日本雑誌広告協会は5月24日、「電子雑誌広告取引におけるガイドラインについて」の記者発表会を実施。いまや、年間350億円の販売規模(2018年5月電通調べ)を誇る、電子雑誌市場における、広告取引の統一ガイドラインを策定したと発表した。
日本の電子雑誌市場が静かに伸びている。それに応じて、電子雑誌における広告の機会も拡大してきた。
日本雑誌広告協会は5月24日、「電子雑誌広告取引におけるガイドラインについて」の記者発表会を実施。いまや、年間350億円の販売規模(2018年5月電通調べ)を誇る、電子雑誌市場における、広告取引の統一ガイドラインを策定したと発表した。
ちなみに、電子雑誌とは、ガイドラインによると、「出版社により制作された紙媒体の定期刊行物の誌面データを活用し、インターネット等を通じてスマートフォンやタブレットなどの電子端末で誌面の再生を行うと同時に、その発行物の誌名や表紙デザイン、目次等、当該の発行物として認識しうるもの」となる。つまり、PDFファイルなどで、紙の雑誌面をそのままデジタル化したものだ。
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「昨年度、当協会における広告問題対策委員会の調査でも、紙媒体の電子版率は53.8%と、全体の半数を超えた」と、同協会理事長であり、マガジンハウス代表取締役社長の片桐隆雄氏は語る。「一方、その仕様については、読み放題・WEBサイト・LINEなどのSNS、アプリ、メールマガジンなど、多様化が進んでいる。この新たな市場を広告主にとって使いやすくするため、電子雑誌広告ガイドラインを策定した」。
出版社のデジタル化事情
日本の出版社におけるデジタルシフトは、ほかの4マス媒体に比べ、急速に進んでいる。電通が2019年2月28日に発表した「2018年 日本の広告費」によると、昨年のインターネット広告費1兆7589億円のうち、出版社のデジタル事業による広告費は337億円だ。
ちなみに、新聞社におけるデジタル広告費は132億円、ラジオ局におけるデジタル広告費は8億円、テレビ局のデジタル広告費は105億円となっている。それに比べて、出版社のデジタル広告費は抜きん出て成長しているといえるだろう。
「2018年 日本の広告費」では、出版社は紙媒体を基点としないデジタルネイティブメディアを相次いでローンチし、ユニークユーザー数・広告ともに好調に推移していると伝えている。「主要出版社では、デジタル広告の売上が広告売上全体の40~50%になる」という説明もあったほどだ。
電子雑誌上の広告の扱い
しかしながら、その出版社のデジタル広告事業において、紙の雑誌面をデジタル化した「電子雑誌」上の広告の扱いは、あいまいなままだった。そこで、今回のガイドライン策定に至ったという。
「有償・無償にかかわらず、複製電子雑誌・読み放題サービスにおける広告掲載許諾や広告掲載の管理について、広告主は混乱している状況にある」と、同協会の企画委員長を務める森紀一朗氏は説明。同氏は、博報堂DYメディアパートナーズで第一メディアビジネス総括 総括長補佐を努めている。「こうした状況は、ほかの4マス媒体についても(TVerやradikoなどで)同様に起こっている。今後それぞれの業界で新たなルールが決められていくと思う」。
このガイドライン策定において目標としているのは、電子雑誌出版の成長とともに新たな広告収益の開発だ。雑誌出版とプラットフォーマーの差別化、商材化に伴う指標・運用体制が重要と考えており、その第一歩として、電子雑誌広告のガイドラインを発表することになったと、森氏は語る。
ガイドラインの中身
実際の統一ガイドラインでは、電子雑誌広告の価値向上や安定的な運用を目的とした規定・ルールを設ける際の「基本的な考え方」を示している。電子雑誌や電子雑誌広告の定義にはじまり、広告表現・倫理やアカウンタビリティー、入稿形態や効果指標など、多角的な視点から電子雑誌広告の「あるべき姿」が検討されていた。
「なお、このガイドラインは違反したものを取り締まるものではない。あくまでも罰則や強制力のない、自主運営するものだ」と、同協会の電子雑誌広告タスクフォースリーダーであり、講談社のライツ・メディアビジネス局局次長 兼メディアビジネス部部長長を務める長崎亘宏氏は説明する。「電子雑誌を本当にセーフティな信じられる媒体として、広告主・代理店に運用してもらうために、どうあるべきかを考えたもの。これを実務として運用していくなかで、改善していく」。
Written by 長田真
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