ハースト 、独自の「高級ヨガマット」ブランドを展開:メディア企業ならではの DTC

ハースト・マガジン(Hearst Magazine)が販売している最新のプロダクト、バックスラッシュ・フィット(the Backslash Fit)の見た目は、インスタグラム(Instagram)やFacebookのフィードに、いかにも流れてきそうなものになっている。

ミレニアム世代向けのヨガマットであるバックスラッシュ・フィットは、手首にパチンとくるまるブレスレットと同じデザインコンセプト。プロダクトページには高画質の写真が並んでいる。実際のプロダクトは、より分厚い素材、床にしっかりと吸着する背面とさまざまな機能がついて、他のヨガマットと大きく異なっている。値段は89.99ドル(約1万200円)と高め。

いまやモバイルデバイス上には消費者へのネット直販(DTC)プロダクトが次から次へと表示されるが、バックスラッシュ・フィットの販促戦略はFacebookとインスタグラムが中心ではない。検索マーケティングにも投資のフォーカスを置いていない。消費者個人へとメッセージを届ける戦略は、まだ展開されていない。

自社メディアを用いてPR

ハーストがパブリッシャーとして持っているプロモーション力を使って、プロダクトをオーディエンスに売ることができる。バックスラッシュ・フィットはそれを証明しようとしているのだ。ハーストのサイト上にプロダクトレビューを掲載し、そこにはもちろん購入リンクも載せる。ディスプレイ広告キャンペーン、eメールのニュースレターによるターゲットプロモーションといった具合だ。自社プロダクトという点では、ただクリックによるアフィリエイト手数料を越えたレベルで、このヨガマットが成功するかどうかが重要となっている。

ハーストは、ゼロから今回のヨガマットを製作したわけではない。プロダクトの大部分はヨーヨーマット(YoYoMat)というプロダクトをベースにしており、ハーストはバックスラッシュのブランドを作った。ハーストの消費者プロダクト部門責任者であるシール・シャー氏は今春、ロサンゼルスで開催されたアートアンドクラフト・フェアでヨーヨーマットのクリエーターたちと出会った。キックスターター(Kickstarter)から生まれたヨーヨーマットだったが、プロダクトを実現させたという点でこのクリエーターたちの業績をシャー氏は称える。彼はそこで、このプロダクトを必要としている人々に提示して、より幅広いライフスタイルの一部として売り込むチャンスを見出したのだ。

「我々のブランドからプロダクトを購入することを人々は信頼している。ここからどうやってより深めていき、ビジネス自体にコミットしていくか。そして、オーディエンスとのつながりをさらに深めるのか。今後数年間でこういったことが重要となってくる」と、彼は言う。

クリエイティブとの共存

ここ1年ほどで、BuzzFeed、クリーク・ブランド(Clique Brands)、ポップシュガー(PopSugar)といったパブリッシャーは消費者向けブランド企業としての動きを強く見せるようになった。自社でプロダクトを開発したり、広告主と提携してプロダクトを提供したりといった具合だ。これは彼らが持つメディア力、そしてクリエイティブコンテンツが広告主のプロダクト売上を伸ばすことができると証明することが、目的のひとつとなっている。ハーストが抱える15人編成のプロダクトスタジオチームはクリエイティブのアイデアを出すところから、プロダクト開発、マーケティング、カスタマーサービス、オペレーションまですべてをペンシルベニア州、イーストンで行っている。2018年初頭にロデール(Rodale)を買収した時に入手した10人編成の消費者プロダクトチームがスタートだった。組織構図も大幅に変更されてきた。プロダクト開発とマーケティング部門をふたつの離れた場所で行うのではなく、オフィス内の近接したスペースで並んで行うようになったのだ。

ハーストが持つエディトリアルブランドとも定期的に対話を持っているという。これによってエディターたちがプロダクトについて掲載してくれるかどうか、興味の度合いを測ると同時に、エディターたちの知識やセンスを活かして、プロダクトの改善にもつなげているという。たとえば、バックスラッシュ・フィットは、Amazon Alexa(アレクサ)のスキルを持っている。Alexaを通してヨガのルーチンやポーズをガイダンスしてくれるというものだ。これはウィメンズ・ヘルス(Women’s Health)のエディトリアル・スタッフの助けを借りて開発された。販促用品はすべてイーストンのチームが開発した。これには動画やWebサイトなどが含まれる。バックスラッシュ・フィットのための、FacebookとTwitterプロフィールも最終的にはリリースする予定だ。

