これまでの1年で、「ハフィントン・ポスト(Huffington Post)」からその名称を変え、Webサイトのデザインを刷新し、新編集長に迎え、自己改革を試みている「ハフポスト」。そのプロダクト責任者となっているのが、ジュリア・ベイザー氏だ。そんな彼女のキャリア半生を追う。
「ハフポスト(HuffPost)」がWebサイトのデザインの刷新を今年4月に発表したあと、ジュリア・ベイザー氏は十数人の同僚と一緒にマンハッタンのミッドタウンにある小さなカラオケバーでお祝いをした。ベイザー氏はマイクを手にして、ガース・ブルックスの曲を熱唱。ルイジアナのバトンルージュに残してきた恋人を歌ったその曲は周りから好奇の目で見られたが、ハフポストのプロダクト責任者でバージニア州ヴィーナ出身の彼女は、そんな周囲の視線をヨソに、その夜、再びマイクを手にステージに戻った。
「ジュリアはニューヨークにいてもバージニアの魂を決して失うことはない」と述べるのは、ハフポストのシニアプロダクトマネージャーで、「ワシントン・ポスト(The Washington Post)」とハフポストの両方でベイザー氏の下で働いてきた、エミリー・イングラム氏だ。
ハフポストはインターネットの初期に寄稿者ネットワークを背景に拡大したが、今日では、そのアイデンティティを模索している。Vox Mediaやリファイナリー29(Refinery29)といった、新たに登場した急成長するパブリッシャーらとの競争に直面しているのだ。動画への対応が遅れており、寄稿者ネットワークが機能しなくなりつつあるなか、よりオリジナリティがある報道に予算をシフトさせる必要が出てきた。ハフポストは、最近設立されたAOLとヤフー(Yahoo)の複合企業体、オース(Oath)の下で運営されており、去年同社を去った創設編集者のアリアナ・ハフィントン氏がいなくなったあと、なんとか持ちこたえようとしている。
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これまでの1年で、同メディアは「ハフィントン・ポスト(Huffington Post)」から「ハフポスト」へと、その名称を変え、Webサイトのデザインを刷新し、新たにリディア・ポルグリーン氏を編集長に迎えることによって、自己改革を試みている。ブランドの再生を成功させるためには、都会の洗練された人たちにカントリーミュージックを聞かせ続けられるほど大胆な人間がハフポストには必要だ。
「私が前職のワシントン・ポストにいたとき、ハフポストは自信に溢れた人がたくさんいるクールなデジタル新興企業だと思っていた。いまも変わらず自信に溢れた社員がいて欲しい」と、ベイザー氏。
ワシントン・ポストでの功績
15カ月前にハフポストに入社する以前、ベイザー氏はエンターテイメントガイドを担当するプロデューサーとして、ワシントン・ポストに11年間勤めた。AmazonのCEO、ジェフ・ベゾス氏が2013年にワシントン・ポストを買収すると、エンジニアリングの経歴やMBAを持たない彼女は、ベゾス氏が彼女のポジションをAmazonの優秀なエンジニアに渡してしまうのではないかと心配した。それは現実のものとなったが、ベゾス氏はベイザー氏の担当するモバイル部門に大金を投入し、商品部門で複数の昇進を受けることになった。
商品部門では、コマーシャルプロダクトとテクノロジー責任者のジャロッド・ディッカー氏と緊密に協力した。2人は旧本社の向かいにある、さえないバーに定期的に通っては、ワシントン・ポストがモバイル上の分散プラットフォーム活用にどのように取り組むべきかを議論した。ワシントン・ポストのGoogle AMP、Facebook インスタント記事、Apple Newsの活用はベイザー氏が主導したと、ディッカー氏は語る。
また、ベイザー氏は「ワシントン・ポスト」アプリのAmazon Kindleへの導入を実施した。これでベゾス氏が自身の所有する新聞社の野望を前進させるためにAmazonをどう利用していこうとしているのかが、明らかになった。こうして同氏は、コードネーム「レインボー(Rainbow)」として知られる、そのアプリの導入を指揮した。これは雑誌のようなフォーマットで、一度にひとつの記事が画面に表示され、小さな端末上でも記事のナビゲーションがより簡単になるアプリだ。レインボーアプリに敬意を表して、ベイザー氏は娘の5歳の誕生日に、6層の虹色のケーキを焼いて、娘の誕生日とアプリローンチのお祝いをした。
「ベイザー氏によってワシントン・ポストは、商品についてよりプロフェッショナルに考えるようになった。彼女は、人々の目を同じ方向に向けさせる能力に長けており、その決断力はハフポストが求めていたものだ」と、現在はマイク(Mic)で働いており、ワシントン・ポスト時代の同僚で親友のコリー・ハイク氏は語る。
ハフポストで目指すもの
ハフポストでベイザー氏は、Webサイトのリニューアルで忙しく立ち回っている。商品チームを4つのグループに再編成することで、エンジニアのスケジュールを新製品の公開と編集上のニーズにより沿ったものになるように調整。チームをグループに分けることで、プロダクトチームがテックスタックのさまざまな分野と提携していたために発生していた無駄や堂々巡りを減らすことになった。新しい機能をより早く実装できるようになり、それにより動画視聴率や完了率が上がっているとベイザー氏は述べた。
ベイザー氏の下、ハフポストはモバイルWebから記事をアプリ内に引っ張ってくるのではなく、そのアプリ内で記事を読み込む技術開発を開始した。これにより、アプリ内でのページ読み込み時間が8秒短縮され、1回の訪問の記事閲覧数が8%増となった。また、彼女のチームはSnapchatやインスタグラムのストーリーに似た「ストーリーブック」機能のような新しい記事フォーマットも構築。なかでも注目すべきは、サイトデザインのリニューアルはベイザー氏が原動力になっていたことだと、事業開発責任者のマーク・シルバースタイン氏は語る。
来年、ベイザー氏は音声で起動するAlexaの機能とチャットボットを開発することを望んている。また、今秋には同社がアメリカの23の都市を訪ねて、アメリカの人々の生活を記録することをテーマにした「リッスン・トゥ・アメリカ(Listen to America)」プロジェクトのチャート、動画、インタラクティブデータセットの作成も考えている。
プロダクト責任者の台頭
業界で最先端のパブリッシャーを名乗るためには、ジャーナリズムの質と同様に編集コンテンツのパッケージとディストリビューションについても考慮しなければならず、そのためデジタルニュース企業ではプロダクト責任者が組織で台頭するようになってきた。ピンクのビーツ・バイ・ドクター・ドレ(Beats by Dre)のヘッドフォンをつけて職場に現れ、仕事に取りかかるベイザー氏は同僚から賞賛の的となっている。
「メディア企業の商品担当にはたくさんの栄光がある。しかし、常にスポットライトを浴びるのではなく、キーボードの前で地道に仕事を片付けるジュリア(ベイザー氏)のような人材がもっといれば、この業界はまだまだ良くなるだろう」と、ディッカー氏は述べた。
Ross Benes(原文 / 訳:Conyac)
Photo via HuffPost