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ジャーナリストの独立支援、 Google ブートキャンプの中身:同社担当者 フィリップ・スミス氏

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新型コロナウイルスのパンデミックは、数多くの新たなトレンドを生み出した。そのひとつに、ジャーナリストやメディア関係者の独立がある。コロナ禍を背景に、新しいジャーナリズムプロダクトやメディア企業の立ち上げが相次いだ。

独立の理由は、コロナ禍による失職や、自分の文章を直接マネタイズしたいという欲求などさまざまだが、ニュースレターの収益化を支援するサブスタック(Substack)のようなプラットフォームが、独立や起業を容易にしたことは間違いない。それでも、経営者、編集者、マーケター、会計士、営業員をすべてひとりでこなすのは至難の業だ。

2020年、Googleニュースイニシアティブ(Google News Initiative:以下、GNI)は、こうしたメディア関係者の起業を支援する取り組みとして、スタートアップスブートキャンプ(Startups Boot Camp)を立ち上げた。ジャーナリズムグロースラボ(Journalism Growth Lab)の設立者で、このプログラムの創設を主導したフィリップ・スミス氏によると、この8週間におよぶオンライン講座の目的は、独立をめざすジャーナリストたちに、起業に必要なスキルやツールを提供することだという。2020年は24人のジャーナリストが受講した。現在、第2期生を募集中で、開講は9月7日を予定している。

この取り組みの主眼は、「事業の開始に先だって、潜在的なリスクを取り除くことだ」とスミス氏は説明する。ジャーナリスト以外の人も受講できるが、どのような事業を立ち上げるにせよ、その中心はジャーナリズムであることが条件だ。

スミス氏によると、受講料は完全に無料で、受講終了後にレベニューシェア契約に縛られることもないという。これは、Googleの一部門であるGNIが開講にかかる費用を全額負担しているためだ。2008年には3億ドル(約330億円)を拠出して、ジャーナリズムとメディア企業を支えるために、さまざまな収益化支援策を講じた。今回の取材を通じて、スミス氏は、第1回ブートキャンプで獲得した知見や教訓、さらには起業をめざす受講生たちをより効果的にサポートするために、次回の講座で改善すべき点について語ってくれた。

その要点を以下にまとめる。なお、読みやすさを考慮して、発言には若干の編集を加えた。

◆ ◆ ◆

——起業支援のブートキャンプをはじめたきっかけは?

このブートキャンプの趣旨は、ジャーナリズムの仕事や報道機関を辞めて、何か新しい事業をはじめようという人々を支援することだ。何かに触発されて起業を考える人もいれば、伝統的な報道機関に行き詰まりを感じて辞める人もいる。皆、ジャーナリズムに対する深い造詣と、記者としての豊かな経験を持っているが、事業経営やマーケティングの経験は不足している。このブートキャンプの目的は、まさに、彼らに欠けている知識やノウハウを、短期集中的に学ぶ機会を提供することにほかならない。私がぜひにも支援したいのは、米国とカナダにおける報道商材や情報商材の不足や、伝統的なジャーナリズム産業の衰退が、地域のニュース報道に悪影響を与えていると憂える人々だ。

——サブスタックのようなプラットフォームの登場以来、実際にジャーナリズム分野における起業意欲の高まりを感じるか?

この分野に限った話ではないが、サブスタックのような成功事例が広く知られるようになると「起業は可能だ」「自分にもできる」などと考える人が出てくる。だが、我々のブートキャンプに関する限り、他人の起業や成功に触発されて参加する者はそれほど多くない。受講の動機はもっと深いものと感じている。

ブートキャンプを計画するにあたり、私は1年をかけて、ジャーナリズムで起業した人々の話を聞いた。成功した人も、失敗した人もいたが、そこにはある共通点があった。「誰かがやっているから自分も」という人はほとんどいないという点だ。むしろ、「故郷の新聞が廃刊になったので、自分が大切に思う場所や人々にニュースを届けるチャンスだと考えた」というケースが多かった。

サブスタックのようなプラットフォームを巡る成功譚は、ややセンセーショナルに取り上げられる傾向があり、多くの人はそのことを認識している。ブートキャンプに参加する人々の多くはジャーナリストであり、ジャーナリストは生来的に疑り深い。したがって、そのような成功事例が誰にでも当てはまるものとは考えていない。良い意味で懐疑的なのだ。そして我々も、ブートキャンプの参加者に対し、起業は楽ではなく、誰もが成功するわけでもないことを徹底的に周知している。

——初回ブートキャンプの受講生24人は現在どうしているか? 卒業後、すぐに成功した例は?

第1期生を送り出したのは2020年12月のことで、どのプロジェクトも開始から半年と経たない。最大のポイントは、少なくとも4分の3のプロジェクトがいまも稼働しているということだ。そしてほぼ半数は成長している。さらに、収益を出しはじめているプロジェクトは全体の40%近くにのぼる。つまり、これら4割ほどのプロジェクトは、読者、支援者、寄付者、あるいは基金、広告主、スポンサーなどから、直接収入を得ているということだ。また、収益を上げているプロジェクトの大半は、複合的なビジネスモデルを採用し、複数の収入源を持っている。我々としても、収入源の分散化はぜひ検討すべきと推奨している。

——起業したジャーナリストたちに共通する、予想外の問題は?

人には誰しも、自分のアイデアに惚れ込む傾向がある。それはときに、そのアイデアから潜在的なリスクを取り除くことの妨げになる。というのも、自分のアイデアに夢中になりすぎてしまうと、客観的視点を失うからだ。受講者に対しては、さまざまな手法を用いて、現実の人間を相手に自分のアイデアを検証するよう求めている。さらにいうなら、ここで真っ先に試してほしい手法は、自分が提案する製品の直接的な受益者であろう人々に対して、インタビュー取材を行うことだ。ジャーナリストとしての経歴を持つ人々にとっては、決して難しいことではないだろう。そのこともあって、この講座は当初からリモートプログラムとして設計された。これなら、コロナ禍以前の話ではあるが、小さな田舎町のジャーナリストも、コーヒーショップなどに足を運び、将来、自分の製品を使ってくれるかもしれない人々と、直接対話をすることができると考えた。

——ブートキャンプの第2ラウンドでは、どのような点を改善する予定か?

受講生には、必要なツールをすべて習得し、成功に向けて万全の状態でこのブートキャンプを卒業してほしい。ところが実際には、非常に多くの人が、キャンプを去ってから、準備作業に非常に多くの時間を取られている。我々としては、この問題をもっと早期に解決したい。具体的には、最初の1〜2週間で新しい事業を登録させて、事業の開始、登録作業、基本的な会計ソフトの設定など、事業運営に必要な支援を提供したい。というのも、受講生たちが最後にぶつかる障害は、実はこのあたりの作業と思われるからだ。

前回のブートキャンプでは、受講生に技術的なソリューションやインフラを紹介することには個人的に反対した。ところが、終了間近になって、誰もがこのような問題に頭を抱えていることがわかった。今年のキャンプでは、まったく逆のアプローチを取るつもりだ。できる限り多くのベンダーを招待して、受講生に対してプレゼンテーションしてもらおうと考えている。

[原文:How GNI Startups Boot Camp is giving journalists the tools for media entrepreneurialism

KAYLEIGH BARBER(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)