収益をあげるつもりではあるが、プロダクトを今後展開していくなかでのテストとして、シャー氏はバックスラッシュを捉えている。どのようなプロダクトを売り上げることができるのかを見極めるため、プロダクトスタジオはハーストのエディトリアルブランドがこれまでにパブリッシュしたなかで、パフォーマンスが良いコンテンツを調べている。また、検索結果において、どのような記事が優位な位置に表示されるかどうかも調べているという。彼らのアフィリエート・コマース部門は成長を続けており、2018年には2億ドル(約226億円)を生み出すペースだと、ハースト・マガジンのプレジデントであるトロイ・ヤング氏は述べている。このアフィリエート・コマース部門からの売上コンバージョンデータも分析している。

ブランドは独立させる

今回のヨガマットを、すでに存在しているコスモポリタン(Cosmopolitan)やプリベンション(Prevention)といったエディトリアルブランドと関連付けることは意図的にしなかったと、シャー氏は言う。新しいブランドを作ることで、消費者も先入観なくプロダクトに接することができるのが理由だ。新しい名前を作ったのも、ハーストのメディアを複数横断する形で紹介しやすいようにするためだ。

「Facebookとインスタグラム上での料金が上昇しているなかでは、これは簡単な仕事ではない。DTCブランドの多くが地下鉄やバス停、地上波ラジオ放送へと広告の場を求め始めたのもそのためだ」と、シャー氏は語る。「我々もこういったチャンネルを探っている。しかし我々には大きなオーディエンスが存在している。オーディエンスを持っていないプロダクトとどう戦略的に競争するか、考えることができる」。

ハーストのメディアにおけるプロダクト掲載も、エディターたちに義務付けているわけではない。プロダクトスタジオはあくまでもエディトリアルスタッフたちにプロダクトについて書いてもらうように説得しなければいけない。これは他のどのブランド商品でも同じだ。コンテンツとフィットするメディアだけが、スタジオからの売り込みを受けることになっている。「ポピュラー・メカニックス(Popular Mechanics:科学・テクノロジーを扱うメディア)に出向いていって、(ヨガマットについて)書かせようとしたわけではない」と、彼は言う。

業界人からも注目が

時期が来れば、今回のヨガマットもハースト以外のパブリッシャーに掲載してもらうよう売り込みをかけるとシャー氏は言う。しかし、ハーストの大手メディアにおける絶賛のレビューが、成功の鍵となっていることは間違いないだろう。

「顧客や読者からの信頼を得ているメディアにおいて、素晴らしい記事を書いてもらえたとき、それを顧客獲得に再利用することがベストだ」と、ジェニファー・ベット・パブリシティ(Jinnifer Bett Publicity)のパートナーであるメリッサ・デュレン・コーナー氏は言う。ジェニファー・ベット・パブリシティはナーダム(Naadam)、マテリアル(Material)、そしてパラシュート(Parachute)といったDTCブランドを顧客にかかえている。

ロデールを買収して以来、ロデールが抱えるメディアの収益を多様化するチャンスを活かしてきた。バイシクリング(Bicycling)やランナーズ・ワールド(Runner’s World)をコマースとサービスの方向にプッシュするといった具合だ。ブランドをしっかりと固めて、プロダクトを宣伝するメディアもしっかりと固める、このモデルには業界人からも注目が集まっている。

「最大限のコミュニケーション、露出、そしてオペレーションに活用できる勢いを掴むためには、ブランドは消費者の手元にコンテンツをより多く届けないといけない。メディアもプロダクトも両方を所有している場合、そこでビジネスを生む大きなチャンスが存在している」と、投資銀行トライアングル・キャピタル(Triangle Capital)のパートナーであるリチャード・ケステンバウム氏は言う。

Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)