2018年7月、トロイ・ヤング氏がハーストマガジン(Hearst Magazines)のトップに就任した際、彼のタスクのひとつは、雑誌社の運営を合理化し、分断していた紙媒体とデジタル部門のチームのいくつかを統合することだった。それに向けて、12名体制の調査チームとともに、編集面でのデータ活用に力を入れている。
2018年7月、トロイ・ヤング氏がハーストマガジン(Hearst Magazines)のトップに就任した際、彼の「ToDoリスト」のひとつは、雑誌社の運営を合理化し、以前に分断してしまった紙媒体とデジタル部門のチームのいくつかを統合することだった。その目標に向けて、ハーストは12名体制を敷く調査チームの支援のもと、編集面での意思決定にあたってデータの活用に力を入れている。
ハーストのようなパブリッシャーにとって、純粋なオーディエンスのスケールは依然として重要であり、そのスケールはさらに増大している。コムスコア(comScore)によると、9月の重複のないビジター数は、前年比16%増の1億2820万人に達している。だが、ハーストのようなパブリッシャーがいま注目しているのは、リピーターの訪問数やそこで費やされた時間など、質そのものの計測だ。ハーストは、オンラインで寄せ集めて公開された、またはスピーディに制作されたストーリーよりも、もっとメッセージ性のあるストーリーに傾倒しつつある。
専用のSlackツール
これまで、ハーストのデジタル部門における読者データへのアクセスは限定的なものだった。そこで同社が講じた対策は、社内の誰もが利用できる「Hearst Analytics Slackbot」の頭文字をとった「HANS」というスラック(Slack)用のツールの構築だ。このHANSによって、人々がもっとも時間を費やしているストーリーやトレンドになっている話題、eコマース関連の投稿のなかでどの商品が売れているか、といったことを知ることができるようになった。また、ハーストが自身のストーリーの一番下に配置している読者アンケートの結果を知ることもできる。
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データに重きを置くことには、ヤング氏の最近のモットーである「目的のあるコンテンツ」を後押しする目的がある。
「これが意味するところは、制作しているコンテンツには意図があるということだ」と、ハーストマガジンでチーフコンテンツオフィサーを務めるケイト・ルイス氏は語る。「公開前にはその目線で評価を行う必要がある。HANSは、我々がいま取り組んでいる『データを活用したエディトリアルインサイト』の象徴であるといえる。HANSを使うとデータをもっと日々の生活の一部として見るようになる」。
データ活用の方向性
HANSを活用しているハーストのグッド・ハウスキーピング(Good Housekeeping)のスタッフは、「ディス・イズ・アス(This is Us)」や「ダンシング・ウィズ・スター(Dancing with the Stars)」などのテレビ番組に関するストーリーが特に読者に人気があることを知った。「ディス・イズ・アス」をライブで見たいかどうかのアンケートを実施したところ、オンラインでストーリーを公開する最適な時間は、その番組の放送直後だということもわかった。そして、グッド・ハウスキーピングのスタッフが3月号で「ディス・イズ・アス」の特集記事を組むという決断をするうえでは、こうしたフィードバックが手助けとなったのだ。
このツール導入のもうひとつの目的は、企業としてのデータ活用の方向性を示すところにあり、このツールによって一度は離れてしまった紙媒体と編集チームの距離を縮めることができる。ハースト・デジタルメディア(Hearst Digital Media)のコンテンツ部門のバイスプレジデント、ブルック・シーゲル氏は、社員がこうしたデータの理解を深めるため、新しいチームを率いることにした。このチームには、かつては検索やソーシャルメディア部門で働いていたスタッフが配属される予定だ。パブリッシャーのオーディエンス開発チームは編集とビジネスのタスクの両方を担うこともあるが、このチームは編集に特化する予定だ。
「実施したいと思っているのは、我々が日々行っていることに人々を巻き込むことだ。何がうまくいくかを気楽に話し合えるので、とてもいい感じで実施できている。紙媒体の編集担当者たちは、読者が昨今は、どのウェブサイトを見ているのかを認識している。これまで彼らは、そういう認識を持っていなかった」と、ルイス氏は語る。
コンサルからの意見
「紙媒体もデータに注力する時が来ている」と、自身の会社のシップス・ホイール・メディア(Ships Wheel Media)を通じてデジタルメディアの管理に関するコンサルティングを行うケビン・アンダーソン氏は語る。ここでは、リーダーが目標達成の手助けになるような正しいデータを重視しているかどうかが鍵となる。
「その根拠として挙げられるのは、『これならうまくいくという編集的な直感がある』ということだ。これまでは、デジタル面では常に数字に重きを置いてきた」と、アンダーソン氏は言う。「問題は、そのデータをどのように活用するかということだ」。