広告収益が業界全体で減少しているなか、パブリッシャーたちは読者からの収益、特にコマースビジネスとアフィリエイトにより依存するようになっている。しかし、これらが減収のダメージを補うために掴んだ藁というわけでもない。コマース部門を自社の洗練された駆動力とし、事業を加速させるパブリッシャーたちも出てきている。
広告収益が業界全体で減少しているなか、パブリッシャーたちは読者からの収益、特にコマースビジネスとアフィリエイトにより依存するようになっている。しかし、これらが減収のダメージを補うためにつかんだ藁というわけでもない。コマース部門を自社の洗練された原動力とし、事業を加速させるパブリッシャーたちも出てきている。
たとえば、バッスル・デジタル・グループ(Bustle Digital Group:BDG)のプレジデントでありCRO(Chief Revenue Officer)であるジェイソン・ワゲンハイム氏によると、同社では第2四半期のプログラマティックと直接販売をあわせた広告収益は前年比35%減だった。
パンデミックが始まった当初にワゲンハイム氏が持っていた暗い見通しからBDGを救ったのはアフィリエイトビジネスだった。アフィリエイト収益は第2四半期には前年比で84%の増加を見せ、広告収益の減少を相殺した。結果として第2四半期における収益全体の減少は25%のみにおさえられた、と同氏は言う。
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「第3四半期は非常に大きな回復を見せている」とワゲンハイム氏は語った。昨年と同レベルまでとはいかないまでも、10%以下の減少に留まると予測しているようだ。バーチャルイベントと現在構築中のコマース事業が第3四半期の成功の牽引力となっているという。
グループナインメディア(Group Nine Media)に属するパブリッシャー、スリリスト(Thrillist)もまた、アフィリエイトの急成長を体験している。同社によると、6月から7月のあいだにアイフィリエイトの収益は50%の成長を見せたという。ニューヨーク・マガジン(New York Magazine)のショッピングサイトであるストラテジスト(The Strategist)は第2四半期中に前年比85%の収益増となった。プロダクトレビューメディアのギアパトロール(Gear Patrol)はコマース収益において、2020年上半期に前年同期比50%の成長となっており、今年の会社の全収益の30%を占める勢いとなっている。
これらのパブリッシャーたちは、自分たちを取り巻く「ニューノーマル」に適応しつつある。より収益の見込めるブランド取引やアフィリエイトからの収益増、そして読者から支払われる金額をさらに伸ばすためにコマース事業を拡大し、彼らに物理的なプロダクトを届ける方法をさらに探っているのだ。
イベントとの融合で洗練させる
BDGの新しいコマース展開はバーチャルイベント戦略と結びついている。同社はいくつかのスポンサードイベントにおいて、イベントに先立ってプロダクトキットを参加者に送付している。これらのキットにはイベント関連のプロダクト、たとえばヨガマットやリップグロスなどが含まれており、それによってイベントへの没入感を提供するとともに、スポンサーとのエンゲージメントを高めてもらうことが目的だ。
これまでにBDGは、サプリメントブランドであるネイチャーズ・ウェイ(Nature’s Way)のバーチャルヨガイベントや、リップフィラーブランドのレスティレーン・キス(Restylane Kysse)と共催したセルフケアサタデー(Self-Care Saturday:週末のリラックス、気分転換の時間)イベントなどでイベントキットを配布している。キットはイベントを予約した先着150人に無料で配布された。
こうした試みは、従来のリアルベントにおけるギフトバッグや無料配布グッズと戦略的にそれほど大きくは変わらないとワゲンハイム氏は言う。「消費者の手にプロダクトを届けることは重要だ」。それによって参加者たちにスポンサーにとってのマイクロインフルエンサーになってもらい、ソーシャルメディアや口コミでの宣伝に協力してもらうことができると説明する。
ネイチャーズ・ウェイのイベントの場合、キット配布後のインスタグラムにおける同ブランドのストーリーズ(Stories)視聴完了率は平均より53%高く、投稿のCTRは事前予測よりも250%高い数値を記録した。このように、イベント参加者やそのフォロワーたちからインプレッションを獲得できることが、イベントの大きなセールスポイントになるとワゲンハイム氏は語る。ちなみにこれらのイベントの「価格」は、数十万ドルから100万ドル(数千万円から1億円)まで用意されている。
インスタ活用で販売を強化
