テイスティ(Tasty)は、2年に満たないうちにBuzzFeedの動画視聴数の稼ぎ頭となった。2017年4月には10億回近くの視聴数を達成したが、これはBuzzFeedのメインページの動画をも上回る数字だ。いまや、テイスティはBuzzFeedのソーシャルでの動画戦略を牽引している。
Facebookのページに短いレシピ動画を多数掲載しているTasty(テイスティ)は、2年に満たないうちにBuzzFeedの動画視聴数の稼ぎ頭となった。チューブラー・ラボ(Tubular Labs)によると、Tastyは2017年4月には10億回近くの視聴数を達成したが、これはBuzzFeedのメインページの動画をも上回る数字だ。いまや、TastyはBuzzFeedのソーシャルでの動画戦略を牽引している。
Tastyでジェネラルマネージャーを務めるアシュリー・マコラム氏によれば、アメリカだけでも8500万人のフォロワーを獲得したTastyは、Facebook史上最大のページとなる道を順調に進んでいる。BuzzFeedはそれに対応するため、75のチームを置いている。Tastyは、メキシコやドイツに向けた外国語版の動画も数多く公開しており、Tasty Vegetarian(テイスティ・ベジタリアン)、Tasty One Pot(テイスティ・ワンポット)、そしてTasty Junior(テイスティ・ジュニア)といったページをスピンオフさせた。また、多くの模倣者を生んだことはいうまでもないだろう。
しかし、Tastyのモデルは、「食」だけではなくなってきている。BuzzFeedは、コンテンツを提供するサブブランドの成功例、ひな形としてTastyを見ているのだ。そのため、2015年10月にスピンオフした450万人のフォロワーをもつTop Knot(トップノット)という美容関連動画のページ、また、2016年9月にスピンオフした1500万人のフォロワーをもつGoodful(グッドフル)というウェルネス関係のページなど、TastyはBuzzFeed内のフォロワーを生んだ。
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動画にも次のステージがある
その数あるスピンオフのなかでもっとも大きく成長したページは、2016年3月に立ち上がったアウトドアやペットなどの派生ページをもつDIY関連のNifty(ニフティ)であり、そのフォロワー数は2800万人に上る。2017年の上四半期には、冒険好きな旅行者向けのページのBring Me(ブリングミー:170万フォロワー)、また、その兄弟ページともいえるSweaty(スゥイーティ:100万フォロワー)が立ち上がった。Nifty、Goodful、そしてBring Meは、動画の視聴数でBuzzFeedのトップ10に入るFacebookページであり、上記のページはすべて、BuzzFeedが手がけるビジネスでもっとも成長の著しいバーティカルだ。
「動画にも次のステージがあることをTastyが示してくれたのは間違いない」と、BuzzFeedでソーシャルでのフランチャイズ拡大部門のトップを務めるマイケル・ケンプナー氏は語る。
ケンプナー氏は、こうしたページが成功する理由は、それがしばしば個人のアイデンティに訴えかけるものがあるためだという。Tasty Vegetarianは食べ物の好みだけでなく、人々が自己を確立する手段に対しても語りかける。またブリングミーは、友人と行きたくなるような場所を教えてくれる。ブリングミーが立ち上がった際には、ベトナムのスープの「フォー」を超巨大なボウルで提供するレストランでの動画が公開され、約22万回のシェアを得た。「これは食関係のページだが、アイデンティについてのものではない。ブリングミーは、我々がさらに前に進むべきだということを示してくれた」と、ケンプナー氏はいう。
親ブランド名は必要ではない?
