2017年、「テレビの未来」と賞賛されたHQトリビア(HQ Trivia)の社内で、いま混乱が起きている。その後2年足らずのあいだに、この企業の未来は疑問視され、現在はライトスピード・ベンチャーパートナー(Lightspeed Venture Partners)からの新たな資金調達ラウンドを拒否したという。
サブスクリプション型の商品を、プレスリリースを通じてアナウンスする企業もあれば、それをCEOのツイートで知らせる企業もある。
HQトリビア(HQ Trivia)に続く第2のゲーム、HQワーズ(HQ Words)は2019年6月、それを将来的に月額9.99ドル(約1080円)のサブスクリプションサービスとして提供する計画についてツイートした。HQワーズのプレイヤーたちは、その高額な値段を嘲りの的にした。
情報筋によると、こうした外部の反応は一部に過ぎなかったものの、HQの社員たちはこの新しい動きについて何も知らされておらず、社内の混乱を招いたという。
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これは、2017年10月に「テレビの未来」と賞賛されたHQトリビアの、社内で起きた混乱の一例に過ぎない。米DIGIDAYの調べでは、その後2年足らずのあいだに、この企業の未来は疑問視され、現在はライトスピード・ベンチャーパートナー(Lightspeed Venture Partners)からの新たな資金調達ラウンドを拒否したという。
HQがたどってきた道程
評価材料として、爆発的センセーションを巻き起こしたHQは、2018年には多額の収入を得ており、そこに到達するまでには膨大な時間がかかったそのほかのコンシューマー向けアプリのスタートアップとは比べ物にならない。ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)の当時の報告によると、HQは2017年のサービス開始から2018年の2月までで、1500万ドル(約16.2億円)の売上を計上している。ナイキ(Nike)やワーナーブラザーズ(Warner Brothers)のスポンサーを受けたゲームを立ち上げ、その後もNBC、ABC、CBSなどの巨大広告主を獲得している。2019年7月、HQがスポンサーとなっている番組、「レゴムービー2」(The Lego Movie 2)は、エミー賞にもノミネートされた。
だが、HQにはエミー賞のノミネートだけでなく、資金が必要だ。テッククランチ(TechCrunch)の4月の報告によると、HQは月間で100万ドル(約1億円)もの資金の焼き付きを起こしている。現時点ではゲームをプレイするのは無料かもしれないが、制作側には多額の資金が必要だ。HQは生き残りをかけて、ゲームアプリと同様に、アプリ内課金を通じてユーザーからマネタイズしようと、広告の一歩先を見据えている(HQトリビアでは、1ライフ回復のために3.99ドル(約431円)、3ライフで9.99ドル(約1080円)が必要)。HQの広報が米DIGIDAYに語ったところによると、この企業は、アプリ内課金だけで500万ドル(約5.4億円)の売上を計上している。それに加えて、HQはプログラマティック広告にも取り組んでいるという。
HQはまた、人員解雇でコスト削減にも乗り出していた。7月1日、HQは社員の20%を解雇し、社員数を30名以下に減らした。LinkedIn(リンクトイン)を見る限り、こうした動きによって、ほかのHQ従業員は自発的に、マーケティングマネージャーや2つのブランドパートナーシップのリードなどの新しい職へ就くことを余儀なくされ、士気を下げるもうひとつの原因となっている。さらにLinkedInによると、HQはエンジニアを募集しているという。
新たな資金提供も辞退
この一連の動きは、HQが昨今、ライトスピード・ベンチャーパートナーズからの新たな資金提供のタームシートを辞退したあとから起きているる。
この新たな資金提供を受けていれば、HQは大型雇用により、さらに多くの番組を制作でき、オーディエンスの減少を食いとめるためのマーケティングを行う手助けにもなっていただろう。だが、契約は差し止められた。2018年2月、ファウンダーズファンド(Founders Fund)が中心となり、ライトスピードも参画した結果、HQは1億ドル(約108.2億円)のポストマネーバリュエーションに際して1500万ドル(約162.2億円)の資金を調達している。情報筋によると、この投資はダウンラウンド(従来より安い価格で株式を発行して増資を行うこと)だった可能性があるという。
ライトスピードもファウンダーズファンドも、この件へのコメント依頼には応じなかった。
新しいCEO探しも難航
HQが新しいCEOを見つけるには長い歳月がかかっている。共同創設者であり、前CTOのコリン・クロール氏は、それまでCEOを務めていた共同創設者のラス・ユスポブ氏に代わってCEOの役職も兼任しているが、これは2018年9月に、共同創設者間の衝突や、ライトスピードのジェレミー・リュー氏の助言によるものであったと、リコード(Recode)は報じている。だが、クロール氏が2018年12月に他界すると、ユスポブ氏が暫定のCEOとして復職した。ハリウッド・リポーター(Hollywood Reporter)によると、取締役会は代役を探しているが、まだ見つかっていないという。
それ以来、ユスポブ氏は一連の残念な出来事の立役者となってしまった。2019年2月、社員たちはユスポブ氏をCEOの座から下ろすべく嘆願書をとりまとめたが、テッククランチによると、これによって3名の社員が解雇されたという。4月には、メイン司会者であるスコット・ロゴースキー氏がダゾーン(DAZN)の番組の司会を務めるため退社し、7月には、一連の解雇が行われた。
HQは、現在も毎日夜9時にトリビアを放送している(昼3時の放送は終了した)。頻度は少ないがHQスポーツ(HQ Sports)やHQワード(HQ Word)も放送している。だが、HQの旬は過ぎ、バーで見知らぬ人同士がゲームに興じたり、オフィス内での話題になるようなこともなくなった。HQトリビアの最近のエピソードはNetflix(ネットフリックス)の『ストレンジャー・シングス』(Stranger Things)で大きく取り上げられたが、そのオーディエンスは30万人以下だった。日々100万人規模の人々を魅了してきたゲームだったことを考えると、これはほど遠い数字だ。
「テレビの未来」のその後
HQが公に立ち上がってまもなく、Airbnb(エアービーアンドビー)でマーケティングを率いるムサ・タリク氏は、その商品に対する感動をこうツイートしている。
Just watched my first episode of @hqtrivia – basically the future of TV. If you’re a network or media company, buy them NOW. pic.twitter.com/adi1caNOt4
— Musa Tariq (@MusaTariq) October 15, 2017
@hqtrivia で、私の最初のエピソードを見たが、これはテレビの未来だ。ネットワーク、メディアに携わっているなら、すぐにでも買うべきだ。
現在、HQには買主もおらず、将来の不安を抱え、苦境に陥っている。