メディア買収の機は熟した。そして買収を企てる企業の多くは、みな一様に同じマニュアルを使っている。英国を拠点とするメディア企業のフューチャー(Future plc)は、昨年、4億ドル以上を投じて多くのメディアタイトルを買収した。ここ最近は、バランスシートをにらみながら、熱心にこのマニュアルのページを繰っている。
メディア買収の機は熟した。そして買収を企てる企業の多くは、みな一様に同じマニュアルを使っている。そのマニュアルいわく、既存のポートフォリオを補完するような資産をすばやく手に入れ、すべて共通の技術インフラにつなぎ、買収で得た規模を、消費者への直接販売で最大化せよ。
英国を拠点とするメディア企業のフューチャー(Future plc)は、昨年、4億ドル(約461億円)以上を投じて多くのメディアタイトルを買収した。ここ最近は、バランスシートをにらみながら、熱心にこのマニュアルのページを繰っている。
最新の収益報告書によると、9月30日に終了した2021会計年度の年間売上高は前年比79%増の8億450万ドル(6億680億ポンド、約928億円)で、営業利益は2億6000万ドル(約299億円)超を計上した。
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同社の説明によると、この成長の大部分は、マリ・クレール(Marie Claire)の米国事業やデニスパブリッシング(Dennis Publishing)の10誌を含む、新規の買収によるものだが、既存事業の売上高も前年比で23%増加している。
まったく衰えない買収意欲
M&Aが相次いだあと、2022年の幕が開けても、メディア企業たちの買収意欲は一向に衰えなかった。フューチャーも例外ではない。しかも、エンダーズアナリシス(Enders Analysis)に籍を置く上席研究員のアビ・ワトソン氏によると、「同社専有の技術スタックを最大限に活用すれば、買収したメディアですぐにも収益を拡大できる」という。
その反面、このままM&Aが続くなら、その統合戦略の真価が問われる。ワトソン氏によると、現在フューチャーが所有するメディアタイトルは250にものぼり、「成長の水準にばらつきがあっても、この膨大なポートフォリオのなかに隠れてしまう公算が大きい」という。
「多くの雑誌を展開するほかのパブリッシャーと同様に、ひと握りの主要な資産がフューチャーの売上の大半を支え、その一方で多くの不採算事業を抱えていることは大いにありうる」と同氏は見る。
フューチャーで北米事業担当の最高収益責任者を務めるジェイソン・ウェビー氏によると、新規のM&Aに際して、経営陣は自らにこう問うという。「この買収は、現在のポートフォリオに付加価値を与えるものなのか。それとも、すでに得意としている分野をさらに強化するものなのか。あるいは、新たな能力やリーチ、新分野での記事執筆に必要な専門性をもたらすものなのか」。
たとえば、昨年10月にデニスパブリッシングから複数のタイトルを買収したケースでは、「キプリンガー(Kiplinger)」と「マネーウィーク(Money Week)」が新たな広告機会を創出し、フューチャーの売上に貢献している。
同様に、2020年末に買収した「シネマブレンド(CinemaBlend)」は、フューチャーのデジタルオーディエンスの拡大に寄与している。買収後、同社の月間ユニークユーザー数が1900万人も増えたからだ。また、ハリウッドの映画制作会社や動画配信事業者との広告契約に端緒を開いたことは、さらに大きな貢献だろう。
「おかげで、新しい領域で影響力を発揮できる」とウェビー氏は述べている。
利をもたらすeコマース技術
多様なメディアブランドを単一のCMSにまとめるのは理に適っている。しかしフューチャーによると、むしろこの統合は、買収された側の各メディアにより大きな利をもたらすという。同社専有のeコマース技術にアクセスできるようになるからだ。ホーク(Hawk)というこの技術スタックは、複数のネット通販業者の商品価格をリアルタイムで比較できる。アフィリエイト事業は、収益拡大をめざす多くのデジタルパブリッシャーにとって有望な選択肢であるが、フューチャーにとってはすでに事業の中核となっている。同社によると、2021会計年度のコマース事業の収入は、前年比36%増の2億8560万ドル(約288億円)で、同社の収入総額の35%を占めている。
マリ・クレールは以前からアフィリエイト事業を展開していた。編集長のサリー・ホルムズ氏によると、買収以前に同誌を所有していたハースト(Hearst)でも、優先事業の扱いだったという。しかし、ホークへの接続後は購入場所へのリンクを複数設定できるようになり、同社のウェブサイトで通販を利用するユーザーにとって、その利便性が大きく改善された。
しかし、たとえそのためのツールがあるとしても、新しい収入源の定着にはそれなりの時間がかかる。たとえばシネマブレンドの場合、フューチャーに買収される以前から、eコマースによる収益の多角化を検討してはいた。しかし、編集長のマック・ローデン氏によると、「eコマースが合理的な選択肢であることは当時から分かっていたが、アフィリエイト事業を効果的に構築・運営するのに必要な知識や能力がなかった」と述べている。
「折に触れて、ごく小規模な試みをちらほらとやってみることはあったが、深い理解もなく、管理者もいなかった」とローデン氏は打ち明ける。
フューチャーによる買収後、状況は一変した。「突然、想像だにしなかった規模でアフィリエイト事業を展開する多くのブランドの仲間入りをしていた」とローデン氏は話す。
いまでは、ディズニープラス(Disney+)で見るべき10作品を紹介するコンテンツなど、適切な機会を捉えては、アフィリエイトリンクを設定している。ブラックフライデーとサイバーマンデーの期間中は、ギフトガイドや店舗のセール情報など、ユーザーの関心やニーズに合わせてコマースファーストの記事を投稿した。
「eコマースへの移行は、ほかの状況では考えられないほどスピーディに、かつ大きな権限をもっておこなわれた」とローデン氏は述べている。
シネマブレンドの収益に占めるコマースの割合はいまも微々たるものだ。同社によると、2021年のコマース事業の売上高は7000ドル(約80万円)だった。しかし、本格的な稼働はこれからだ。
ローデン氏によると、2022年には、フューチャーのチームと連携してより一貫性のあるeコマース戦略を打ち出すという。コマース事業での売上目標も年初に設定されたが、詳しい数字については言及を避けた。しかし、フューチャーが2022年のM&A戦略において買収候補を評価する際、最優先に考慮するのがこのような収益拡大の機会なのだという。
「米国よりも迅速に進められる」
FTIコンサルティング(FTI Consulting)で電気通信、メディアおよびテクノロジーの業界団体を担当するシニアマネジングディレクターのケン・ハーディング氏は、この戦略を大いに賞賛する。同氏は、米国のメディア資産を買収して、事業拡大に大きく踏み出す欧州のパブリッシャーたちを高く評価している。
「ヨーロッパは昔から米国よりも消費者中心だ。欧州のパブリッシャーたちは、消費者経済に関する限り、自分たちのツールは米国のそれより洗練されていると感じている」とハーディング氏は述べている。「一部の事業については、米国よりも迅速に進められると自負しているようだ」。
[原文:How Future plc is strengthening its new American acquisitions with U.K.-honed media strategies]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:英じゅんこ、編集:小玉明依)