YouTubeでNBCニュースの報道番組が数百万ドルの収益を稼ぎ出し、視聴者数の大幅増にも成功している。2020年に高まったニュースへのニーズが後押ししたのは確かだが、成長要因はそれだけではない。広告主の意識の変化、YouTube上での人気コンテンツの変化などさまざまな要因が作用している。
過去、NBCニュース(NBC News)をはじめTVネットワークの報道機関勢は、YouTubeを「副業」扱いしていた。従来型TVの自社番組をそのままYouTubeで流し、追加の広告収益が多少なりとも得られれば、そしてその視聴者を多少なりとも従来型TVに、あるいは自社所有・運営のデジタル媒体に呼び込めれば、それでよしとしていた。
だが、この数年で――とりわけ2020年を境に――YouTubeはNBCニュースの動画戦略における端役から主役になった。「2020年、我々はYouTube戦略に本腰を入れることにした。きわめて重要な存在と位置づけている」と、NBCユニバーサル・ニュース・グループ(NBCUniversal News Group)のバイスプレジデント、クリス・ベレンド氏は言う。
NBCニュースのなかでYouTubeの重要度が急上昇した背景には、YouTubeでの収益急増がある。ベレンド氏はYouTubeにおける年間収益額について、具体的な数字は開示しなかったが「数百万ドル(数億円)」単位であり、FacebookやTwitterを含め、ほかの全プラットフォーム経由の収益をはるかに上回ると断言する。「YouTubeは動画収入に関して言えば、ほかの比ではない。言うまでもなく、YouTubeは動画視聴プラットフォームであり、TwitterとFacebookは違う」。
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YouTubeにニュースを
しかし、多くの広告主は依然、ニュース番組への広告出稿に懸念を抱いている。2021年、ニュースサイクル(情報がニュースになる速度・頻度)が2020年よりも多少落ち着けばそれも変わる可能性はあるが、いまはまだ何とも言えない。「政府の発言がもう少し大人しいものに戻り、それを受けて、安心して広告を出せる企業が増えてくれることを願うばかりだ」と、あるエージェンシー幹部は言う。
とはいえ、NBCニュースといった高名なブランド、そして同社の保有する従来型TV、コネクテッドTV、デジタルプラットフォームのいずれにも通用する豊富なコンテンツは、間違いなく有利に働く。広告主はニュース動画に広告を打つ際、メディア企業からの直接購入を好む傾向にある。理由は明快で、そのほうがキャンペーンの管理がしやすいからだ。加えて、ニュース番組をことごとく避けようとするのは、大勢の、社会情勢に敏感なオーディエンスを失うリスクを伴うことに、一部の広告主は気づきはじめている。「事実として、そこにはアイボール(『眼球』転じて『サイト訪問者』の意)がある」と、別のエージェンシー幹部は言う。
NBCニュースのYouTube収益増は、NBCニュースの動画専門チームがYouTubeに費やした時間と労力の正当性を証明している。ベレンド氏によれば、同チームは10名足らずの社員からなり、扱う範囲はYouTubeをはじめとするデジタル動画プラットフォームから、バイアコムCBS(ViacomCBS)傘下のコネクテッドTVプラットフォームであるプルートTV(Pluto TV)、NBCユニバーサル自身のデジタルサイトやアプリまでと、かなり幅広い。YouTubeに関して言うと同チームはNBCニュースの動画編集を担っており、それにはヘッドラインにするニュースの選定や、サムネイルの加工なども含まれる。また、これと並行して、テレビでの放送後にYouTubeにアップする「NBCナイトリーニュース(NBC Nightly News)」や「ミート・ザ・プレス(Meet the Press)」といった長尺の報道番組をフル視聴したいと望む人がどの程度いるのかなど、視聴に関する最新動向の分析もおこなう。
NBCニュースの広報によると、2020年3月から12月の10カ月間、NBCナイトリーニュースのYouTube視聴者数は1回の放送分につき平均160万人で、その30~40%がTV画面で視聴した。一方、今年に入ってから平均220万人が最低20分、ミート・ザ・プレスをYouTubeで視聴している。
報道番組が「人気コンテンツ」に
これらの報道番組および、NBCニュースがYouTubeで配信するライブストリーミングが、同社のYouTube視聴の多くを占めるコネクテッドTV人気を後押ししているようだ。広報によれば、NBCニュースのYouTube動画の視聴は、約半数がTV画面でおこなわれているという。
収益増とともに視聴数も急増している。オンライン動画の解析をおこななう企業、チューブラー・ラボ(Tubular Labs)のデータによると、2021年1月21日現在、同月における同社のYouTube視聴数は2億580万回だった。これは昨年同月と比べると252%の伸びであり、しかも昨年1月の動画アップ数が505だったのに対し、今年1月はわずか381だった。コロナ禍が悪化するなか、2020年にNBCニュースのYouTube動画視聴数は劇的な伸びを見せ、2月に6180万回だった視聴数は、3月に2億2060万回へと跳ね上がった。それに伴い、動画のアップ数も2月の571本から3月は714本に増えている。
2020年3月から12月にかけて、NBCニュースYouTubeチャンネルの1カ月の平均視聴数は1億9620万回、動画アップ数は平均612本だった。当然ながら、先の米大統領選はとりわけ、同社のYouTube視聴数増に貢献したと思われる。11月の視聴数は3億7590万回に達し、同社の年間最高を記録した。
2020年は、新型コロナウイルス、ジョージ・フロイド氏殺害を受けて全米各地で勃発した暴動、そして米大統領選と続くなか、未曾有のニュースサイクルとなり、これも動画視聴者増を後押しした。だが、要因はほかにもあった。YouTubeでは依然、ライブおよび長尺動画の視聴数が伸びている。その恩恵を受けているのは、ゲームストリーマーだけではない。2021年1月20日、複数の米報道機関が新大統領就任式を12時間近くにわたり生配信した。NBCニュースも然りで、同社のYouTubeストリーミング動画の視聴数は、1月22日時点で600万に達した。
人気コンテンツの傾向に変化
「この2年ほどで、人気コンテンツの傾向に大きな変化があり、YouTubeでは一般に、ライブ動画でのリーチが大きくなっている」と、チューブラー・ラボのチーフレベニューオフィサー、デニス・クラッシェル氏は言う。
ライブ動画はNBCニュースのYouTube視聴数増だけでなく、その視聴者を同社のデジタル媒体に誘い込む役も果たしている。先の大統領就任式といった大規模イベントのライブ配信中、NBCニュースはYouTubeのライブチャットおよびカード機能を利用してリンクを表示し、同社のアプリのダウンロードやサイト訪問を促している。「ライブチャットは積極的に活用している機能であり、エンゲージメントの向上に間違いなく役立っている」とベレンド氏は言う。
NBCは2021年、YouTubeでのライブ動画のさらなる活用を考えており、NBCニュースのサイトだけでなく、「トゥデイ(Today)」といった同社の他番組にも拡張していくと、ベレンド氏は言う。「ライブこそ、我々が今後成長していく場だ」。
[原文:How NBC News is making ‘many millions’ of dollars on YouTube after adjusting its strategy]
TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)