年の秋は対面イベントが真っ盛りとなっている。しかし、多くのパブリッシャーたちは、インフレやパンデミックの影響が続いた結果、こうしたイベントの開催にかかるコストが上昇したことを認識している。価格の上昇を緩和するため、チケット価格の引き上げから、早期の計画などさまざまなアプローチを取っている。
夏が終わりを迎えた今、今年の秋は対面イベントが真っ盛りとなっている。しかし、多くのパブリッシャーたちは、インフレやパンデミックの影響が続いた結果、こうしたイベントの開催にかかるコストが上昇したことを認識している。
タイム(Time)、バッスル・デジタル・グループ(Bustle Digital Group:BDG)、リカーレント・ベンチャーズ(Recurrent Ventures)のビジネス・オブ・ホーム(Business of Home)などのパブリッシャーたちは、送料、材料費、ケータリング、人件費などのサービス価格の上昇を緩和するため、チケット価格の引き上げから、早期の計画、イベントごとの不要なものの洗い出しまで、さまざまなアプローチを取っている。
パブリシス・グループ(Publicis Groupe)の北米における体験型エージェンシーであるパブリシス・エクスペリエンシャル(Publicis Experiential)のプレジデント、グラント・オグバーン氏は「コストは全体的に上昇している」と述べた。価格の高騰は「輸送コストの上昇、サプライチェーンの問題、製品とリソースの需要増加に牽引されている(中略)私たちは緊張感を持って注視している」という。
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コストが上昇している分野
広報担当者によると、タイムのイベントチームが費用の増加に最初に気づいたのは、同社が昨年の第4四半期に対面のライブイベントを開始したときだったという。オグバーン氏は、過去8カ月でコストが上昇したと述べている。
BDGでブランドマーケティングと体験を担当するリンジー・リーフ氏は、人件費の上昇は、製造(イベントの物理的な要素の制作)からスタッフ配置に至るまで「プロセスのあらゆる部分に影響を及ぼす」という事実を考えると、特に痛手だと述べている。
ビジネス・オブ・ホームのファウンダー、ジュリア・ジョンストン氏によれば、デザイン業界のプロフェッショナルたちのために9月12日〜13日にニューヨークで開催された「家の未来(Future of Home)」イベントのプランニングにおいて、彼女が見た主なコスト増加は、技術、イベントデザイン、グラフィックデザインなどの制作スタッフだったという。彼女はこれを、今月のイベントスタッフの需要の高さと、今年の独立請負業者(いわゆるフリーランサー)の料金引き上げに起因すると考えている。リーフ氏とジョンストン氏は、人件費がどれだけ増加したかについての数字は明らかにしなかった。
ニューヨークの体験型エージェンシーであるメイクアウトNYC(Makeout NYC)の共同ファウンダー兼エグゼクティブ・プロデューサーであるエリック・フレミング氏によると、同社のクライアントのなかには、ゲストのイベント参加を助けたり、参加者とのエンゲージメントを持つといった、ブランドアンバサダー的な業務を支援する無償のボランティアを提供しているところもあるという。
今もCOVID-19検査を必要としている企業は、そうした検査をイベント会場で提供するためのコストも負担している。たとえば、検査そのものの費用から、検査を実施するためのスタッフの雇用に至るまでのさまざまなコストだ。イベントスタッフについて、タイムの広報担当者は正確な人数は明かさなかったが、同社は通常より少なくとも10%多くのスタッフを雇用することを目指していると述べた。PCR検査にかかる費用は、イベントで一人あたり約300ドル(約43497円)だという。
「家の未来」イベントでのケータリングは、例年より約33%高かったとジョンストン氏は言う。
コスト軽減への取り組み
イベント費用の上昇を相殺するために、BDGは前もって計画を立てている。
リーフ氏は「計画を立てる時間が多ければ多いほど、同じ目標を達成するために、より創造的で柔軟になることができる。準備に使える時間が短い場合、ピンチに陥ったとき、利用できる選択肢が限られてしまう。(中略)この文脈では、時間と柔軟性が強い味方だ」と述べた。
同氏は、ベンダーやスポンサーと話をする時間を十分に持つこと、そして製造や出荷、レンタルの時間を十分に持つことがこれまで以上に重要だと述べている。BDGの大会チームは、大会の6カ月前からスポンサーと協議を始め、2カ月〜3カ月前から企画を始める。理想的には、製作には少なくとも1カ月を充てる計画だという。
メイクアウトはまた、「可能な限り迅速に」イベントデザインの決定を行うことを後押しする、とフレミング氏は言う。これによって、「法外な緊急の輸送コスト」を回避し、「カスタムで何かを製造するための値段オプションを探求するためのより長い道のりを提供する」と彼は言った。
タイムの広報担当者によると、同社は今年、計10回の対面イベントを開催する計画だが、イベントの外観と空気感に対するアプローチを工夫する必要があったという。同社は、予算のほかのカテゴリーにおける削減または排除できないコストを相殺するために、より安価な建築材料またはよりシンプルなセットデザインを選択するようだ。
リーフ氏によると、BDGは広告主やイベントパートナーとの話し合いのなかで、「何が最もインパクトを与えるか」を優先し、残りを切り捨てる必要があったという。「必要不可欠なものが何か、欲しいかもしれないが必要ではないものは何か」と彼女は言った。
イベント費用の増加は、広告主がスポンサーになることの費用が高くなることも意味している。「私たちがアクティベートしている方法が、アクティベーションに多くの費用がかかるのであれば、当然ながらスポンサーシップ料にも多くの費用がかかる」とリーフ氏は語る。同氏は、BDGが主催するさまざまなイベントのために、これらの料金がどれだけ値上げされたかについては明らかにしなかった。しかし、ビジネス・オブ・ホームとタイムは、イベント制作費増加の結果としてのスポンサー料引き上げはしなかった。
チケット価格の値上げも
ライブイベントに関連する費用の上昇を相殺するため、ビジネス・オブ・ホームはチケット価格を引き上げた。
2019年に開催された「家の未来」の対面イベントのチケットは695ドル(約95604円)だった。2021年にこのイベントが対面とオンラインの両方で開催されたときは、チケットの価格は同じだった。今年、完全対面イベントのチケット価格は100ドル(約14507円)から300ドル(約43522円)上昇し、同社はより高いチケットオプションを追加した。通常の入場料は795ドル(約11万円)、VIPチケットは995ドル(約14万円)だ。チケット販売は約550枚(2019年と同じだが、ハイブリッドイベントだった2021年と比べると100枚の増加)と前年並み。すべてのBDGイベントは無料で参加でき、タイムのイベントにもチケットはない。
ジョンストン氏によると、ビジネス・オブ・ホームには値上げについての質問やコメントは届いておらず、「人々はインフレが要因だと理解しているようだ」という。
[原文:How publishers are circumventing the rising cost of in-person events]
Sara Guaglione(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)