ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:以下、NYT)はこれまで、20年近く自社のブランデッドプロダクトの販売を行ってきた。特にここ3年間は、NYTストア(NYT Store)という、モダンなWebサイトを立ち上げてD2C事業を展開するなど、より積極的に取り組みが見られている。
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:以下、NYT)はこれまで、20年近く自社のブランデッドプロダクトの販売を行ってきた。特にここ3年間は、NYTストア(NYT Store)という、モダンなWebサイトを立ち上げてD2C事業を展開するなど、より積極的に取り組みが見られている。
いまのところ、NYTストアの売上と販売数は一貫して伸び続けている。さらに、2020年の感謝祭からサイバーマンデー、つまり11月第4木曜日からの5日間、NYTストア経由の販売数は、2019年の同時期と比べて、3.2倍を記録。NYTのコマース部門 バイスプレジデントであるマーク・シルバー氏は、ただ財務上の数字だけではなく、読者との繋がりが深まっていると述べる。
まさにこの点を狙って、NYTはクリスマス商戦期のマーケティング戦略として、11月下旬にNYTクッキング(NYT Cooking)をフィーチャーしたコレクションをNYTストアでローンチした。
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「私たちには、コアビジネスがとてもうまくいっているという贅沢な状況がある。昨今、我々を含めた多くのパブリッシャーが、新しい収入源を探している。これは『(必要不可欠でなくとも)あれば素晴らしい』といった性質のものだ」と、シルバー氏は述べる。
コレクションの中身
NYTの収支報告書によると、第3四半期の「ストア、アフィリエイト収益、ライセンス収益など、広告および購読事業以外のすべて」カテゴリーは4670万ドル(約48億円)で、同社の総収益の10%を占めている。
スタート当初のNYTクッキングのコレクションは、NYTクッキングのWebサイトにおける人気コンテンツから抜粋したフレーズをフィーチャーした、衣類やアクセサリーなどがメインとなっている。
たとえば、「generously buttered noodles(バターをたっぷり塗ったヌードル)」と胸にプリントされたトレーナーは、2017年に公開されたレシピコンテンツにちなんだもの。このレシピは、たっぷりとバターを塗った麺に、パセリ4分の1カップを加えるという、シンプルな調理法が話題となりヒットしたコンテンツだ。なお、どのような言葉をプロダクトにフィーチャーするかは、シルバー氏のチームが、NYTクッキングの編集チームと密接に協力して選定している。
コアなファンをターゲットに
同氏によると、NYTクッキングコレクションは、強いコミュニティー意識を持った、コアなファンをターゲットにしているという。これは、以前からNYTが展開しているヒットプロダクトである、クロスワードゲームをフューチャーしたコレクションとも共通している。
NYTストアで販売されるコレクションのほとんどは、時事性のある話題に合わせて企画される。たとえば、母の日に先駆けてはじまった「女性の権利(Women’s Rights)」コレクションは、女性の投票権を保証する、憲法修正第19条の批准100周年記念に合わせて販売された。しかし、クロスワード・コレクションは年間を通して販売されており、トレンドに左右されずに高いパフォーマンスを発揮。事実、NYTストアにおいて、クロスワードコレクションのギフトセットは、NYTが扱うほかの一般的なギフトセットに比べ、4倍の売り上げ個数を記録している。
シルバー氏はこの成功を、60万人近くの購読者を抱える(2020年第3四半期末時点)、NYTクッキングでも再現したいと考えているのだ。
相性が良い
エージェンシーのツーバイフォー(TwoXFour)で、社長兼 最高戦略責任者を務めるケン・パスタナック氏によると、NYTクッキングはこの種の販売戦略において、ほかのバーティカルメディアよりも相性が良いという。たとえばアート分野の場合、ブランデッドプロダクトを通じて収益化するのは難しい。広告以外の収益拡張となると、考えられるのはイベントのチケットくらいだろう。
「アートという領域で、自社プロダクトを販売するのは難しい」とパスタナック氏は述べる。対してNYTクッキングはモノを扱う上に、調理器具といったプロダクトには、オリジナルのデザインを入れるためのスペースがある。現在NYTクッキングは、レシピを参照するユーザーに向け、エプロンやスマートフォン、タブレットのスタンドを販売している。
「どのようなコンテンツが読者の共感を呼んでいるのか、そのバロメーターを参照しつつ、チャンスを掴んで実行に移していきたい」。
KAYLEIGH BARBER(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)