メタバースに創り出した飛行船に、ハーストは広告主を文字通り「乗せたい」と考えている。その背後にあるのは短期的に利益ではなく、若い女性ゲーマーというハーストメディアブランドが抱える’オーディエンスへのリーチに、共同ブランディングによるVRがいかにポテンシャルを持つかを示したいという意図だ。
仮想世界メタバースに創り出した飛行船に、ハースト(Hearst)は広告主を文字通り「乗せたい」ようだ。
ハーストが新規、既存のクライアントに2021年秋に公開する飛行船、「ハースト・ユース+ウェルネスグループ・エアシップ(Hearst Youth + Wellness Group Airship)」の背後にあるのは、若い女性ゲーマーというハーストのオーディエンスへのリーチに、共同ブランディングによるVRがいかにポテンシャルを持つかを示したいという意図だ。ハーストは2020年にコムスコア(Comscore)が発表したデータを引用し、コスモポリタン(Cosmopolitan)、ウィメンズヘルス(Women’s Health)、メンズヘルス(Men’s Health)、セブンティーン(Seventeen)、クレバー(Clevver)などのメディアブランドを含む同社のユース&ウェルネスグループ(Youth & Wellness Group)が、女性ゲーマーの3人に1人にリーチしているとする。
ハーストがゲームや仮想空間に進出するのはこれが初めてではない。コスモポリタンは2021年6月にモバイルゲームのコベットファッション(Covet Fashion)と提携し、さまざまなシーズントレンドをテーマに毎月ファッションチャレンジを開催。特集されるデザイナー商品の販売も行っている。
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エアシップは、こうしたキャンペーンよりかなり大きな規模で展開される。ハーストはメタバースの空に浮かべるブランドロゴ付きのこのオリジナル飛行船を、仮想の集合場所兼イベントスペースとして使用するつもりだ。これまでのところ、ユース&ウェルネスグループの営業チーム45人といくつかの編集チームがエアシップで集まっている。
ハーストのユース&ウェルネスグループのシニアバイスプレジデントでパブリッシングディレクター兼CROを務めるナンシー・バーガー氏は「ラグジュアリーやファッション領域のブランドがゲーミングを試すケースが多く見られるようになった。広告主は新しい領域を征服したいと考えている」と話す。
「マーケティングツール」としての仮想飛行船
将来的には飛行船にオーディエンスやインフルエンサーを招待することもあるかもしれないが、目下の目標はクライアントに乗船してもらい、メタバースでの共同ブランディングによる没入感の高いオリジナル体験の構築を披露することだ。バーガー氏は、クライアントにその空間を楽しみ、探検してもらいたいと話す。エアシップ内にはハーストのヤング&ウェルネスグループの各誌をテーマにした部屋が用意されている。バーガー氏は「ほかのゲーミングプラットフォームでも、どのようなオポチュニティを生み出していけるかをクライアントと話したい。エアシップは特に消費者のエンゲージメントを狙ったものではく、どちらかといえば『マーケティングツール』」と語る。
バーガー氏は、エアシップが「必ずしも収益を生み出すことを目的とするものでもない」とも話している。ハーストはエアシップの開発費を明かしていないが、「当社ではこの分野が投資に値すると考えている。広告主に対し、革新的で市場初のソリューションを提供するという当社の先進的な地位を、さらに推し進める本格的なチャンスだ」とバーガー氏は語る。クライアントの乗船料は無料で、ハーストは2021年秋から招待を始め、エアシップでクライアントをもてなすそうだ。
電通グループの電通ゲーミング(dentsu gaming)でプロダクトソリューション担当シニアバイスプレジデントとして米州地域を率いるダン・ホランド氏は、ブランド各社がメタバースに関心を示していると語る。ゲームは、ホランド氏が「インターネットの未来」とするものに対する「格好の試験台」なのだそうだ。ラグジュアリーブランドにとっては「特にそうだ」とホランド氏は話す。ゲームを通して、ラグジュアリー品を求める既存顧客と見込み顧客にデジタル商品でリーチできるからだ。仮想世界に進出するハーストの動きは、こうしたブランドが「より没入感の高い体験で」彼らのオーディエンスに対するエンゲージメントとリーチを獲得することを可能にする。
