この2年のあいだ、英エコノミスト(The Economist)はLinkedIn(リンクトイン)に投稿する記事を意図的に絞り込んできた。その成果は、ユーザーのサブスクライバー化という形ですでに実を結びつつある。
この2年のあいだ、英エコノミスト(The Economist)はLinkedIn(リンクトイン)に投稿する記事を意図的に絞り込んできた。その成果は、ユーザーのサブスクライバー化という形で、すでに実を結びつつある。
エコノミストはこれまで、投稿コンテンツの戦略変更を数度にわたって繰り返してきた。まずは、公開する記事をビジネスとファイナンスに絞るところからはじまり、次にすべての記事を網羅する方針に転換、その後再び限定的な公開に方針を戻した。その結果、同社のLinkedInアカウントのフォロワー数は昨年1年で39.5%増えて1140万人となった。同社におけるSNSのフォロワー数としては、Twitterに次ぐ規模だ(Twitterではいくつかのアカウントをまたいで2500万人のフォロワーを抱えている)。
また、サブスクライバー獲得のためのチャネルとして、LinkedInはエコノミストにとって3番目に重要なソーシャルプラットフォームになっている。LinkedInからエコノミストのWebサイトに自然流入するトラフィックの量は、年々倍増。また、LinkedInから創出されるサブスクライバーは、毎年3倍に増えている(もっとも、増加傾向が見られる以前の数字については、開示されていない)。なお、エコノミストのWebサイトでは購読契約をしなくても、登録するだけでいくつかの記事にアクセスが可能だ。
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エコノミストが学んだ成功の秘訣
LinkedInというプラットフォームが、この10年で変化を遂げる一方、エコノミストも成功の秘訣を学習してきた。
「LinkedInはこの数年で変化した。求職者向けのプラットフォームから、よりコンテンツ重視にシフトしている」。そう指摘するのは、エコノミストのソーシャルメディア部門を統括するジャック・ラハート氏だ。「開設当初は、職探しをしながらコンテンツを共有するオーディエンスと、エコノミストブランドの相性がぴたりと合っていた」。
エコノミストのソーシャル編集部では、ロンドンまたはニューヨークに勤務する9人の編集者がチームを組み、すべてのソーシャルプラットフォームを担当している。この人々が毎日LinkedInに投稿する記事を9本選び、読者の生活習慣に合わせて投稿時間を設定。英国、またはヨーロッパに関する記事は地域の時間帯に合わせて早めに投稿するという。なお、フォーマットは記事へのリンク、動画、画像などさまざまだ。一般的に、テキストよりも動画のほうが「いいね」やコメントがつきやすい反面、動画はLinkedInのプラットフォーム上でそのまま視聴できるため、潜在的な拡散力は必ずしも高くない。より多くの記事を読んでもらうために、キャプションを長めにして、投稿内容が分かるように工夫しているという。
最高のコンバージョン率をあげた記事
2020年現在、LinkedInで最高のコンバージョン率をあげた記事は、「経済危機によって露呈する10年分の企業不正」と「株式市場と実体経済の格差」の2本だ。いずれもビジネスとファイナンスという、エコノミスト本来の土俵で善戦した例だが、読者が閲覧する記事の多様化に伴い、サイエンス、テクノロジー、カルチャー分野の記事も好成績をあげている。たとえば、この8月にエコノミストのサイトにもっとも多くのトラフィックを送り込んだ上位5本の記事には、エコノミストのライフスタイルマガジン『1843』に掲載された記事が2本入っている。1本は「コロナ時代の恋愛作法」に関する投稿だった。
また、エコノミストは、LinkedInにおける成果指標として、主に投稿内容に関するコメント数を採用しており、現在この数値は対前年比で251%増加している。なお、シェア数は158%増で、インプレッション数も287%増えているという。記事の限定的な投稿は、インスタグラムでも採用しており、こちらでも同様の成長が見られている。
英国の発行部数公査機関であるABC協会(Audit Bureau of Circulations)によると、2020年6月現在、エコノミストの世界発行部数は活字媒体とデジタル版を合わせて170万部である。
LinedInのさらなる伸びに期待
LinedInは確実に成長しているが、FacebookとTwitterはリーチとスケール、そして購読者獲得の推進力にかけては別格だと、ラハート氏は述べる。ただ、LinkedInには今後、さらなる伸びが期待できるという。
以前、エコノミストはLinkedInにビジネスとファイナンスのすべての記事を投稿していた。これは、プロフェッショナルネットワークという性質上、それを形成する2億5000万人の月間アクティブユーザーは、当然このようなトピックに強い関心を持っているだろうと想定してのことだった。
しかし、伸び悩みを背景に範囲を広げ、エコノミストが発信するすべての記事を投稿するようになった。いわゆる下手な鉄砲も数を撃てば当たる的なアプローチで、週に75本から100本程度のコンテンツを投稿したのだ。しかし、ほとんど成果は見られず、現在のより限定的なアプローチに回帰したという。
ソーシャルプラットフォームの役割
ソーシャルプラットフォームは潜在的なオーディエンスを広く集め、ふるいにかけてサブスクライバー化する役割を持つ。しかし一般的に、コンバージョン率はほかのプラットフォームやフォーマットほど高くない。サブスクリプションプラットフォームのピアノ(Piano)で戦略担当のシニアバイスプレジデントを務めるマイケル・シルバーマン氏は、「FacebookとTwitterでさえコンバージョン率は非常に低く、中央値で0.05%前後だ」と言っている。これに対して、有料購読のオファー全体では、コンバージョン率の中央値は0.20%だという。
LinkedInに関しては、ピアノはコンバージョン率のデータを持っていない。LinkedIn以外のプラットフォームで、ユーザーのサブスクライバー化に活用できるだけのフォロワー数を持つパブリッシャーは、エコノミストを除けばほんのひと握りだ。本稿の執筆時点では、フォーブス(Forbes)のLinkedInフォロワー数は1470万人、ビジネスインサイダー(Business Insider)は960万人だった。
なお、Webトラフィックの分析ツールを提供するパースリー(Parse.ly)のデータでは、同社が参照トラフィックを計測する2500以上のメディアサイトのなかで、LinkedInは参照元の上位10サイトにも入っていない。
[原文:How The Economist has tripled the number of subscribers driven by LinkedIn]
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)