過去10年のオンライン広告で経済的に最も重要なトレンドのひとつが、「中間層」ともいえるパブリッシャーの台頭だった。絶え間なく流れ込む広告費が、この層にも押し寄せ、成長を支えていたからだ。だがこの想定も、プライバシーとパーソナライゼーションの妥協点を巡って長引く模索のなかで、ひっくり返されようとしている。
過去10年、オンライン広告における経済的にもっとも重要なトレンドのひとつが、「中間層」ともいえるパブリッシャーの台頭だった。
業界の行方を予想する誰もが、中間層の成長の勢いは続くと見ていた。オンラインメディアに絶え間なく流れ込む広告費が、この層にも押し寄せていたからだ。だが、この当たり前とされていた想定も、プライバシーとパーソナライゼーションの妥協点を巡って長引く模索のなかで、ひっくり返されようとしている。
打撃を受けるのはいつも中間層
Webは中間層の崩壊に向かっている。サードパーティCookieが崩れていく傍らで失われたデータを補うべく、マーケターは以前より綿密にパブリッシャーと連携している。各種メディアを傘下に収める最大手の一流パブリッシャーは、もちろん万全の態勢にある。ニッチを独占する情報通の小規模パブリッシャーも、同様に態勢を整えている。心許ない立場にあるのは、その中間に当たるパブリッシャーたちだ。
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大抵の場合、彼らは信頼できるファーストパーティデータを大量に蓄積(そして販売)するだけの規模を持たない。だが、メディアレップに委託するには規模が大きすぎる。この中間ならではの問題をうまく解決してくれたのがサイトのブランド価値と、そしてさらに重要なことには、サイトのオーディエンスの価値を中間層にも活用できるようにしてくれたサードパーティCookieだった。これがあるおかげで、広告主はプレミアムなメディアに比べれば、ほんのわずかなコストで、同様のオーディエンスにリーチできることに気がついた。当然、メディア予算はこれら中間パブリッシャーに流れ込むことになる。
しかし、サードパーティCookieがなくなると、その流れが停滞(悪くすれば消滅)する可能性がある。中間層パブリッシャーは、何も持たない弱者へと転落するリスクにさらされるのだ。
どこかで聞いたような話だと思うかもしれない。昨今のパンデミックは、米国やインド、中国などの中間所得層の多くの人々に残酷なまでの経済的打撃を与えた。もちろん、この波に対抗できるパブリッシャーもなかにはあるが、多くにはそのような力はないだろう。広告主が、ファーストパーティCookieのデータに基づいてパブリッシャーが「管理」しているオーディエンスに穴埋めを頼ろうとする傾向が強まっている今は、なおさらだ。こうしたオーディエンスをサードパーティCookieなしで売ることは安くはない。その一方で、報酬を支払わなければならない営業担当役員もいれば、資金を要するテクノロジーもあるのだ。
メディアレップへの関心が高まっているが
アドテク企業インフォリンクス(Infolinks)CEOのボブ・レギュラー氏は「上層のパブリッシャーは、従来の匿名のCookieに代わるものとして、メールやクレジットカードやまったく別のもので何らかのユーザー情報をうまく提供できている」といい、「中間層のパブリッシャーではそれができない。ユーザー情報を大量に集められるだけのコンテンツの層も、発行頻度もない」と語る。
その結果、このようなパブリッシャーの一部がインフォリンクスのような企業やメディアレップに目を向けるのは驚くべきことではない。実際、それはすでに起きている。最大手のメディアレップは市場の上位に移動しつつある。プログラマティックコンサルティング企業ジャウンスメディア(Jounce Media)の創業者クリス・ケイン氏は「メディアレップと提携する小規模パブリッシャーが高度なイールドマネジメントと販売プレゼンスで中間層のパブリッシャーに勝るのは、最近ではよく見られることだ」と話す。
たとえばカフェメディア(CaféMedia)の例を見てみよう。ハースト(Hearst)同様、カフェメディアもメディアレップとしてヘビー(Heavy)のようなニュースアグリゲーターからレシピサイトのスペンド・ウィズ・ペニーズ(spend with pennies)などの大規模サイトの収益化を担う。だが同時に、2500を超えるサイトについて販売オペレーションをまとめることで、ロングテール的なサイトについても同様のことを行っている。
「中規模パブリッシャーがメディアレップについて熱心に検討するようになっているのは確かだ」と語るのは、取引先の約半分が中規模パブリッシャーだというプロハスカコンサルティング(Prohaska Consulting)のCEO、マット・プロハスカ氏だ。プロハスカ氏は「中規模パブリッシャーたちは、ますます縮小するメディア予算を巡って必死に戦い続けて自然淘汰に身を任せるか、協同組合的な契約を検討するかの選択しかないことに、ゆっくりとではあるが確実に気づき始めている。カフェメディアやメディアヴァイン(Mediavine)のような企業の傘下に入るのは後者に相当する」と語った。
結局はパブリッシャー次第
それでも、メディアレップにとって、これはそれほど単純な話ではない。第1に、中規模パブリッシャーと仕事をするのは小規模パブリッシャーとの提携とはわけが違う。たとえば、中間層のパブリッシャーはエージェンシーに対しては引き続き自社のインベントリー販売を行いたいと希望する。つまりビジネス上、メディアレップに手数料を支払わずに自ら広告掲載申し込みを受け付ける権利を持ち続けるとともに、Googleアドマネージャーの自社アカウントも手放したくはないのだ。
第2に、これらの問題が解決したとしても、彼らの行動はプライバシー違反と誤解される可能性がある。というのも、ユーザー情報に関連付けるための新しい仕組みを使用しようとすると、それが何であれ、それ自体がプライバシーの精神に反する可能性があるからだ。
