2022年は米国に拠点を置くパブリッシャーやオーディオプラットフォームから、バイリンガルの人々や米国外のリスナーのためのポッドキャストが増えると予想されている。各企業は、英語以外の言語でのポッドキャスト制作を強化し、世界的なリスナーベースを拡大する機会をつかんでいる。
2022年は、米国に拠点を置くパブリッシャーやオーディオプラットフォームから発信される、バイリンガルの人々や米国外のリスナーのためのポッドキャストが増えると予想されている。バイス・メディアグループ(Vice Media Group)、iハートメディア(iHeartMedia)、ティンカーキャスト(Tinkercast)などの企業は、英語以外の言語でのポッドキャスト制作を強化し、世界的なリスナーベースを獲得しようとしている。米国のポッドキャスト視聴者数は世界最大だが、英語圏以外の企業が抱えるリスナーベースも、大きく成長しつつある。
たとえば、中国とブラジルは聴取者数で第2位と第3位を占めており、eマーケター(eMarketer)によると、2021年には、南米諸国でのポッドキャスト視聴の成長が、北米と欧州を上回る見込みだという。
より多くの米国外のリスナーを獲得するためには、パブリッシャーやオーディオプラットフォームはポッドキャストを英語以外の言語に適応させなければならず、翻訳から二言語制作まで、さまざまなアプローチを取っている。また、英語以外のユーザー向けに作られたポッドキャストにも投資している。
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「ここ数年の国際的な成長傾向は間違いなく大きいので、パブリッシャーたちがサービスを拡大しようとしていることに驚きはない」と、ポッドキャスト分析サービスのチャータブル(Chartable)の共同創設者で最高経営責任者を務めるデイブ・ゾロブ氏は語った。
いまや半分以上が非英語
ワシントン・ポスト(The Washington Post)は、数年前にこの新興成長分野に飛びつき、その成果を上げ続けている。
同社は2019年に「エル・ワシントン・ポスト(El Washington Post)」というスペイン語のニュース・ポッドキャストを開始し、2020年9月には週に2回のペースから4回に増やした。同社の広報担当者によると、ダウンロード数は2020年から2021年にかけて67%増加したという。ユニークリスナー数は2020年12月から2021年12月にかけて48%増加した。アメリカ以外でダウンロード数が多い国はメキシコ、コロンビア、スペイン、ペルーだという。
国際市場を開拓しているのはワシントン・ポストだけではない。ゾロブ氏によると、2021年にローンチされ言語のタグ付けがされた60万以上のポッドキャストのうち、53%が非英語のタグを付けている。
対照的に、2020年に登場した90万の新しいポッドキャストのうち、英語以外の言語で制作されたものは半分以下だった。英語に次いで、もっとも人気の高い5つのポッドキャスト言語は、スペイン語(18%)、ポルトガル語(11%)、インドネシア語(7%)、ドイツ語(3%)だった。同氏によると、これらの主要言語は2020年から2021年で変わっていないという。
ベリトーン・ワン(Veritone One)でポッドキャストとインフルエンサー・マーケティングを担当するシニア・バイスプレジデントのスティーブン・スマイク氏は、「我々は、グローバルでのリスニングと(リスナーにとっての)母国語でのポッドキャストの成長を見てきており、我々のクライアントの数も同様に増えている」と語る。
子供向けポッドキャストの翻訳
子供向けポッドキャストのプロデューサーであるティンカーキャストは2022年、同社の代表的な科学とテクノロジーに関する番組「ワオ・イン・ザ・ワールド(Wow in the World)」をドイツ語、日本語、スペイン語の3つの言語に翻訳すると、ティンカーキャストの最高経営責任者であるメレディス・ハルパーン=ランザー氏は述べた。今後、この番組はフランス語、ヒンディー語、アラビア語にも翻訳される予定だ。
平均すると、同番組の月間ダウンロードの17%はアメリカ国外に住む人びとによるものだ。そのほとんどの人は、オーストラリア、イギリス、ニュージーランド、カナダ(カナダはフランス語も公用語としている)などの英語圏に住んでいる。しかし広報担当者によると、ティンカーキャストのリスナーは、中国、日本、台湾、ドイツ、韓国、メキシコにもいるという。
