理論上、アフィリエイトコマースは簡単に稼ぐことができる。パブリッシャーがやるべきことは、関連するコンテンツに商品のリンクを埋め込み、興味を持った消費者が食い付くのを待つだけで、それでは、パブリッシャーが2021年に追い掛けているアフィリエイトコマースの代表的なトレンドを紹介しよう。
理論上、アフィリエイトコマースは簡単に稼ぐことができる。
パブリッシャーがやるべきことは、関連するコンテンツに商品のリンクを埋め込み、興味を持った消費者が食い付くのを待つだけだ。売上につながれば、パブリッシャーは少額の手数料を受け取ることができる。販売に貢献した商品を梱包、発送する必要はない。
2020年の初旬、米DIGIDAYが135のパブリッシャーに1年の目標を質問したときには、アフィリエイトコマースは収益源ではないと43%が回答した。ところが2021年の同時期、181のパブリッシャーに同じ質問をしたところ、アフィリエイトリンクで収益を得ていないという回答は約34%まで減少した。
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容易なビジネスではない
コロナ危機が最悪の状態にあった時期、労力のかからないこのビジネスが多くのパブリッシャーの救いとなった。しかし、2021年に入っても、eコマースブームは拡大を続けており、一部のパブリッシャーはアフィリエイトコマースでもっと稼ぐための戦略を練り始めている。
とはいえ、2021年の調査結果は、ビジネスとしてのアフィリエイトコマースへの関心が前年より少し下がったことを示唆している。2020年の調査では、中程度の関心という回答が39%だったが、2021年は36%に減少した。これらの結果からわかるのは、発想の転換が必要ということだ。
BuzzFeedのコマース担当シニアバイスプレジデント、ニラ・アリ氏は「パブリッシャーが容易に最適化できるビジネスではない」と語る。アリ氏はファッション小売業界を経てデジタルメディアの世界に入った経歴を持つ。「小売企業のように考える必要がある。すべてのメディア企業がすぐにそれをできるわけではない」。
一部の地方メディアや新聞社はアフィリエイトコマースで収益を得るための道を見いだしているが、それでもまだ二次的な収益源にすぎない。トリビューン・パブリッシング(Tribune Publishing)の最高コンテンツ責任者、コリン・マクマホン氏は「手に入るものは何でも手に入れようと奔走しているときは意味がある。広告やサブスクリプションに比べると割合は小さく見えるが、ジャーナリズムの資金源になる以上やる価値はある」と話す。
それでは、パブリッシャーが2021年に追い駆けているアフィリエイトコマースの代表的なトレンドを紹介しよう。
アフィリエイトリンク以外の手段
パブリッシャーにとって、アフィリエイトリンクで得られる手数料は「いったん設定すれば終わり」の手軽なビジネスだ。もともと公開する予定だった製品紹介や製品レビューにリンクを埋め込めば、読者の役に立つ形で多少なりとも余分な収入を得られる。ただし、無限に稼ぐことができるわけではない。
SHEメディア(SHE Media)のCEO、サマンサ・スキー氏によれば、パブリッシャーが小売企業のアフィリエイトで得られる手数料は1~20%で、商品カテゴリーや契約の種類に応じて変わるという。オリジナルのコマースコンテンツや製品レビューに追加するアフィリエイトリンクはもっとも手数料率が低いとスキー氏は説明する。
スキー氏のチームは手数料率を上げるため、特定の商品に焦点を当て、そこにアフィリエイトリンクを埋め込んだブランデッドコンテンツパッケージを小売企業に販売し始めた。マーケターはファネル上部と下部の両方で広告目標を達成することができ、SHEメディアは記事に対する報酬だけでなく商品販売による手数料収入を得ることができる。手数料率も標準的なアフィリエイトより高い傾向にあるとスキー氏は話す。
トラステッド・メディア・ブランズ(Trusted Media Brands)も広告とコマースのハイブリッドモデルを試験運用している。サイト上のディスプレイ広告をショッパブル投稿に変えるというものだ。米DIGIDAYの2020年の記事によれば、通常、アフィリエイトの手数料率は5~10%だ。このモデルをきっかけに、コマースチームとセールスチームの関係は変化し、広告主候補との会話に以前よりファーストパーティデータが登場するようになった。
広告とコマースのハイブリッドモデル
