2020年は、多くのメディア企業がサードパーティCookieの終焉への備えと、パンデミックのなかで変化する消費者の習慣に対応に追われた。そんななか、コンプレックス・ネットワーク(Complex Network)は、独自のオーディエンスインサイトパネルを構築した。
メディア企業の成功の秘訣は、読者がそのときに望むものを提供すると同時に、読者のニーズを先取りすることだ。
特に2020年は、サードパーティCookieの終焉への備えと、パンデミックのなかで変化する消費者習慣への対応に追われるなか、多くのメディア企業がこの教訓の重要性を身に染みて感じたことだろう。
そんななかコンプレックス・ネットワーク(Complex Network)は、コンプレックス・コレクティブ(Complex Collective)と名付けられた、独自のインサイトパネルを展開。推測ゲームを回避するだけでなく、より多くのユーザー情報を広告主に提供することに力を入れているという。
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コンプレックス・コレクティブが発足したのは2020年初頭。現在、パネル参加者は3万人を超えている。実際、すでに一部のマーケターは、コンプレックス・コレクティブのインサイトをキャンペーン構築に取り入れていると、同社のゼネラルマネージャーを務めるアーロン・ブラクストン氏は述べる。具体的な売上金額や、それが全社売上のどの程度の割合を占めたかについては、同氏は明言しなかった。
コンプレックス・ネットワークにとって、ブランド企業に対し、オーディエンスの関心についての情報を提供するB2B事業は、これがはじめてだ。パネルの内容は、eコマースの購買習慣からモバイル利用、eスポーツへの関心度まで多岐にわたる。ブラクストン氏の説明によれば、3万人の参加者の構成は、コンプレックス・ネットワークが保有する4つのメディアブランド(カルチャーメディアのコンプレックス[Complex]、音楽メディアのピジョンズ&プレーンズ[Pidgeons & Planes]、フードメディアのファースト・ウィー・フィースト[First We Feast]、スニーカーメディアのソールコレクター[Sole Collector])のオーディエンスを反映したものになっているという。
インサイトパネルの中身
2020年のはじめ、コンプレックス・コレクティブは3つの大規模なトレンドレポートを作成。それぞれに1000件以上のオーディエンスからの反応があったという。このレポートは、コンプレックス・ネットワークのオーディエンスの全体像を鮮明するためのもので、業界トレンドを分析する編集チームによってまとめられている。そこには、パンデミックによるストレスが若い世代に与える影響や、どうすれば、移り気で購買力の弱い若者層を動かせるかといった、諸課題についての情報が掲載されていた。なお、調査結果はコンプレックス社内で利用されるとともに、関心を持つマーケターとも共有されたという。
コンプレックス・コレクティブはまた、26の小規模なパネルや、3000以上の(一部はブランドからの依頼に基づく)レポートも作成し、特定のオーディエンスに関するきめ細かな調査を実現していると、ブラクストン氏は述べる。
同社は、2021年の目標として、調査のアウトプットを今年の2倍以上に増やし、多様なトピックをカバーする10本弱のトレンドレポートを発表することを考えているという。
収益化の方法
現段階で、コンプレックスがこれらのレポートを収益化する方法は3つある。
ひとつは、トレンドレポートのように、ブランドの関与なしに作成されたリサーチの販売だ。購入するブランドは、リードジェネレーション(見込み顧客の獲得)のためのインサイトを手にすることができる。2番目は、ブランドソリシテーションで、これはブランドがコンプレックスと協働し、自社に固有の問題についての調査レポートを作成するという形式。そして最後は、調査をファーストパーティデータのソースとして利用し、コンプレックスのオーディエンスセグメントについての情報を、より洗練させるというものだ。ブラクストン氏は、それぞれのモデルの価格設定は明かさなかった。
コンプレックス・コレクティブの戦略責任者、ニック・スーシ氏によると、たとえばバナナ・リパブリック(Banana Republic)は、どうしたら若い男性に小売店舗で買い物をしてもらえるかを知るため、調査を依頼してきたという。実際に調査を開始すると、わずか数日のうちに、潜在購買層に該当する調査協力者から、何百という回答が得られたと同氏はいう。
なお、コンプレックス・コレクティブの調査協力者の属性は、コンプレックス・ネットワークが抱えるメディア全体の読者層と類似している。同社が抱えるメディアの主要なターゲットは18~34歳の年齢層であり、25~34歳が40%、18~24歳が18%を占めている。コレクティブの調査参加者に関していうと、男女比は3:1でアイデンティティの構成は、30%が黒人、26%が白人、16%がラテン系、11%がアジア系だと、ブラクストン氏はいう。ちなみに、すべてのレポートの平均回答率は約70%だ。
コンプレックス・コレクティブの調査参加者は、トピックごとに異なる属性に分類される。その属性が調査対象であった場合、メンバーには該当するオンライン調査への参加依頼が送られるという。
他社も積極参入
新型コロナウイルスのパンデミックにより、多くのパブリッシャーの広告ビジネスが危機に陥ったが、一部のパブリッシャーはオーディエンスパネルに注目して、消費者が求めるものについてより多くのインサイトとデータを収集し、安心してメディアバイイングを行えるようにしたいという広告主のニーズに応えることに成功した。
「2020年は、市場がコロナ禍で急速な変化を迫られたため、オーディエンスベースの購入の需要が高まった」と、ハバスメディア(Havas Media)のデジタル戦略・投資担当エグゼクティブバイスプレジデント、サージ・マン氏は述べる。
また、メディア企業、リーフグループ(Leaf Group)も、ここ数カ月でオーディエンスリサーチを積極的に行っている。同社は1週間で最大2万人分もの回答を集め、そのインサイトをマーケターと共有。ゆくゆくは新たなビジネスにつなげるという目標を掲げている。ワシントン・ポスト(The Washington Post)は、メンバー1万人からなるワシントン・ポスト・アドバイザリー・パネル(Washington Post Advisory Panel)を擁し、2020年にそのパネルから得たインサイトをもとに、広告主向けの無料バーチャルマスター講座を開催した。
ほかにも、バッスル・デジタル・グループ(Bustle Digital Group)のBDGリーダーパネル(旧BDGハイブ)には、同社の広報担当者によれば5500人のオーディエンスが参加している。コンデナスト(Condé Nast)も、12カ国にいる7万人以上のオプトインした読者と、継続的にフィードバックや意見の共有をおこなっているという。
マーケターたちも、しばらく前からオーディエンスベースのメディアバイイングを検討していた。パブリッシャーは今後数年間で「オーディエンスデータのインサイトと用途の水準を(マーケター向けに)高める」必要があると、マン氏は指摘する。
メディア企業だからできること
とはいえ、カンター(Kantar)やニールセン(Nielsen)といった、調査会社も存在する。パブリッシャーの強みは、調査会社が発表する大規模なデータセットを補完するような、より深いインサイトをオーディエンスパネルから得られることだと、マン氏はいう。
「メディア企業が提供している調査からは、人々の消費行動だけでなく、メディア習慣の原因とメカニズムを結びつけることもできる」と、マン氏は述べた。
[原文:How Complex entered the race to earn revenue from audience insights]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:村上莞)