ハーストUKのeコマース収益は第2四半期、前年同期比で322%の伸びを記録した。同社は、今期および前年同期の売上高を具体的には明かさなかったが、eコマースのこうした成長ぶりは、著しい広告収益減の痛みを多少和らげたことは間違いないだろう。
数ヵ月前、何百万もの人々がロックダウンの最中にあり自宅に篭っていた頃、ハーストUK(Hearst UK)が発行するとある雑誌のサイトで、4000ポンド(約57万円)もするポジターノ(Positano)のレースドレスが売れた。
「高価な商品だし、あれには驚いた」と、ハーストUKのチーフコマーシャルオフィサーを務めるジェーン・ウルフソン氏はいう。「ロックダウン中なのに、そんなドレスを着てどこに行くのかと」。
実際この5ヵ月間、そうした予測不能の購買行動を多くのパブリッシャーが目にしている。パブリッシャーは衝動買いを行う人々の気まぐれや、Amazonによるアフィリエイト手数料引き下げ問題に悩まされていた。加えて、在庫やサプライチェーンに関連する問題で、パブリッシャーのeコマースプログラムに参加していたセラーが次々と撤退。その対応にも追われていた。
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こうした状況がある一方、広告収入が減っているパブリッシャーにとって、eコマースは期待を集めるチャネルになっている。なかでもハーストUKは、eコマース収益が第2四半期、前年同期比で322%の伸びを記録した。同社は、今期および前年同期の売上高を具体的には明かさなかったが、eコマースのこうした成長ぶりは、著しい広告収益減の痛みを多少和らげたことは間違いない。しかし、先行きが読み辛くなっているいま、こうした好調ぶりがどこまで続くかは誰にもわからない。
正常化の兆し
いずれにせよハーストUKでは、第3四半期に入りいくつかのeコマースカテゴリーの売上が、正常化しつつある。特に健康やフィットネス、そしてインテリアやガーデニング領域は、多くの人が自宅で長い時間を過ごすようになったため、依然として高い数字を保っている。
「売上がもっとも落ち込んだのはマスク類だ」と、ハーストUKでチーフ・コンテンツ・デベロプメント・オフィサーを務めるベッツィ・ファスト氏はいう。 「マスクは誰もが必要とするものであり、我々が運営する多くのサイトでも一時は非常に好調だった。現在はその勢いは落ち着きつつあるが、我々は今後、これまでとは異なるマスクの展開を考えている。それはたとえば軽量マスクやエクササイズ対応マスクなどだ」。
アフィリエイトネットワーク事業を展開するスキムリンクス(Skimlinks)によると、マスクおよびその関連商品市場は活況を呈しているという。子ども用マスクや結婚式/披露宴用マスク、さらにはマスクケースやマスク着用による肌トラブルに対応するスキンケア品など、売れ筋商品は多岐にわたる。
EC強化の歩み
ハーストUKは収入源の多様化を図り、2017年からアフィリエイトおよびeコマースへの進出をはじめた。現在、同社が発行するどの媒体も何らかの形でアフィリエイトを行なっている。グループ全体としては、たとえばスキムリンクスやAmazonといったネットワークと連携しており、とりわけコスモポリタン(Cosmopolitan)やグッド・ハウスキーピング(Good Housekeeping)、デジタル・スパイ(Digital Spy)、ランナーズ・ワールド(Runner’s World)といった媒体は、eコマースを重要視している。また、キャンペーンの一環として提供するショッパブル広告も、口コミやコミュニティを介してサンプル品を積極的に提供するなど、より広告プロダクトとして洗練されてきている。
さらに同社は昨年度、テック、ビューティ、ファッション、ホーム、トラベル各分野のさらなる成長を目指し、8人のショッピング担当編集者を採用した。なお、eコマースコンテンツは同社の全編集チームが手がけているという。
「ハーストUKは、我々のパートナーのなかでUK最大のパブリッシャーだ」と、スキムリンクスで欧州、中東、アフリカのレベニューVPを務めるドゥニア・サイラン氏はいう。「彼らが生む収益、手にするコミッション、対前年比の成長規模のいずれもほかのUKパブリッシャーのそれを上回っている」。その要因として挙げられるのが、最新トレンドに常にピンポイントでフォーカスする編集チームの力と、在庫不足への迅速な対応力だと同氏は指摘する。
また昨年12月以来、ハーストUKはeコマースを主軸とする広告キャンペーンの一環として、顧客への商品サンプル提供を実施している。これは実際、実店舗の一時閉店が続くなか、ビューティブランド勢のあいだで人気の手法となっている。
「店頭で買い物ができない場合、消費者は信用できる情報源をより一層求めるようになる。カウンター越しに店員と直接話をするのと同じやり取りを、インターネット上で実現するのは難しい」と、前出のハーストUK チーフコマーシャルオフィサーのウルフソン氏はいう。「そのため、弊社に協力を求めるビューティ関連クライアントは増加傾向にある」。社名は明かさなかったが、ハーストUKは今年10月より、あるクライアントとAR技術を活用したリップのカラーシミュレーションを試験的にはじめるという。
「カゴ落ち顧客」を巡るせめぎ合い
ただし、パブリッシャーや大手プラットフォームを介してeコマースやD2C戦略を展開することは、ブランドにとって自分たちが有する顧客との関係値やデータを譲渡することに繋がる。「カゴ落ち顧客へのリターゲティングはどうなる?」と、大手デジタルエージェンシー、エッセンス(Essence)のメディアアクティベーション部門SVPライアン・ストーアー氏はいう。
「たとえばそのカゴがFacebookにある場合、ブランド側からはまったく顧客の姿が見えない。そこにはカゴ落ち顧客を巡る、プラットフォーマーとブランドのせめぎ合いがある」。
ロックダウン期間中、広告主たちがアッパーファネルに向けたメディア予算をeコマースに素早く切り替えたことで、eコマースは未曾有の活況を呈した。ニューヨーク大学教授、スコット・ギャロウェイ氏がWARC.com.で発表した統計によれば、10年分の小売売上が、わずか8週間でデジタルチャネルにおいて発生したという。ただ現在は、それら迅速な対応を見せたブランド勢が、ロックダウンの以前のブランディングに重きを置いた施策に戻りはじめており、ボトムファネルの動きは平準化しつつあると、ストーアー氏は指摘する。「eコマースによる収益がまだ増える余地があるのか、それともほかの何かを犠牲にすることで生まれたものなのか、答えは時間が経てばわかるだろう」。
さらなる成長が見込まれている
多くのパブリッシャーにとって、第4四半期は繁忙期にあたる。そんななか、ハーストUKのeコマースはさらなる成長が見込まれている。というのも同社では、前年同期よりもヘルス、フィットネス、ファッションのeコマースを中心に、広告主主導のブリーフィングが明らかに増えているからだ。これはホリデーシーズンを控えているからでもあるが、それだけが理由ではないという。
「毎日の生活のさらなる充実をハーストUKは目指している」とファスト氏。「3月中旬から、まさしくそれが弊社の主要な目的になった。読者が本当に必要としているもの、これまで手にできていなかったものを、彼らが見つけるのを手助けをすること。また、彼らが時間を有意義に使い、自宅で楽しく過ごせるように手を貸すこと。これが我々の目標だ」。eコマース事業は、少なくともいまのところ、同社のこうした姿勢を後押ししている。
[原文:How Hearst UK’s e-commerce revenue grew 322% during the second quarter]
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)