。さらには、将来を見通すことも極めて困難だ。
2020年、大手メディアのコングロマリットからテレビ広告主、オンライン動画の製作者に至るまで、あらゆる企業が、これまでとは違った方法での対応に迫られた。これまでもストリーミングへの移行は長年のトレンドとなっていたが、2020年は米国のテレビネットワークグループが社内でこの取り組みを加速させる年となった。ストリーミングのオーディエンス数が急増したことで、スマートテレビのプラットフォームやストリーミングサービス、デジタル動画プラットフォームなどの開発サイクルが一気に進んだ。一方で、従来のテレビCMについては、テレビ、デジタル動画におけるCM制作をリモートで行う必要性に駆られ、柔軟な制作体制が求められた。だが、業界をあげての「ストリーミング戦争」が始まった2020年、必ずしもすべての企業が適応できたわけではない。
本稿では、映像配信業界の将来について、2020年におけるテレビやストリーミング、オンライン動画業界の変化を振り返りつつ分析する。
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ストリーミングが中心的な存在に
少なくとも、これまでの10年間、ストリーミングはテレビに追いつくペースでそのシェアを奪ってきた。とはいえ、いまだシェアが逆転したわけではない。テレビは現在でも、もっとも主要な番組視聴プラットフォームとして君臨している。ニールセン(Nielsen)によると、ロックダウンが行われていた2020年の第2四半期でも、米国の成人の番組視聴時間は従来のテレビが1日平均4時間8分だったのに対し、スマートテレビでの視聴時間は1時間12分に過ぎなかった。だが、このバランスはいずれ変化すると考えられている。各社がストリーミングを重視した番組制作を進めている今、逆転の時期は近づいたといえるだろう。
ディズニー(Disney)やNBCユニバーサル(NBCUniversal)、ワーナーメディア(WarnerMedia)は、ストリーミングを業務の中核に据えるため、それぞれ大規模な組織再編を発表している。こういった動きのなかで、映画館や従来型のテレビで公開予定とされていた映画や番組が、ストリーミングサービスで公開される可能性がより高くなっている。ワーナーメディアもそうした取り組みを進めており、ハリウッドの業界関係者は不安を募らせている。また、2020年は「ストリーミング戦争」元年ともいえるだろう。2019年のディズニー+(Disney+)とApple TV+のローンチに続き、2020年はワーナーメディアのHBOマックス(HBO Max)とNBCユニバーサルのピーコック(Peacock)が発表された。さらにディスカバリー(Discovery)とバイアコムCBS(ViacomCBS)は、2021年に独自のストリーミングサービスを開始(またはリローンチ)する計画を発表している。
ストリーミング戦争の前には広告提供に関する争いが過熱していた。バイアコムCBSのプルートTV(Pluto TV)が広告配信型の無料ストリーミングサービスとして人気を博しているなか、Amazonやロク(Roku)、サムスン(Samsung)、ビジオ(Vizio)といった企業が24時間配信を行うFASTプラットフォームに乗り出している。一方、ピーコックは広告つき配信プラットフォームとして、ディズニーのフールー(Hulu)の最大のライバルとなっている。有料テレビチャンネルに加入していない人でも、テレビ番組を視聴できるのが強みだ。しかし、プルートTV(Pluto TV)は今後も、AMCネットワーク(AMC Networks)やバイアコムCBSように、この種のコンテンツを追加していく予定だという。
テレビやストリーミング広告業界で広まる柔軟性のニーズ
テレビCM購入の先行予約を行うアップフロントは、2020年も実施された。だが、これまでのような長期的かつ大規模なモデルは影をひそめ、また違った形でのものとなった。2020年3月に始まるパンデミックで、1年という長期契約のデメリットが浮き彫りになった。とりわけ大きな打撃を受けたホテルや航空会社などはなるべく多くの契約を解除しようと奔走し、またテレビネットワーク側も短期的な対応に切り替えるなど、こういった要求に応えている。だがその過程で、2020年のアップフロントでは大きな変化が生じた。キャンセルのオプションが契約において重視されるようになった。広告主が、必要に応じて解除できるような契約を望んでいるためだ。
