パンデミック、昨夏の人種差別抗議活動、そして大統領選挙のおかげで、「PBSニュースアワー(PBS NewsHour)」のデジタル動画は、2020年に入って視聴者数が急増した。しかし、過熱していた報道がひと段落した今、ニュースアワーはこれらの視聴者を維持し、新しい視聴者を惹きつけるための方法を探っている。
パンデミック、昨夏の人種差別抗議活動、そして大統領選挙のおかげで、「PBSニュースアワー(PBS NewsHour)」のデジタル動画は、2020年に入って視聴者数が急増した。米公共放送のPBSはそれまで2年近くにわたり、この夜のニュース番組をオンライン配信するためのリソースやコンテンツを増やしていた。
しかし、過熱していた報道がひと段落した今、ニュースアワーはこれらの視聴者を維持し、新しい視聴者を惹きつけるための方法を探っている。
新しい動画シリーズを計画中
ニュースアワーは今年、YouTubeやインスタグラムなどのプラットフォームで新しい動画シリーズを展開する計画だ。たとえば、YouTubeではさまざまな出来事を短く紹介した動画の人気が高いため、26名のスタッフを擁するニュースアワーのデジタルチームは、その週に十分な報道がなされなかった興味深いニュース記事をまとめて紹介する動画シリーズを開発中だと、PBSのニュースアワーでデジタル担当ディレクターを務めるトラビス・ドーブ氏はいう。
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また、全米上級特派員のアムナ・ナワズ氏がインスタグラムで配信しているライブQ&Aをレギュラーシリーズ化する計画もあると、ドーブ氏は明かした。このライブストリームは、アジア系アメリカ人へのヘイトインシデントやパンデミックといったテーマについて、ナワズ氏が視聴者からの質問に答えるという内容だ。こうした番組のレギュラー化は、ニュースアワーに出演しているパーソナリティに注目を集めるものとなるため、ニュースアワーのデジタル戦略に変化が起こったことを印象づけるだろう。ドーブ氏は、視聴者とニュースアワーに出演しているジャーナリストとのあいだに「より個人的なつながりが作られるようなコンテンツを生み出したい」と述べている。
さらに、ニュースアワーはYouTubeの新機能である「ショート」のテストも行っている。2月には、6年生(日本の小学6年生に相当)の児童たちが黒人の歴史における英雄について語ったショート動画を制作したほか、ジョー・バイデン大統領が閣僚の選出においてさまざまな壁を打ち破った件を取り上げた動画の制作を予定している。
レガシーが新戦略で成功した事例
こうした新しい番組は、PBSの番組ラインナップをニュースに大きく依存したメインのライブストリーム以外に拡大するのに役立つだろう。ニュースアワーは平日のほぼ毎日、YouTube、Facebook、Twitterで午後5時〜7時にニュースコンテンツをライブ配信している。また、夜のニュース番組やそのほかの緊急報道番組もライブ配信している(PBSのニュースアワー部門は、ライブニュースや速報ニュースを制作する主要チームとしての役割を果たしている)。2021年1月6日に起きた米連邦議会議事堂での暴動は、ニュースアワーのYouTubeチャンネルで最大の視聴者数を記録した。選挙人投票の集計が終了するまでのあいだ、およそ18万5000人の視聴者がYouTubeでニュースアワーのライブ放送を視聴したと、ニュースアワーでデジタル戦略担当エグゼクティブディレクターを務めるジェイムズ・ウィリアムズ氏は述べている。
「これはレガシーパブリッシャーが新しい戦略を採用して成功を収めた素晴らしい事例だ。しかもタイミングが非常に良かった」と、オーディエンス開発とマーケティングを手がけるトゥエンティファースト・デジタル(Twenty-First Digital)の創設者でCEOの、メリッサ・チョウイング氏は語っている。
ただし、米国では昨年にニュースや政治コンテンツの視聴者数が大幅に増加したものの、「2021年始めには通常の状態に戻り始める」と、チューブラー・ラボ(Tubular Labs)のCMOを務めるジョシュ・シュミーシン氏は話す。
ソーシャル動画分析を手がける同社によれば、ニュースアワーのYouTubeでの動画視聴数は、1月と2月に合わせて1億5400万件を記録し、前年同期の6220万件を上回ったという。だが、早くも減少が見られ始めた。2月には、YouTubeとFacebookでのニュースアワーのユニーク視聴者数は1510万人で、1月の2670万人より少なかったと、チューブラー・ラボは報告している。
ニュースアワーにとっての幸い
ニュースアワーにとって幸いなのは、公共放送であるPBSは動画を収益化していないため、視聴者数の維持に関して大きなプレッシャーを受けるわけではないことだ。PBSは、会員のテレビ局から支払われる会費、民間の財団や個人からの寄付、企業からの寄付、非営利法人のアメリカ公共放送社といった組織からの寄付を通じて資金を得ている。ニュースアワーが広告なしで動画を配信できるのはこのためだ。またこのおかげで、ニュースアワーのチームにはさまざまなテストを行う機会が民間より多く与えられている。
「CPMの下落や主要スポンサーの離脱を心配したり、広告配信にちょっとした変化を加えただけで収益に大きな影響が出るのではないかと気を揉んだりする必要がない」と、ドーブ氏は語った。
[原文:How PBS NewsHour is adapting its digital video programming strategy to a quieter news cycle]
SARA GUAGLIONE(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)