フォーチュン(Fortune)はいま、企業に自社が掲げたダイバーシティとインクルージョンの目標を達成するための手段を確立しようとしている。しかしそうするには、D&Iに関するデータを報告・測定するための標準的な手法がないという最大の難関を突破する方法を見つけ出す必要がある。
5月のジョージ・フロイド氏殺害事件により、各地で大規模な抗議運動が発生し、企業各社も続々とブラック・ライブス・マター(Black Lives Matter)運動のサポートを表明した。
これを受けフォーチュン(Fortune)のCEO、アラン・マーレイ氏は、今後数カ月以内に、企業に自社が掲げたダイバーシティとインクルージョン(diversity and inclusion:以下、D&I)の目標を達成するための手段を確立したいと述べた。
しかしそうするには、D&Iに関するデータを報告・測定するための標準的な手法がないという最大の難関を突破する方法を見つけ出す必要がある、と同氏は続ける。現状、法的な規制も存在せず、自社のD&Iデータを公開している企業が極わずかなのも、こうしたことが原因になっているという。
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データプラットフォームとの提携
そこでマーレイ氏は、金融市場データプラットフォームのリフィニティブ(Refinitiv)に話を持ちかけた。同プラットフォーム(前身はトムソン・ロイターのファイナンシャル・リスク部門)は、約20年前から企業の取り組みが、環境や社会に及ぼす影響などのデータ測定を支援してきた。
フォーチュンとリフィニティブは、共同で新たなプロジェクト、メジャー・アップ(Measure Up)の立ち上げに着手し、10月下旬にローンチしている。これにより、いくつかの企業は自社のD&Iデータを定期的に報告するための基準とツールを手にすることとなった。
マーレイ氏は、企業がダイバーシティとインクルージョンを考察する手法を改善するため、次の3つを実行したいと述べている。1つ目は、事業の定期報告に盛り込まれるべき統計データを定義・標準化すること。2つ目は、これらのデータを報告するためのデータプラットフォームを提供すること。そして3つ目は、フォーチュンのメディアを活用し、自社のデータを公開している企業、していない企業を浮き彫りにすることだ。
透明性の向上
リフィニティブの環境・社会・ガバナンス提案部門でグローバル責任者を務めるエレナ・フィリポバ氏は、メジャー・アップのスローガンは「測定されたデータは、管理・活用されるべき」だと話す。
それが意味するのは、企業が有色人種や異なる背景を持つ従業員の雇用、そして定着に関する目標を達成するためには、その出発点の透明性を向上させなければならないということだ。
この業務提携におけるリフィニティブの役割は、過去数十年にわたり収集されたD&Iデータを共有すること。そして、自社データのアップデートとトラッキングができるテクノロジープラットフォームへのアクセスを、「フォーチュン500(Fortune Global 500)」に選出された企業に提供することだ。
フォーチュンの目指すもの
一方フォーチュンは、その「フォーチュン500」をはじめ、100年近くにわたって同誌が発表してきた企画や、イベントフランチャイズに関わってきた多数の企業との関係を活用し、これらの企業にメジャー・アップの参画を呼びかけている。
まず第1段階として、毎年5月に発表される「フォーチュン500」の候補にあがっている企業は、メジャー・アップのデータレポーティングプラットフォームを介して、自社のD&Iデータを公開することを推奨される。これに応じ、かつリスト入りを果たした企業は、企業として注目を集めることができる。
「フォーチュンは、さまざまな企画を実施する上でリストを作成してきたが、現状D&Iに関する効果的なリストはない。というのも、データの報告自体がないからだ」と、マーレイ氏はいう。やがて、メジャー・アップによってそのデータが可視化されれば、D&I(に注力している企業)のリストも作成され、それがフォーチュンの新たなシリーズ企画になるだろうと、同氏は話す。
マーレイ氏によれば、最終目標は、このプロジェクトが企業各社の上層部に変化をもたらすことだという。
各社の自助努力を後押し
これは、フォーチュンが「『働きがいのある会社』ランキング(100 Best Companies to Work For)」に向けて定めた目標と似ている。この企画にリスト入りしたという事実を担保するため、各社は毎年互いに競い合っている。これを勝ち取るためには、各企業の従業員は労働文化についてのアンケートに回答する必要がある。これが、その企業のスコア全体に反映されるのだ。マーレイ氏によれば、その影響で、各社の経営陣は快適な職場環境の構築に、積極的に取り組んでいるという。
それだけではない。フォーチュンの「もっとも強い女性(Most Powerful Women)」という企画もまた、ビジネスにおける女性の力を認めるだけでなく、彼女たちの次の昇進に向けての「発射台」としての役割を果たすことに、同様の効果をもたらしている。選ばれた女性たちの多くが、いまではトップ企業の経営幹部になっているという。
しかし現状、D&Iについては、どちらのリストでも評価の対象にはなっていない。マレーとフィリポワも、この取り組みは時の試練に耐えるものとなると考えているという。
強固なビジネス構築に繋がる
ビジネスリーダーたちが、自社のD&Iに対する考察を深めることに関心を抱いているのは、現在の社会情勢によるところが大きいが、それだけではない。スタッフのダイバーシティを富ませることは、より強固なビジネスに繋がるのだと、両氏は続ける。
先日、フォーチュンが実施したCEOパネルを対象として調査の結果、回答者の約95%が、ダイバーシティとインクルージョンを巡る議論は、彼らにとって重要な戦略的機会だと考えていることがわかったと、マーレイ氏は述べる。
また、フィリポバ氏も以下のように語る。「ダイバーシティに富んだ企業ほど、大きな利益をあげている。これは、十分な裏付けのある、一般に認知されている相関関係だ」。
従業員がいなければ企業は存在し得ない。である以上、リーダーたちの大多数がこの結論に至るのは「まったくもって論理的」なことだと、同氏は付け加える。
「公平に扱われれば、社員は自分の得意分野をさらに伸ばすべく努めるだろう。彼らはダイバーシティに富んだ意見を述べるようになり、これが経営体制や顧客サービス、生産性の向上に繋がる。そして、業績の向上をももたらすのだ」。
[原文:How Fortune is holding top companies accountable to their promises on diversity and inclusion]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:ガリレオ、編集:村上莞)