米DIGIDAYが2021年にレポートしたいくつかのパブリッシャーは、2021年のNFT市場になんらかの形で貢献している。本記事では、当該メディア企業が2021年に行った、より革新的なNFTプロジェクトのハイライトを紹介する。
パブリッシャーの多くは、パンデミックの初期に予想したよりも良好な財務状態で2020年を終え、2021年に新しい収入源を試したり、新製品を発売したりする柔軟性を手に入れた。
その実験のひとつが、2021年にパブリッシャー界をはじめさまざまな業界で急速に普及した非代替性トークン(NFT)だ。
ブロックチェーンゲームと暗号収集品市場のデータベースであるノンファンジブル・コム(NonFungible.com)によると、2021年12月23日現在、NFTの販売総数は1年間の累計で約1450万に達し、その購入には合計約138億ドル(約1兆6000億円)が費やされたという。投じられた金額を考えると、NFTを売買したユニークウォレット(暗号通貨やNFTのデジタルストア)の数も2021年に大幅に増え、2021年1月1日の約8万7000から12月下旬の時点で約140万に達したことが特筆に値する。
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当然ながら、金が流れるところにはデジタルメディアもついていく。米DIGIDAYが2021年にレポートしたいくつかのパブリッシャーは、2021年のNFT市場になんらかの形で貢献している。以下、当該メディア企業が2021年に行った、より革新的なNFTプロジェクトのハイライトを紹介する。
古い知的財産(IP)から新たな収入を得る
タイム(Time)は、ブロックチェーンの実験に真っ先に飛び込んだパブリッシャーのひとつで、3月下旬に 「Time Is_Dead」というNFTの形をとったデジタル雑誌のカバー(表紙)コレクションを発表した。このコレクションは、黒い背景と大胆な赤い文字で「Is God Dead?(神は死んだか?)」「Is Truth Dead?(真実は死んだか?)」「Is Fiat Dead?(フィアットは死んだか?)」と問いかける3つの表紙で構成されていて、最初の2つはそれぞれ1966年と2017年に印刷版の表紙として発表され、3つ目はこのスタイルでNFTコレクション専用に作られたものだった。
NFTのカバー全3種と、個別のNFTとして販売されたカバーの3パックセットは、5万5000ドル~13万8000ドル(約640万円~約1600万円)で販売された。
タイムが販売用のデジタルカバーを掲載しているNFTマーケットプレイス「スーパーレア(SuperRare)」によると、タイムが販売したもっとも高価なNFTは、「The Man of the Year(今年の人):1928年1月2日号」と題された、約100年前に印刷されたタイムの創刊号のデジタルカバーだった。ニューヨークからパリへ初めて飛行機で飛んだチャールズ・リンドバーグが登場するこのNFT版表紙は、1カ月前に46万3000ドル(約5370万円)で販売され、同誌の現物が添えられていた。
タイムは昨年、分散型金融と暗号通貨に強い関心と信頼を示し、特に広告主と購読者の双方から暗号通貨を支払いとして受け入れると発表した。
エンゲージメントの報酬
トークンやNFTにまつわる最初の記事のひとつは、暗号通貨を扱うパブリッシャーのデクリプト(Decrypt)が出したものだった。デクリプトは独自のリワードトークンを作成し、視聴者がアプリでコンテンツをダウンロードしてエンゲージした際に配布していた。2021年3月には、記事を読むと3トークン、投稿に絵文字でリアクションすると1トークン、記事を共有すると2トークンを与えることで、アプリの利用を促し始めた。
これらのトークンには現実世界での金銭的価値はないが、読者はアプリ内でTシャツやステッカー、プロモーションイベントや有料コンテンツへのアクセス権などと交換することができる。
NFTのためのコンテンツスタジオの創設
NFT経済においてより大きな役割を果たそうとしたデクリプトは10月にデクリプト・スタジオ(Decrypt Studios)を立ち上げた。ブランデッドコンテンツスタジオの仕組みと同様に、デクリプト・スタジオはクリエイターや広告主と協力し、キャンペーンに適したブランド資産を作成する。しかし、広告主のために記事や動画を作成するのではなく、個人クリエイターや不定期のブランド向けのNFTやメタバース体験に重点を置いている。
デクリプト・スタジオは、哲学者でプリンストン大学教授のピーター・シンガー氏のために制作されたチャリティNFTコレクションでソフトローンチし、そのなかでもっとも高価なものは1万1000ドル(約128万円)以上で販売された。
広告主の関与
NFTは消費者から収入を得るのには適しているが、このデジタル製品にまつわる大きな疑問点のひとつは、パブリッシャーが広告主に販売できるかどうかという点だった。メディアバイヤーたちは当初、NFT採用に消極的だった。メディア・キッチン(Media Kitchen)の最高経営責任者(CEO)、バリー・ローエンタール氏は、NFTは通常ひとりに販売されるものであることから、その規模があるかどうかを疑問視し、ブランドとのNFTコラボレーションに注目を集めるようにするには、相当なメディアとのタイアップが必要だろうと付け加えた。
Yahooは、2021年9月のニューヨークファッションウィーク(New York Fashion Week)で、ファッションブランドのレベッカ・ミンコフ(Rebecca Minkoff)とNFT広告契約を締結した。このスポンサーシップにより、ミンコフのシーズンコレクションから洋服やアクセサリーなど、合計221のアセットが購入可能となった。またYahooは、前述のような規模を実現するために、同社が月間ユーザーが9億人に達すると主張しているサイト間でのコラボレーションを促進した。現在までに、もっとも売れたNFTは約2000ドル(約23万円)で販売され、現在もいくつかのNFTが販売されている。
NFT収集をゲーム化
NFT領域における2021年最後の挑戦は、単なる「デジタルアート」と思われているものに、多くのオーディエンスの関心を引きつけることだった。画像や動画に価値を結びつけることができないため、その選択は、これまでにNFTを購入したり暗号通貨に投資したりしたことのある個人に限定されていた。
これを打破するため、ターナー・スポーツ(Turner Sports)は、NFTをベースにしたゴルフゲーム「ブロックリーツ(Blockletes)」を制作し、プレイヤーがNFTを購入し、レベルアップすることでその価値を高めていくことができるようにした。このNFTには現実世界の価値が関連付けられるため、プレイヤーはNFTをゲーム内のほかのプレイヤーに売却し、その価値を米ドルに交換することができる。
ブロックリーツのオリジナル版は、2018年に発売され、デスクトップ専用でグラフィックが初歩的だった。2021年12月にはアプリ版が発売された。
[原文:How publishers experimented with NFTs in 2021]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)