以前にFacebook上に立ち上げられた「BuzzFeed Parents」や「BuzzFeed Weddings」などといったBuzzFeedのバーティカルページは、そのページ名でBuzzFeedブランドの一部であることを明確に示していた。しかし最近では、BuzzFeedもほかのパブリッシャーも、ソーシャル限定のバーティカルに母体の名前を使うことを避けはじめている。これは、パブリッシャーが、混雑したソーシャルプラットフォームで突出するために必要なことだともいわれている。たとえば、ビジネスインサイダー(Business Insider)がライフスタイルに関するサイトを立ち上げた際には、それがより一般消費者に向けたサイトであることを示すために、「ビジネス」という言葉を使わなかった。一方、ブルームバーグメディア(Bloomberg Media)の場合は、新しいバーティカルがその傘下であることを強調するために、「ブルームバーグ」という名前をそのまま残すことを選択した。
どちらのやり方にもリスクはある。ブランドの傘を大きく広げすぎることで、たとえば「氾濫しすぎたBuzzFeedバーティカルのひとつ」のように見えてしまうようなことがあるとすれば、その効果は薄くなり、ソーシャルフィードで新たにアイデンティティを築くことが難しくなる恐れがある。一方、母体との関係性を知られていない新しいブランドは、ゼロからその信頼を築き上げなくてはならない。Tastyの場合、似たような名前と美的感覚で食に関する動画を提供しているテイストメイド(Tastemade)と混同されるリスクを負っている。
BuzzFeedは、ブランドのネーミングにさまざまなアプローチを試している。「Nifty by BuzzFeed」もそのひとつだが、Tastyの場合は、ハンドルネーム(@BuzzfeedTasty)を見て、はじめてそれがBuzzFeedの一部であることがわかる。マコラム氏は、TastyでBuzzFeedの名前を使わないことを選択した理由は、この会社のセールス能力が予想通りのものかどうかを見極めるためだった、と語る。「以前は、我々のもつ、もっとも大きな資産は、『BuzzFeed』(という名前)だと考えていた。Tastyは、出来ることは無限にあるということを我々に教えてくれた」。そして彼女は、今後もいくつかのアプローチを試すことを続けつつも、新しいページの名称よりも、人々の心に響くコンテンツを作ることを大事に考えていることを強調した。
動画の指標はシェアが重要
BuzzFeedにとって、人々の心への「響き具合」を測るうえでシェア数がもっとも重要な要素だが、その理由は、シェア数は視聴数よりも純粋に、ユーザーの実際の行動を表すものであるためだ。視聴数はFacebookにお金を献上しさえすれば増やせるし、Facebookの(フィード表示の)アルゴリズムの変更による影響を受けやすく、Facebookのトラフィックに大きく依存するパブリッシャーは、常にその脅威に直面している。「視聴数を買うことは可能だが、シェアを買うことはできない」と、ケンプナー氏は語る。
また、これらのページは基本的に、Facebookが好む無音で短尺の動画ストリームであり、多くの広告主にとっても嬉しい環境だ。BuzzFeedは、Tastyが冬のホリデイシーズンに実施したリッツ(Ritz)のレシピ動画のケーススタディを声高に強調し、そうしたコンテンツが売上アップの確かな要因となっているという。Goodfulは製菓メーカーのモンデリーズ(Mondelez)とのパートナシップのもとで立ち上がったFacebookページだが、現在はモンデリーズもその広告主となっている。
一連のBuzzFeedのバーティカルが成長を続ける背景には、新しいページを継続的に開拓し、オーディエンスの成長に応じて担当を横断した3〜6人編成のチームを一時的に配置する、というやり方がある。ページが定着した場合は固定のチームがアサインされ、通常は6カ月後から広告主への売り込みが行われる(Tastyは、立ち上げから6カ月間は広告主へのマーケティングが行われることはなかった)。BuzzFeedには、今後のページの立ち上げに関する具体的なロードマップがある訳ではない。上四半期のあいだに7つのページを立ち上げたばかりで、現在はそれらのページの状況を見極めている段階だ。しかし、150にも及ぶFacebookページがある現在も、BuzzFeedは今後追加するページの数に上限はないと見ている。
ケンプナー氏はいう。「唯一リスクがあるとすれば、アイデンティやオーディエンスが求めることを考えないことだ」。