ローラ・デジタル・メディア(Lola Digital Media)の一部門で、アウトドア用品のレビューサイトをいくつか運営するオールギア(AllGear)は、特定カテゴリーの検索用語に強みを持っている。たとえば、グループの戦略担当バイスプレジデント、スティーブン・レジェノルド氏によれば、「最高のレインジャケット」を検索した人の40%が最終的にオールギアのレビューをクリックするという。
スポンサードレビューやハイブリッドモデルの契約を円滑に進めるため、現在、セールスチームがこの情報を売り込みに利用している。
メレディス(Meredith)をはじめとする一部の大手パブリッシャーは、数十ブランドのコンテンツにアフィリエイトリンクを埋め込み、かなりの収入を得ている。最新の決算報告書によれば、10~12月の2020年第2四半期、eコマース事業で前年同期比26%増にあたる2770万ドル(約29億5700万円)の売上を計上している。
メレディスの消費者売上、eコマース、有料消費者製品担当シニアバイスプレジデント、アンディー・ウィルソン氏によれば、広告とコマースのハイブリッド契約は同社にとって成長分野だが、2021年の主な取り組みはアフィリエイトコンテンツの制作を継続することだという。ほかのパブリッシャーの報告とは異なり、この種のコンテンツは手数料率が比較的高いとウィルソン氏は言い添えている。
レビューの手数料も大きな収益源に
パブリッシャーが模索しているもうひとつの分野はオンサイトパブリッシング、つまり、小売企業の商品ページに掲載されるレビューだ。米DIGIDAYが今回取材したパブリッシャーのほとんどがこの1~2年、Amazonのプログラムに参加し、レビューを書いていると述べている。
オールギアはレビュー執筆の報酬を得ていないが、商品が売れたとき、標準的なアフィリエイトと同等の手数料を受け取っている。レジェノルド氏によれば、大きな違いは、オンサイトレビューの読者はすでに購入意欲が強いことで、その結果、コンバージョン率が高くなり、パブリッシャーの売上も増える。
「編集の整合性と読者の客観性についてかなり話し合っている」と、レジェノルド氏は語る。「ジャーナリストとして、『とにかくこの商品を買おう』という内容をAmazonに投稿したくないため、客観的なレビューを書くようにしている。しかし、パブリッシャーにとっては、(小売企業に)肯定的なことを書き、販売を助ける動機は十分にある」。
レジェノルド氏によれば、オールギアのサイトであるギアハングリー(GearHungry)は現在、Amazonのために週3~5本の投稿を用意している。基本的にエディトリアル投稿と同じ内容だが、編集方法やフォーマットが異なるという。このビジネスはギアハングリーの「大きな収益源」となっており、さらに手を広げるため、現在、ほかの小売企業とも交渉を進めている。
パブリッシャーのオンラインマーケットプレイス
編集部主導のマーケットプレイスを持ち、オンライン小売のワンストップショップになりたいと考えるパブリッシャーが増えている。
2019~2020年にコマース売上が67%伸びたことを受け、BuzzFeedは第2四半期末までにBuzzFeedショッピングタブをリニューアルし、Z世代とミレニアル世代が買い物する場所にしようと取り組んでいる。
アリ氏によれば、読者が商品やブランドで検索できるよう検索機能を改良し、新しい決済機能で、BuzzFeedのウェブサイトを離れることなくさまざまな小売企業から購入できるようになる予定だという。
「BuzzFeedをショッピングジャーニーが始まる地点にしたい」とアリ氏は話す。ただし、多くのオンラインショップと同じような「実証済み」の商品を販売するのではなく、あくまでもコンテンツ主導で、BuzzFeedの読者が慣れ親しんでいるレビューやまとめに焦点を当てる計画だ。
この新モデルによって、スポンサーシップの新たな機会も開かれるとアリ氏は補足する。グループ・ナイン(Group Nine)もSwipe.Shop(スワイプショップ)というマーケットプレイスで、スポンサーがプラットフォーム内で取り上げられる機会を提供している。
地域経済に貢献する道を模索
ローカルメディアパブリッシャーの大部分は今もコマースコンテンツビジネスを強化しているが、あえて一歩後退したパブリッシャーもある。
地域限定のニュースレターを発行する6AMシティ(6AM City)は米国南東部の7都市に拠点を置くパブリッシャーだが、2021年はバーチャルマーケットプレイスがどのようにビジネスにつながるかを見極めようと考えている。
