最近では、何かと意見が分かれがちなパブリッシャーのあいだで、ニュースレターに目を向ける企業が増えている。彼らはニュースレターを、有料購読者のつなぎ止めや新たな購読者獲得のツールとみなしているのだ。有料購読者向けのニュースレターは、次から次へと生まれ、無料のニュースレターも読者獲得の手段として利用されている。
メディアビジネスに関わっている人なら、この1年間に新しいニュースレターを作成したか、それを少なくとも真剣に検討したことがあるだろう。実際、あなたの受信箱は、毎朝届けられるニュースレターで溢れかえっているのではないだろうか。また最近では、何かと意見が分かれがちなパブリッシャーのあいだで、ニュースレターに目を向ける企業が増えている。彼らはニュースレターを、有料購読者のつなぎ止めや新たな購読者獲得のツールとみなしているのだ。
パブリッシャーは、競合するソーシャルメディアのアルゴリズムから離れて読者に直接アプローチしたほうが、読者の期待を正確に把握できることに気づき始めた。そして、彼らのニーズに応えようとサブスクリプションビジネスに乗り出している。有料購読者向けのニュースレターは、次から次へと生まれているのが現状だ。無料のニュースレターも、リンクをクリックしてペイウォールにぶつかった読者の関心(あるいは飢餓感)を高め、ウォールの向こう側にあるコンテンツにお金を払ってもらう新たな手段として利用されている。
ロサンゼルス・タイムズ(The Los Angeles Times)、ニューヨーク・マガジン(New York Magazine)、クォーツ(Quartz)などのパブリッシャーは、ソーシャルメディアプラットフォームのアルゴリズムを回避して読者に直接アプローチする手段として、ニュースレターを採用している。また、自社のサブスクリプションビジネスに合わせてニュースレター戦略を調整するパブリッシャーも増えている。
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有料購読者向けサービスとして
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は、優秀なジャーナリストを10万ドル(約1000万円)単位の契約金で引き抜いているサブスタック(Substack)などのサブスクリプションプラットフォームに対抗すべく、18種類の有料購読者向けニュースレター(既存と新規の両方を含む)が読めるサービスを8月初めに開始した。ニューヨーク・タイムズによれば、約1500万人の読者が同社の発行する50種類のニュースレターのいずれかを毎週読んでいるという。
クォーツは、3年前から続けてきたサブスクリプションプログラムを、ニュースレターを中心に再編成すると8月1日に発表した。きっかけは、有料購読者の75%が受信箱からクォーツのコンテンツの大半にアクセスしている実態が、事前の調査で明らかになったことだ。クォーツは、11種類のニュースレターで合わせて130万人の購読者を獲得している。ニュースレターのうち5種類は有料購読者向けで、毎週の平均開封率はおよそ35%だという。メールマーケティング会社のメールチンプ(MailChimp)によれば、メディア業界の標準的な開封率はおよそ22%だという。
インフォメーション(The Information)は、無料のニュースレターを3月に始めたばかりと、ニュースレターの分野では新規参入組だ。創設者で編集長のジェシカ・レッシン氏は以前、(現時点で7種類ほどある)ニュースレターについて、「時機が来れば」有料化すると米DIGIDAYに対して語っていた。同社は昨年、20数名の人材を採用したが、その多くがニュースレターを増やして有料購読者を拡大する役割を担っている。
ニューヨーク・マガジンは、5種類のニュースレターを昨年に創刊したと、同社の消費者向け収益担当部門ゼネラルマネージャー、ジェイソン・シルバ氏は述べている。また、無料で読めるこれらのニュースレターに加え、有料購読者向けニュースレターの作成を「将来検討する可能性もある」という。シルバ氏はニュースレターのコンバージョン率を明らかにしなかったが、「匿名のウェブユーザー」や他のチャネル経由でウェブサイトを訪れた人と比べて「飛躍的に高い」という。
読者にとってのメリットも提供
また、パブリッシャーはニュースレターを利用してコンテンツをキュレーションすることで、読者が膨大な量のテキスト、音声、動画コンテンツのなかから最適なものを見つけやすくすることができる。読者にとっては、こうした機能がサブスクリプションの価値あるメリットになるかもしれない。
ロサンゼルス・タイムズでCMOを務めるジョシュア・ブランドー氏は、同社が発行するすべてのコンテンツを読者が追いかけるのは「不可能」だと話す。ニュースレターは「読者が見逃していたかもしれない記事をキュレーションする」のに役立つと、ブランドー氏は語った。同社は現在、既存の有料購読者に加えて潜在的な購読者にサービスを提供する方法や、離れていった人々を取り戻して解約率(サブスクリプションを解約した購読者と更新しなかった購読者の率)を減らす方法を検討しているところだ。同社では、解約率が数年前に大きな問題となっていた。ただし、ブランドー氏は最新の解約率も過去の解約率も明らかにしていない。
また、ニュースレターのメールを開くという習慣は、読者をパブリッシャーのブランドにつなぎ止め、解約の可能性を減らすことにつながる。クォーツでは、ニュースレターをリテンション(顧客維持)戦略の一環と捉えており、「読者とより親密で持続的な関係」を築くことで解約の可能性は減少すると、編集長のキャサリン・ベル氏は述べている。
ロサンゼルス・タイムズの場合、登録後14日以内にサイトに戻ってこなかった読者やメールを開かなかった読者は、そのまま解約してしまう危険性があるとみなしている、そのため、同社はニュースレターの登録数などのデータを、「解約するか購読を続けるかの重要なシグナル」のひとつとして分析していると、ブランドー氏は説明した。
[原文:How newsletters have helped publishers build up their subscription businesses]
SARA GUAGLIONE(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島 翔平)