オリジナルのエディトリアルコンテンツを作るのはコストがかかる。だからこそ、現在のパブリッシング業界では、新しい記事投稿と同じくらい、古いコンテンツの埃をはらって、「新しいコンテンツ風」に仕上げることが重要だ。
ニューヨーク・タイムズやVox Mediaなど、米媒体社の試みを追う。
オリジナルのエディトリアルコンテンツを作るのはコストがかかる。だからこそ、現在のパブリッシング業界では、新しい記事投稿と同じくらい、古いコンテンツの埃をはらって、「新しいコンテンツ風」に仕上げることが重要だ。
コンテンツを何度も利用する方法はいくつか存在する。そのひとつが「BuzzFeed」が得意とする「同じパターンを繰り返す」というものだ。「BuzzFeed」のテクニックのひとつ「ホットな企画構成(Hot Frames)」である。ある投稿が上手くいったときに、異なるプラットフォームやターゲット層、地域を扱って、同じ切り口のコンテンツを作るというもの。
たとえば、2013年に投稿されたダオ・グエン氏によるポスト、「アジア系移民の両親をもつ人に共通する27の特徴」は、同様の切り口で成功したほかの投稿に基づいたものだ。また、これをほかの移民に当てはめても、同様のコンテンツが作れることが分かる。さらに、同じアイデアでビデオやイラストのコンテンツにもできるし、他言語に訳すことも可能だ。
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現存しているコンテンツを違うフォーマットで作ることも「BuzzFeed」は行っている。文章による投稿がビデオになったものもあれば、ビデオから文章になったものもある。クイズになったものも多い。Facebookに特化したメディア「テイスティ(Tasty)」と「Nifty(ニフティ)」は、「BuzzFeed」が生み出してきた編集コンテンツからビデオコンテンツでヒットしたものを発見して実際に応用するという「アダプテーション戦略」によって誕生した。
記事の平均寿命
アップデートが定期的になされ、いつまでも賞味期限が切れない内容のコンテンツもパブリッシャーにとって重要だ。検索で見つけてもらう大きな助けとなるからだ。たとえば、ハウツーものやレシピ紹介などは時間が経っても古くならない。
ライフスタイル系のメディア「About.com」ではトラフィックの約2/3は、健康や会計関連といった、いつまで経っても実用的なコンテンツに検索で訪れるユーザーから成り立っている。そのため、CEOのニール・ヴォーゲル氏は、「About.com」のライターたちは新しいコンテンツを作るのと同じくらいの時間を、すでに配信したコンテンツをアップデートするのに費やしているという。
「About.com」の健康にフォーカスしたバーティカルサイト「ベリーウェル(VeryWell)」には、約5万ものコンテンツがある。同メディアのコンテンツの平均寿命は285日なのだそうだ。もっとも人気の記事は、もっともアップデートされる記事となっている。
「我々が何かを書くとき、6カ月~3年間は有効なコンテンツでなければならない。我々は、速報を伝えるニュースサイトではなくて、人々が日常の問題を解決するためのコンテンツを届けるサイトだ。なので、いつもコンテンツが新鮮に保たれていることに気をつけている」と、ヴォーゲル氏は語った。
常に新鮮なコンテンツを保つこと、この重要性はFacebookの台頭とも関係している。パブリッシング分析会社であるパースリー(Parsely)によると、ひとつの記事投稿がFacebook上における平均寿命(記事が最終的に集めるページビュー合計の90%時点に達するまでの時間)は、約2.6日。これは決して長い時間ではない。パブリッシャーがトラフィックをキープするためには、非常に多くのコンテンツを要するということだ。その点、常に新鮮なコンテンツはトラフィックをキープしてくれる、とパースリーのCEO、サーチン・カムダー氏はいう。

「スマーター・リビング」セクションは、最近の記事も過去の記事も両方紹介する
NYTのチャレンジ
ニュースパブリッシャーたちは性質上、新しいコンテンツに偏りがちかもしれないが、彼らもまたその「新鮮さを保つ」トリックを学びつつある。「ニューヨーク・タイムズ(New York Times)」はここ数年間、アーカイブ記事を再利用するという実験を試みているという。
はじまりは2014年に発表された「イノベーション・レポート」がその必要性を指摘したことだった。最近では、ホームページとアプリ上で「スマーター・リビング/より賢い生き方(Smarter Living):日常生活のアドバイス」というセクションを開設し、過去の健康や食べ物、テクノロジー分野の記事を特集している。
「これらの記事が提供するアドバイスは、時間をこえて役に経つものばかりだ。何カ月後にも、ときには配信されてから何年たってからも」とアシスタント・マストヘッド・エディターのクリフォード・レヴィ氏。
Vox Mediaの戦略
「Vox.com」は寿命が長い解説記事を中心に運営している。「自宅のWiFiネットワークを早くするための10の簡単なテクニック」がその典型だ。この記事は2014年12月に配信されたが2015年7月にまたアップデートされ再配信された。
「中心となっている考えは、古くても需要のある良い記事が発見されたときには、それをもう一度活用すべきだ、というもの」と、Vox.comのエグゼクティブ・エディターであるマシュー・イグレシアス氏は語った。同氏は自身が執筆した、ジュリアン・カストロ住宅都市開発省長がヒラリー・クリントンの副大統領候補に挙がっていることに関連した記事を例に挙げる。記事のほとんどが、カストロ氏の伝記的な情報と、クリントン大統領候補が直面している戦略的な選択についてだ。もしもカストロ氏に関して何か新しい動きがあれば、この記事に含まれている伝記的な情報はキープしつつ、新しい情報を付け足して再投稿することができる。
パブリッシャーたちが古い記事を新しいものとして創りあげるとき、倫理的な議論になることがある。「ビジネス・インサイダー」は古い記事をほぼ中身を替えずに新しいタイトルで再投稿することで知られている。
また「Vox.com」はすでにはるか昔に公開された記事を再投稿し、アップデートが行われた形跡がないときも新しい公開日時を、記事に与えている。この慣習について、イグレシアス氏に尋ねたところ、それは「Vox.com」の特集記事テンプレートの機能のひとつであり、それによって更新される記事はニュース性や時事性が高いものではないため、読者の混乱を招いてはいないと答えた。
Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)
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