「男性向けプロダクトガイドメディアの決定版」を自負するギアパトロールもまた、ソーシャルメディアチャンネルを活用する戦略を取っている。サイトで紹介しているプロダクトへオーディエンスを誘導するため、主にインスタグラムでのエンゲージメントを増やそうとしているのだ。
リモート移行後にギアパトロールの編集チームは、ストーリーズ向けに新しいビデオシリーズ『WFHセットアップ(WFH Setup)』を制作した。このシリーズではエディターたちが自宅で実際に使用しているブランドやプロダクトを紹介し、視聴者は上にスワイプすることでそのプロダクト関連のギア・パトロールの記事へとジャンプする、もしくはメーカーのページにジャンプする仕組みになっている。プロダクトのいくつかはアフィリエイトリンクとなっており、視聴者が購入するとギア・パトロールは手数料を売り上げから受け取る。もうひとつのシリーズ、『テスティング(Testing)』では編集チームが今後数週間のあいだにレビューする予定のアイテムを紹介し、オーディエンスが記事公開に先立ってプロダクトに関する感想などを提供できるというものだ。
ギアパトロールにとって「読者との双方向のコミュニケーションを実現することは困難な課題」として存在していた、とCOO(Chief Content Office)のベン・バウワーズ氏は言う。しかし、4月頭から7月末までに彼らが投稿するストーリーズの数は47%増え、リプライ数は66%、インプレッション数は52%の増加となった。これにより、アフィリエイト手数料を受け取っているプロダクトの認知拡大にも貢献している。
本稿執筆時点でギアパトロールのインスタグラムアカウントは13万4000人のフォロワーを抱えている。これは同サイトの平均月間ユニーク訪問者数である450万人と比較すればはるかに小さな数字であり、インスタグラムは大きなトラフィック源ではないとバウワーズ氏は指摘する。今回の取り組みは、オーディエンスとのエンゲージメントを高め、究極的にはサイト上で販売するプロダクトへの注目を集めるのが狙いだ。
アフィ拡大を図る媒体社も
一方でスリリストやストラテジストといったほかのパブリッシャーたちはすでに成長を見せているアフィリエイトビジネスをさらに拡大する新しい手法を探している。
スリリストの主なコンテンツは世界中の食べ物や体験を特集したものだ。「必要なのは、我々が紹介するレストランと読者を結びつけるものだった」とCOO(Chief Content Office)であるメーガン・カーシュ氏は言う。
そのためにスリリストはゴールドベリー(Goldbelly)といったフードデリバリーサービスを使って、米国内の11都市であれば誰でも注文ができるレストランについての特集シリーズを始めた。記事には各サービスのアフィリエイトリンクが組み込まれており、平均よりも高い4%から5%のコンバージョン率になっているという。
一般的なフードデリバリーのローカルなエリアに限定されないレストランに注文ができることへの読者の反応はよく、カーシュ氏のチームはゴールドベリーとのアフィリエイト契約を、専用の動画コンテンツ『センド・フーズ(Send Foodz)』の提供へと拡大した。同シリーズではエピソードごとに国内各所にある複数のレストランのメニューを特集する。ゴールドベリー上のレストラン情報へのリンクが動画の説明文に貼られ、ここを通して発生した売上げからスリリストが手数料を得る形だ。
「買い物」が求められている
ストラテジストも彼らのコンテンツのひとつ『これなしでは生きられない(What I Can’t Live Without)』で、スリリストと同様のアプローチをとっている。この番組ではセレブリティたちのお気に入りのプロダクトを特集し、読者たちはアフィリエイトリンクを経由して購入できるが、特別版『それなしでも生きられる(What I Can Live Without)』では、通常とは異なる購買体験を組み込んだ。
『それなしでも生きられる』ではセレブリティのお気に入りの持ち物をeベイ(eBay)上でオークション販売したのだ。10日間にわたるオークションで売られる23個のアイテムからの利益はスポンサーであるeベイによって同額が加えられ、全米黒人地位向上協会(NAACP)によって設立された「法的弁護と教育基金(Legal Defense and Educational Fund)」に寄附される。
「人々が買い物に出かけられない状況下で、オーディエンスにブランドのプロダクトを購入してもらう必要性は、かつてないほどに高まっている。しかし(販売における)成功の法則はリアルでもバーチャルでも同じだ。変わったのはプラットフォームだけだ」とBDGのワゲンハイム氏は語った。
KAYLEIGH BARBER(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)