エアシップ内部
VRヘッドセットを装着し、アバターを作成したら(ちなみにハーストのバーガー氏のアバターは髪と目が青い)、エアシップにテレポートする準備が完了する。まずはラウンジに入って、ハーストのユース&ウェルネスグループ各誌のエディターたちと会う。バーガー氏はエアシップを「クライアントが当社スタッフに会いに来てもらえる場所」だと話す。そこから、各誌に合わせた体験が用意された部屋を次々に訪ねて回ることができる。
たとえばウィメンズヘルスの部屋にはホットタブ、瞑想スタジオ、仮想ハイキングがあり、そこでエアシップのプラットフォームとなっているマイクロソフトのソーシャルVR「AltspaceVR」のほかの住人たちとも交流できる。コスモポリタンの部屋には自撮りスポットや美容エリア、パブゲームが用意されているほか、コスモポリタンブランドのワインを(バーチャルに)飲めるバーもある。これらを通して、クライアントはゲームとVRの中でどのようにプロダクトプレイスメントを図っていけるかを見ることができる、とバーガー氏は述べる。
どのような仕組みになっているのか
前述の通りハースト・ユース+ウェルネスグループ・エアシップはAltspaceVR上にあり、制作したのは「仮想の未来に入植すること」を目標に2020年に設立されたVR制作会社、オリガミ・エア(Origami Air)だ。ハーストの仮想飛行船は、オリガミ・エアがデザインしたブランディングされた飛行船のシリーズの最新作で、同社はこれまでにもコカ・コーラ(Coca-Cola)やネスレ・ピュリナ(Nestlé Purina)などの飛行船を制作している。エアシップのユーザーはAltspaceVR内の他の仮想空間に加え、(許可を取得すれば)ほかのブランドの飛行船も訪問できる。
オリガミ・エアの創業者でプロダクトディレクターであるトリーシャ・ウィリアムズ氏によれば、エアシップの乗船にVRヘッドセットは必須ではなく、従来のウェブブラウザがあれば十分だ。ただ、「VRヘッドセットでの体験がもっともいい」という。現実世界の社交の場をこの上なく綿密に再現するAltspaceVRの各種要素を体験するには、空間オーディオやアバターのリアルなジェスチャーも含めた、フルVR装備のほうが理想的だろう。
ブラウザのユーザーにもVRモードのユーザーにもすぐわかる、この空間のもっともメタバース的な点は、それが「100%の一貫性を持つ」ことだ、とウィリアムズ氏は話す。つまり、すべての変化がリアルタイムですべてのユーザーに見える、という点だ。ハースト・ユース+ウェルネスグループ・エアシップを単に飾り立てたテレビゲームではなく、正真正銘の仮想空間にする鍵を握る要素がこれだ。
ウィリアムズ氏は「ハーストマガジン(Hearst Magazines)と協力し、メタバースに足を踏み入れてポテンシャルを見てみたいというVRユーザーや好奇心旺盛な人々に喜んでもらえるような体験を創りたかった」と語る。
ハーストがエアシップをB2B的な目的で使用することは、同社が仮想空間のポテンシャルをゲーム以上、さらには没入感の高いブランドアクティベーション以上のものであると見ていることを示す。メタバースを単に目新しいものとして、またはマーケティング費用をかける対象としてではなく、コワーキングとコラボレーションを刺激する手段として活用する企業はますます増えている。飛行船をデジタルな役員室や応接室として扱うことで、ハーストもこのような企業の仲間入りをしたというわけだ。
[原文:Hearst launches blimp in the metaverse in a bid to show advertisers virtual co-branded opportunities]
SARA GUAGLIONE & ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)