2020年のアップフロントでは、ほかにも大きな変化が起きている。予算の大部分が従来型テレビに費やされる一方で、スマートテレビへの支出が大きく増えている点だ。Amazonやロク(Roku)、YouTubeがスマートテレビのインベントリーで増収となったほか、テレビネットワークも従来型テレビの減少をスマートテレビで補填している。しかしストリーミングへの移行には、コストがかかるのも確かだ。販売側は集客目的で、ストリーミングのインベントリーの割引などを宣伝文句として謳っている。ストリーミングの広告枠を購入する広告主が増えたことを受け、販売側は料金の値上げを狙っている。だが、購入者側としては、先程の契約解除条項のように、有利な条件を当然望んでいる。
現状からは従来型のテレビもストリーミング広告市場も、広告価格は上がっていくほかないというムード一色になりつつある。米国では、人気スポーツのテレビ放映が再開してからも視聴率が予想を下回ってしまった。しかし、各局はテレビCMの「スキャッター」という手法でオーディエンスへリーチを望む広告主への販売を続けており、インベントリーが膨れ上がったなかで、価格も上昇するという状況となっている。それゆえ、ストリーミングへシフトする広告主が増えている。あるメディアの経営幹部によれば、2020年末、感謝祭までにストリーミングのインベントリーが完売したという。
リモートワークを続ける制作チーム
米国のコンテンツ制作事業は、3月中旬で実質的に中断した。撮影中止になるまでの数週間、制作チームはあらかじめ撮り溜めを行っていた。そのため、ウェブカムで撮影したかつてのYouTube動画のような品質のコンテンツが世に出ることは基本的になかった。さらに、ズームショットの番組が新ジャンルとして増えた一方で、さほど時をおかずしてリモートワークで番組や動画制作を行う体制が整った。そのため、やはりウェブカムによる対談のような品質よりも、従来のテレビ番組の品質に近いコンテンツが制作されている。
下半期になり、スタジオなどでのテレビ番組やオンライン動画、CM撮影がようやく再開する運びとなった。しかしながら、すべて元通りというわけではない。衛生と安全のための手順が新たに定められ、キャストやスタッフの人数も限られたものとなり、制作スケジュールが延びがちになった。パンデミックで撮影が再度中止になる可能性があり、中止によるコストは保険も効かないため、制作チームは、なるべく迅速に撮影を終えるよう取り組みを進めた。秋から感染者が増加したことに伴い、テレビ番組やストリーミング番組ではキャストやスタッフに新型コロナウイルスの陽性反応が出たときへの備えを進めており、オンライン動画やCM撮影などにおけるリモート制作の必要性は高まる一方だ。さらには、穴埋めとなるような安価な制作体制も、長期的な観点から検討が進められている。
Quibi
2020年のストリーミング戦争で最初の犠牲者となったのがQuibi(クイビー)だ。ただし、競合していたのは同じ会社のサービスだ。パンデミックにより活発なオーディエンスがストリーミングに移行したという意味で、パンデミックによりQuibiの戦略が狂ったという側面は確かにある。だが、より大きな原因となったのはオーディエンスを引き止められるようなヒット番組が少なく、また番組数自体も減少している上、テレビのような高品質の番組を、実際のテレビで見られるようなスマートテレビアプリも不足していた。
Quibiのサービス終了からは多くのことが学べる。まず、ストリーミング動画サービスでは、配信戦略としてテレビで見られるようにする必要がある(TikTokですら行っている取り組みだ)。また、ヒット番組の重要性も浮き彫りになった(ディズニー+が良い例だ)。そして質の高い番組ラインナップ(ディズニー+のように)も重要となる。そして、広告サポート形式であれば、広告主が求めるオーディエンスが確実に広告を見るようにすることが求められる。これはサービス自体ではなく、ほかのメディアを使用する形でも良い。たとえばNBCユニバーサルはテレビネットワークとオンラインメディアの両方を、ピーコックのセーフティネットとして活用している。そして最後に、オーディエンスの好みの変化やビジネス環境の変化に気を配り、戦略が明らかに機能していないのであれば、状況に合わせて適応する必要がある。これが2020年を生き抜くための唯一の方法といえる。そして2021年もまた、メディア企業や広告主、制作企業のあいだでこういった取り組みが続いていくだろう。
[原文:How the future of TV was reshaped by 2020]
TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:長田真)