幸運なことに、メディアレップはパブリッシャーにとって選択肢のひとつでしかない。独自路線を進もうとするパブリッシャーは確実にいるだろう。具体的には、直接買い付けの需要を引き付けることができ、コンテクストに基づいたプログラマティックバイイングで特大のシェアを獲得することのできる、ニッチなカテゴリーのパブリッシャーが該当するとケイン氏は話す。だが、それは困難な道だ。ケイン氏は、独自路線戦略に進むには、持続不可能なトラフィック獲得コストや不快な広告体験が付き物だという。最大手のメディア企業が、中規模デジタルパブリッシャーのプログラマティック業務を担うべきという主張に説得力があるのも無理はない。
メディアコンサルティング企業のカントン(Canton)のCSOを務めるロブ・ウェブスター氏は、「賢いマーケターたちは予算をまとめ、優良サイトに数を絞って投じている。そのメディアプランに載せてもらえるかはパブリッシャー次第だ」と話す。「小規模パブリッシャーの場合はそれを自社だけでやってのけることは難しい」。
存在感を増すメディアコンソーシアム
ヨーロッパに目を向ければ、ガーディアン(The Guardian)からスタイリスト・グループ(Stylist Group)までさまざまなパブリッシャーが参加する英国のメディアコンソーシアム、オゾン・プロジェクト(Ozone Project)が、ローカルなパブリッシャーたちを取り込もうとしている。
オゾン・プロジェクトのCEO、デイモン・リーブ氏は「パブリッシャーのファーストパーティデータの価値を確立する上で、オーディエンスのスケールは非常に大きな意味を持つ。広告主が求め、ソーシャルプラットフォームが提供する、きめ細かいターゲティングと競うにはスケールが必須」と語り、「ソーシャルプラットフォームの環境と真に競い合えるだけのスケールを持つパブリッシャーは少ない。それに、これらの環境がほとんどの広告主にとってキャンペーンに不可欠となっているという現実も認めざるを得ないだろう」と話す。
そこでオゾン・プロジェクトの出番だ。オゾン・プロジェクトはあらゆる規模のパブリッシャーが、そのインベントリーだけでなく、それぞれのオーディエンスから価値を生み出すことを助けるとリーブ氏は続ける。「オゾン・プロジェクトはシティAM(City AM)やタイムアウト(Time Out)などのシングルブランドのパブリッシャーから、町村レベルのローカルや地方レベル、大手国内タイトルがそろうマルチブランドのリーチ(Reach)まで、あらゆる種類のパブリッシャーと関わっている」と語った。
オゾン・プロジェクトは、収益が保証されないオープン市場のプログラマティックオークションに向かう前に、パブリッシャーがメディア予算を確保できるように設計されている。このようなサプライサイドの集約は、しばらく前から見られる。
中間層の「崩壊」はいずれ収束するか?
今現在、メディア企業の上位27社が規模ベースで上位1000のウェブサイトのうち189サイトと、1058のロングテール的なウェブサイトを管理下に置いている。ジャウンスメディアによれば、これらのサイトをすべて合計すると、DSPに流れ込む費用の37%を占める。
インプレッションをさらに集約して提供する、カフェメディアのような企業もこの動きに拍車をかけている。ジャウンスメディアの分析によると、上位27社のパブリッシャーとメディアレップ上位3社が、1万1972のウェブサイトを管理下に置き、DSP費用の50%以上を取り込んでいる。Cookieが消えゆくなかで、オゾン・プロジェクトのようなコンソーシアムやパブリッシャーのM&Aを通して、この傾向はさらに強まるだろう。
この状況下で中間層のパブリッシャーたちが崩壊から復活できる日がやってくるかは、現時点ではわからない。ChromeのサードパーティCookie廃止すら、はっきりとした日付は明らかになっていない。ただし、仮に大規模な崩壊(を引き起こすような事態)があったとしても、比較的短期間で終わる可能性がある。
理由は次のとおりだ。広告主が上層のサイトに予算を集中させると、そこでインプレッション価格のインフレが生じる。つまり、金額当たりの価値は下がることになる。実際のところ、オンライン広告の主力は中間層とロングテールのサイトにあるのだ。
したがって広告主はそのインプレッションをより賢い方法で、インフレ抑制をサードパーティCookieに頼らずに買い付ける手段を探さなくてはならない。ウォールドガーデンを当てにしても、その供給量は限られているため、インプレッション数が増えるだけの話で終わる。ここに、バランスの再調整が起きる可能性がある。
セカンドパーティデータの共有が鍵
顧客データプラットフォームのブルーコニック(BlueConic)COOのコーリー・マンチバック氏は「ここで示されるリスク、つまり中間層の崩落というリスクは、メディア企業やパブリッシャーが結集し、協同組合を形成するなど、互いにセカンドパーティデータを共有できるような仕組みを構築して戦わなければ、現実のものとなってしまう」と語る。
「いくつかの面で、結集には利点がある。広告バイヤーにとっては品質とリーチの維持を図ることができるし、プライバシー保護という意味ではより優れたデータ使用承諾の仕組みをメディア横断的に構築できる。また、エコシステムの中心をアドテク企業やウォールドガーデンではなく、パブリッシャーに取り戻すことができる」。
[原文:Here’s why the loss of the third-party cookie is heading toward a collapse in the middle]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)