ハルパーン=ランザー氏によると、翻訳プロセスはまず、英語以外の言語で同番組の吹き替えを録音するための国際的なタレントを投入すること、対応する国で配信と制作のパートナーを見つけることから始まるという。最終的には、海外の聴取者向けにオリジナルコンテンツを制作する計画だ。
しかし、人気ポッドキャストの翻訳から始めるのは「国際市場への簡単な一歩だ」とティンカーキャストの最高執行責任者、ジョディ・ヌスバウム氏は言う。「オペレーション面では、音声吹き替えだけであれば、それほど大きな負担ではない」とヌスバウム氏。「同番組は科学をテーマにした番組であり、科学はどの国にも存在する。子どもたちはどこでも科学について学びたいと思っている。コンテンツがグローバルに機能すると確信している」。
ベリトーンは最近、人工知能技術を使ってポッドキャストのホストの音声をクローン化し、その音声を使ってコンテンツの内容を翻訳する「人工音声クローニング(Synthetic Voice Cloning)」というソリューションを発表した。
スマイク氏によると、この技術は番組の体験とトーンを失わないようにするのに役立つという。この技術にはポッドキャスト・プロデューサーたちの翻訳プロセスを大きく効率化する可能性を秘めてるといい、「我々は多くのポッドキャスターたちと、彼らのコンテンツの外国語サポートについて話を進めている」と同氏は言う。
非英語リスナー向けの独自番組
バイス・メディア・グループ(Vice Media Group)のオーディオ担当バイスプレジデントであるキャサリン・オズボーン氏によると、同グループは、より国際的なポッドキャストを制作するために3つのアプローチを取っているという。
最初のアプローチは、英語以外の言語でオリジナルのポッドキャストを開発することだ。バイスは日本語、オランダ語、ヒンディー語、スペイン語などの言語でポッドキャストを制作している。チームは今年、ビデオゲームに関するアラビア語の番組を立ち上げ、日本語の番組も増やす予定だ。
同グループはまた、今後1〜2年のうちに、英語とヒンディー語の両方で「インドの市場に届く多数の番組」を制作するとオズボーン氏は言う。バイスのポッドキャスト聴取者の約70%から80%は米国在住だが、海外からの聴取者は増えているという。しかしこれ以上の詳細は語らなかった。
これらの新しい番組の一部は、スポティファイ(Spotify)などのオーディオプラットフォームとの提携によって提供される予定だが、オズボーン氏によると、配信パートナーを決めるかどうかは、ユーザーが住んでいる国のどこでポッドキャストを聴いているかによって決まるという。
バイスのオーディオチームによるもうひとつのアプローチは、人気のポッドキャスト番組から派生したシリーズを、さまざまな地域や言語向けに制作することだ。同社にとって初めての試みではあるが、オズボーン氏によると、この分野のアイデアを開発中だという。
たとえば、オーストラリア発のシリーズである「エクストリームズ(Extremes)」は、ロンドンからシドニーまで、自分で郵便物として箱のなかに入り、運ばれた男性など、「非常に過激な行動」に関する物語を取り上げていると述べた。フランス語しか話せない人物が体験した話のような、英語ではできない物語を含むほかの言語で同番組の1シーズンを作り出す可能性があると彼女は言う。「我々はますます、成功するフォーマットを採用し、それを翻訳するのではなく、各国の文化に合うように作り直すことを検討している」とオズボーン氏。
3つ目のアプローチは、バイスのバイリンガルの取り組みで、オズボーン氏はこれを「デュオ言語」ポッドキャストと呼んだ。同氏はバイスが知られているドキュメンタリー形式のポッドキャストでは(英語での制作後に対象の言語への)ダイレクトな翻訳をする方法ではうまくいかないと考えており、現在、ひとつのプロジェクトにおいて、ふたつのチームが協力してふたの言語で同時にプロジェクトを開発する「デュオ言語」アプローチをとっている。