CEOのライアン・ヒーフィー氏によれば、6AMシティの使命は地域経済にプラスの影響を与えることだという。ヒーフィー氏のチームは第2四半期末を目標に、地元企業の中央市場として機能するアフィリエイトコマースビジネスをサイト上に立ち上げようとしている。2020年の利益を投資し、プラットフォームを運営するための技術を開発しているところだ。
6AMシティのコマース事業は現在、コミュニティイベントを紹介する掲示板への有料投稿で構成されている。ヒーフィー氏によれば、宣伝を一切おこなうことなく、2020年はそれだけで20万ドル(約2135万円)を稼ぎ出したという。一方で商品レビューサイトを買収し、アフィリエイトコマースビジネスに参入したローカルニュースパブリッシャーもある。
レビューを通じた売上拡大
2018年2月、トリビューン・パブリッシングはアフィリエイトコマースビジネスへの入り口として商品レビューサイト、ベストレビューズ(BestReviews)の60%を6600万ドル(約70億4650万円)で取得。シカゴ・トリビューン(Chicago Tribune)によれば、買収から2年足らずの2020年12月、トリビューン(と残りの40%を保有するBRホールディング)はサイトをネクスター・メディア(Nexstar Media)に1億6000万ドル(約170億8240万円)で売却した。この取引で9600万ドル(約102億5000万円)の利益を得たことになる。
トリビューンは今も販売後にアフィリエイトコマース売上を得ているが、ベストレビューズの運営管理とそのための経費は不要になった。シカゴ・トリビューンの編集長も務めるマクマホン氏によれば、トリビューンはネクスターとコンテンツライセンス契約、売上分配契約も結んでいるという。また、トリビューンは現在も9つのニュースサイトでベストレビューズのコンテンツを配信し、読者に帰属する売上の手数料を手にすることができるとマクマホン氏は説明する。
マクマホン氏は売上分配の正確な条件を明かさなかったが、複数年にわたる長期契約だと述べている。「我々のeコマース事業の大部分はベストレビューズを通じたものであり、今後もそのやり方を継続するつもりだ」と、マクマホン氏はいう。契約の締結からまだ6週間しかたっていないものの、ベストレビューズとの継続的な売上分配によって、トリビューンのコマース事業は前年と同レベルを維持できる見込みだと同氏は予測している。
ただし、マクマホン氏はコマース売上を得るための道をベストレビューズとの関係のみに限定しようとしているわけではない。読者にとってオーガニックと感じられるサイトとのアリフィエイトパートナーシップを積極的に模索しているという。
「辛うじて表面を引っかいた程度」
USAトゥデイ・ネットワーク(USA Today Network)は系列の商品レビューサイトであるレビュード(Reviewed)をもっと活用しようと考えている。レビュードは2011年、USAトゥデイ・ネットワークの親会社ガネット(Gannett)に非公開の金額で買収された。
レビュードのゼネラルマネージャーを務めるクリス・ロイド氏によれば、2017年末にアフィリエイトリンクを導入してから、サイトの売上は過去4年に渡って前年比50%超の増加を続けているという。成長はすべてアフィリエイトコマースビジネスに起因するもので、売上全体の75~80%を占めるまでになったとロイド氏は述べている。
ロイド氏のチームは最近、レビュードのコンテンツをUSAトゥデイ・ネットワークのローカルニュースサイトに統合し始めた。こうしたコンテンツ共有の結果、レビュードのオーディエンスは過去12カ月で倍増した。現在、300を超えるローカルニュースサイトの編集者が全社共有のコンテンツ管理システム(CMS)を介し、担当サイトに好きな記事を掲載できるようになっている。
「彼らが自分たちでは制作しないようなコンテンツを手に入れる機会ができた」と、ロイド氏は話す。地方紙のサイトで商品が売れた場合、手数料は分配されることになっているが、ロイド氏は分配の詳細を明かしていない。
「ローカル側に関しては、辛うじて表面を引っかいた程度だ。この巨大なネットワークに我々のコンテンツを配信するチャンスはまだいくらでもある」と、ロイド氏は語った。
[原文:‘We’ve barely scratched the surface’: How publishers are thinking about affiliate commerce in 2021]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島 翔平)