ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)では、いま大いに緊張が走っている。去る6月、ニュース制作プロセス全体の合理化計画をめぐって、NYTの編集部員が抗議のために職場放棄した結果、コピーエディターの数が減るからだ。今回の「告白」シリーズでは、NYTのコピーエディターに話を聞いた。
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:以下、NYT)では、いま大いに緊張が走っている。去る6月、ニュース制作プロセス全体の合理化計画をめぐって、NYTの編集部員が抗議のために職場放棄した結果、コピーエディターの数が減るからだ。
NYTの編集長であるディーン・バケット氏は、自ら紙面上で、ニュース制作プロセスを迅速化するには変革が必要だと説明。これによって、さまざまな種類の記事を作成できるという。
業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、そんな厳しい立場におかれた、NYTのコピーエディターに話を聞いた。この人物をはじめ、NYTのほかの編集部員は質の低下を心配している。
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――NYTの編集部員を代表する労働組合「ザ・ニュースギルド(The NewsGuild)」は、経営陣に宛てて厳しい批判の書簡を書き、恐怖と屈辱に満ちた環境について述べた。編集部員たちはどう対処しているのか?
編集部員たちは明らかに、すでに経験済みのプロセスを経験しなければならず、見下されていると感じて不満を抱いていた。以前から士気は非常に低い。何カ月も前からそうだ。仕事がある者とない者がいる。SFテレビドラマ「トワイライト・ゾーン」のような状況だ。
――NYTは、コピーエディターが配属されている特定のデスクを廃止したがっている。その件について大事なポイントは?
経営陣が求めているのは、コピーエディターの削減だ。そうなれば、誰もが何でも屋になる。質が低下すると受け止められている。避けられない話だ。
――読者が支援のためにピザを送ってきたというのは本当か?
自分はその日の夜にその場にいなかったが、話には聞いている。「こんなことは間違っている」と書かれたものもあった。それに、ザ・ニュースギルドは、職場放棄の件で良い仕事をしてくれた。そのおかげで、メディアにそこそこ取り上げられてもらえたのだと思う。
――状況は、編集デスクのシステムを再編した半年ほど前にすでに変化しはじめていた。その後どういう変化があったか?
状況は少し悪化した。これまでより多くの原稿を抱えている。というか、シャベルで大量にほうり込まれているような気分が強くなりはじめた。以前ならおそらく、3本の記事を手がけていた。事実をチェックし、正しい文法にする機会があった。
最近、ひと晩に8本の記事を抱え、仕事に埋没したことがあった。立ち上がってトイレに行くこともほとんどできなかった。できるだけ速く意欲をかき立て、急いで状況を把握するのがやっとだ。NYTのかつてのやり方とは違う。
編集部員は今後、原稿に目を通して、ゴーサインを出すだけになる。そうなれば、名前のスペルミスが目についたり、最初に名前への言及がなかったり、事実が間違っていたりするようになる。この新システムに移行して、紙面の小さなミスが目につきはじめた。我々は、いわば最後の砦であり、目に見えない砦だ。
――NYTに入社した当初はどんな風だった?
夢のようだった。それまで働いていたところでは、編集部員が記者やカメラマンほど尊敬されていなかったが、NYTでは記者の原稿に手を加えることができた。おそらく米国内にいるほかの者とほぼ同じくらい、自分は安泰だと思っていた。だが、そうではないことがわかった。ここで安泰でないなら、ほかのどこにいても安泰ではない。何年も経験を積んだ者が大勢辞めさせられている。
――人目につかないような仕事だ。何がやる気を引き出しているのか?
編集部員は栄光を求めているわけではない。署名入りの記事を書く記者や、写真にクレジットが入るカメラマンとは違う。きちんとした仕事をして、原稿が届いたら、新聞が間抜けに見えないようにしようとする。常に、見出しを書き、何かを明白にしてきた。ページ上のもっとも大きい文字を扱ってきた。だが、いまのNYTでは違う。もっと堅苦しい。
それでもやはり面白い。できるだけ良い記事にしたいとも思っている。その点でプライドを持っているのは確かだ。
――NYTがほかのパブリッシャーのように、動画や仮想現実(VR)みたいに利益が定かではない分野に投資するのを目にする一方で、コピーエディターが職を失いつつあるのが心配?
明らかに状況は変わった。だがそれでも、いま米国では、説明責任を求められることが多くなっていると思う。現大統領は基本的にメディア嫌いだ。最後の砦から後退するのは、自分の喉をかっ切るようなものだ。そんなことをするには、タイミングが悪い。
――最近の編集職についてどう思うか?
若いインターンが、まだこの仕事に就きたいと思ってやって来るのを見るのは興味深い。彼らが耳にするのは、ひどい出来事ばかりだ。良い進路かと訊かれたら、私ならノーと答えるだろう。少なくとも印刷物に関して言えば、これは斜陽産業だ。だが、編集の仕事に就きたがる人がまだいて、個人的にはうれしい。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)