「量から質、そして熱量へ」:LDH CDO 長瀬次英氏が語る、インフルエンサーマーケティングの新基軸

「そこに熱はあるんか?」。

12月10日、東京国際フォーラムにて開催された1dayイベント「HOT TOPIC / インフルエンサーマーケティング」に登壇したLDH JAPANの長瀬次英氏は、参加者にこう問いかけた。かつてインスタグラムの日本事業責任者、そして日本ロレアルのCDOとして、プラットフォーマー / マーケターの両視点からインフルエンサーマーケティングを実践してきた同氏。「インフルエンサー戦略の本質は、ソーシャルを使うことでも、ただインフルエンサーを起用することでもない。同じ『熱量』を持った仲間といかに繋がるかだ」と語る。

いまやコミュニケーションプラニングに欠かせない存在となった一方、2018年6月開催のされたカンヌライオンズで話題になった偽証問題に見られるように、負の側面も浮き彫りになったインフルエンサーマーケティング。その本質が問い直されているいま、インフルエンサー活用の最前線に身を置き続けている長瀬氏は何を思うのか。

「個」を理解し、繋がるために

セッション冒頭、長瀬氏はまず現在のマーケティングの概況を語る。「デジタルシフトによって、あらゆるものがアナログからデジタルにシフトしているなか、マーケティングに関してもデータによるターゲティングなど、デジタル化が進んでいる。そして今後、さらにテクノロジーが発展すれば、いずれはパーソナライズドマーケティングが主流になるだろう」。

同氏によれば、昨今実践されているマーケティング施策の多くは、パーソナライズド、つまり顧客ではなく「個客」を知って、彼らとの繋がりを実現する方向に向かっているという。データを元にターゲットの解像度を上げたり、カスタマージャーニーを用いたユーザー分析などは、その最たるものだろう。

ここで長瀬氏は、「こうしたマーケティング施策が、どこまで個客との繋がりを醸成できているのだろうか」と疑問を呈す。「パーソナライズをして、どんなにリーチやエンゲージメントを獲得したところで、個客と繋がることはできない。我々はもう一度、人はどういうときに繋がるのかを考え直す必要がある」。

キーワードは「熱量」

「人はどういうときに繋がるのか?」この問いへの回答を考える際のキーワードとして、長瀬氏は熱量を挙げる。「身近な例で考えてみよう。たとえば共通の趣味を持った仲間を探すとき、その人がどれだけフォロワー数がいるか、影響力があるかは基準にならない。共通の関心ごとについてどれだけ詳しいかといった、熱量がきっかけになる場合が多いはずだ」。

さらに長瀬氏は「インフルエンサーマーケティングにおいても、それは同じだ」と語る。「マーケターはフォロワー数やリーチ数ではなく、自社のブランドに対する熱量を持ったインフルエンサーを探す必要がある。熱は温度が高いところから低いところに自然に移動する。なので、熱量の高い彼らを起点とすれば、温度の低い個客へ熱が波及していく」。

   

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長瀬氏の考える、ブランドとインフルエンサーの関係図

   

だが「そもそも、ブランドが自ら発信するコンテンツに熱がなければ、インフルエンサーを見つけることはできない」と同氏は続ける。「熱量は、ブランドのストーリーから生まれる。そこにどれだけ語るべきものがあるかが重要なのだ。私が前職をロレアルに選んだのは、100年以上に及ぶ長い歴史のなかで生み出された、数多くのストーリーがあったからだ」。

長瀬氏によると、現在公開中の映画『ボヘミアン・ラプソディ』がヒットしているのも、同じ原理が働いているという。「作り手がコンテンツに込めた熱量もさることながら、それを観る個客も同等、もしくはそれ以上の熱量を持っているということが、この作品が注目されている理由だ」。

「量から質」そして「熱量」の時代へ

では、熱量の高いインフルエンサーを探す際、マーケターはどのような指標で熱量を見極めなければならないのか。長瀬氏によると「熱量は、ブランドのメッセージと同じ言葉/単語をいつ、どれだけ使っているかといった『同調率』を指標とすれば良い」という。

また、同氏がいま注目しているツールは、ソーシャルリスニングもさることながら、「ソーシャルコミュニティーマネジメント」のためのツールだという。「そういったツールを用いて熱量の高い人、中くらいの人、小さい人それぞれに、最適なコミュニケーションを図っていきたい」。

インフルエンサーマーケティングは、GRP(Gross Rating Point)やTARP(Target Audience Rating Point)、そして発行部数といった「量」が問われていた時代から、いまやデジタル化によって、エンゲージメントレートなど「質」を問われるようになった。次に重要視されるのはコンテンツとインフルエンサーの「熱量」である、というのが長瀬氏の見立てだ。

「これからのデジタル世界では、ブランドが持つ熱量をどんどん上げていくことが何よりも大切だ。そのうえで、同じ熱量を持ったインフルエンサーを探すことが、インフルエンサーマーケティングを成功に導く鍵となるだろう」。

Written by Kan Murakami
Photo by 渡部幸和