リードチームはひとつの言語でストーリーを作成し、より小さなチームは2番目の言語で同じストーリーを作成する。これは2018年に始まった。ポッドキャスト「チャポ:裁判にかけられるキングピン(Chapo:Kingpin on Trial)」の制作の途中で、バイスのチームはスペイン語版も制作することを決めた。同社にとって、ふたつの異なる言語で作られた初めてのオーディオドキュメンタリーとなったが、それは「(足りない知識や経験を)急いで補わなければならなかった」ことを意味していた、とオスボーン氏は言う。
昨年3月に公開された「ザ・クライシス(The Crisis)」(スペイン語では「Contra Natura」)では、同社は正反対の戦略をとり、最初から、英語とスペイン語の両方で番組を制作したいと考えていた。「最初からそうすると知っていることの利点は、現地での制作に本質的に現れてくる。(中略)スペイン語で撮影したり質問したうえで、また英語で撮影することができる。また、現場での通訳を入れ込むこともできる」と彼女は言った。
番組はその後、お互いの言語版を相互にプロモーションすることができる。「チャポ:裁判にかけられるキングピン」では、バイリンガルのリスナーにスペイン語で聞きたいのならスペイン語版もあると知らせるための呼びかけが(英語版で)あった。同社はまた、スペイン語と英語のふたつのエピソードを同時に同じフィードで公開する実験も行っている。
オズボーン氏によると、現在開発中のポッドキャストには、英語とスペイン語の両方に対応したもののほか、英語とフランス語の番組が生まれる可能性もあるという。
プラットフォームも可能性を見出す
プラットフォームもまた、国際的なコンテンツの増加に注目している。Amazonが所有するオーディブル(Audible)の国際部門の責任者であるスーザン・ジュレヴィックス氏は、特にオーディブルで、睡眠、健康、スポーツといった世界中の聴取者に関連性があるトピックを扱った短編ポッドキャストが増加していると述べた。
広報担当者によると、2021年に全世界でのオーディブルの鑑賞時間は前年比で25%増加した(オーディブルは10カ国で展開しており、そのうちスペイン、フランス、イタリア、ドイツ、日本の5カ国では主に英語以外が使用されている)。
同社の最新のオーディオブックとポッドキャストのサブスクリプションサービスは、スペイン語を話すリスナーのために2020年9月にローンチされた。同社の広報担当者によると、初年度にリスナーは22万5000時間分の「オーディブルオリジナル(Audible Original)」ポッドキャストのコンテンツを視聴したという。
iハートメディアでもこの分野を拡大している。同社は昨年夏、ラテン系に特化したポッドキャストのマイカルトゥーラ(My Cultura)をローンチ。同社のデジタルオーディオグループ(Digital Audio Group)の最高経営責任者であるコナル・バーン氏によると、iハートメディアは彼らのリミテッドシリーズのポッドキャストを選び、スペイン語に翻訳するという。その後、英語とスペイン語のエピソードを同一フィードで同時に公開し、リスナーが英語かスペイン語を選択し、聴けるようにする。
同社はすでに、昨年10月に封切られたオーディオドラマ「プリンセス・オブ・サウスビーチ(Princess of South Beach)」で、この戦略をテストしている。
iハートメディアは過去6カ月の間で、フランスのメディア企業NRJグループ(NRJ Group)およびイタリアのGEDIグループ(GEDI Group)と、それぞれ今年、フランス語とイタリア語のリスナー向けに新しいポッドキャスト番組を共同制作する契約を結んだ。iハートメディアのオーディオコンテンツのなかでも、関連性があるものは、英語からフランス語またはイタリア語に翻訳され、またNRJおよびGEDIからのコンテンツも英語に翻訳されるという。バーン氏によると、将来的にはこのような言語に特化したパートナーシップがさらに増えるだろうという。「これは例外的な取り組みではない。今年は複数のリミテッドシリーズでこれに取り組んでいる」と彼は言った。
[原文:How podcast publishers and platforms are working to grow non-English language audiences]
SARA GUAGLIONE(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)