ガーディアン(The Guardian)は2017年春、コンテンツスタジオのガーディアンラボ(Guardian Labs)を再編した。編集室との連携を密にし、キャンペーンの効果を高めるためだ。最終的には、混乱が続く有料コンテンツ市場で競争力を維持し、黒字転換を目指す同社への財政的な貢献度を高めたいと考えている。
ガーディアン(The Guardian)は2017年春、コンテンツスタジオのガーディアンラボ(Guardian Labs)を再編した。編集室との連携を密にし、キャンペーンの効果を高めるためだ。最終的には、いまも混乱が続く有料コンテンツ市場で競争力を維持しながら、黒字への転換を目指す同社への財政的な貢献度を高めたいと考えている。
いまのところ、この取り組みはうまくいっているようだ。ガーディアンのデジタル広告収益1億860万ポンド(約157億円)のうち、ラボがどれくらいの割合を占めているのかは不明だが、2018年上半期には、ラボの収益が前年同期比で66%増えたという。10万ポンド(約1460万円)以上の大規模な取引だけをみても、平均で36%増加したという。さらに、クライアントの維持率も伸びたようだが、ガーディアンは具体的な数値は明らかにしていない。
62名のスタッフで構成されるラボは、以前のエージェンシー的な組織からコマーシャルフィーチャーデスクへと変貌を遂げており、組織の体制やプロジェクトの進め方は編集チームと変わらない。
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「蜜月は終わりを迎えた」
クライアントの難しい要望に対応できるスキルを獲得し、頻繁に変わる要望に対処できる体制を確立したおかげで、外部に委託する仕事や外部の有料配信システムの利用を減らせるようになったと、エグゼクティブディレクターのイモジェン・フォックス氏と、販売および戦略担当ディレクターのアダム・フォーリー氏は述べている。
「ブランデッドコンテンツとの蜜月は、目に見える具体的成果を求められるようになったことで終わりを迎えた」と、フォーリー氏はいう。「私が懸念しているのは、ブランデッドコンテンツが金食い虫とみなされ、メディアプランニングのなかで弱い立場に置かれる可能性があることだ。我々が競合他社のせいで仕事を失うことはめったにない。あるとすれば、ブランデッドコンテンツの予算がすっかり引き上げられたことが理由だ」。
ラボのプロジェクトはすべて、読者がどこでコンテンツと出会ったとしても、読者の共感を獲得し、読者をターゲットにできるように作られている。これを可能にしているのが、コマーシャルチームが利用している自社開発のデータ分析ツールだ(編集チームで以前から使われている「オーファン(Ophan)」など)。また、スタッフを適材適所に配置していることも一因だ。たとえば、キャンペーンの認知度を高める仕事は、3名のコマーシャルオーディエンスエディターに担当させている。彼らは、データを分析することで、ターゲットオーディエンスの関心を引き寄せるのに最適な場所、タイミング、方法を決定している。コンテンツの公開場所が、自社のサイトでもそれ以外の場所であってもだ。
「誰もスピードを恐れない」
ラボは2017年、ナショナル・ウエストミンスター銀行(Natwest)、Spotify(スポティファイ)、Google、Airbnb(エアビーアンドビー)といったクライアントのために、1199本のテキスト記事、65本の動画、12本のインタラクティブコンテンツ、そして55本の画像ギャラリーを制作した。また、読者がラボのコンテンツに費やした時間は、キャンペーンあたり平均で2.3分だったという。キャンペーンによっては、この時間が6分に延びることもあるそうだ。
各案件を担当するチームは、4人のメンバーで構成される。彼らの専門分野は、販売、戦略、編集、プロジェクト管理などさまざまだ。メンバーは必要に応じて、ラボのさまざまな人たちから情報を得るが、最終的な決定は自分たちで下す。「メンバーの数が少ない方が、自分たちのアイデアに勇気を持って取り組むものだ。大勢で決定を下すときのような危険は起こらない」と、フォーリー氏はいう。
このような少数精鋭体制のおかげで、チームは40件のキャンペーンを同時に手がけ、平均で毎週16回のブリーフィングに対応することができると、フォックス氏はいう。「いまや、このほうが効率が高い。ニュースブランドは、1時間以内に何かを作り上げることに慣れている。このような編集ノウハウをコマーシャルフィーチャーズデスクが蓄積しているため、スピードを恐れる者は誰もいないのだ」と彼女は付け加えた。
こうした体制が、さまざまなキャンペーンで賞を獲得している理由のひとつにもなっている。その一例が、エージェンシーのエッセンス(Essence)とOMD、およびGoogleと共同で手がけた「ザ・チェーン(The Chain)」だ。Googleの要望は、スマートフォンの「Pixel 2 (ピクセル2)」の魅力を高めることだった。そこでガーディアンは、モデル兼活動家のアジョア・アボアー氏など、10人の有名なファッションインフルエンサーと契約し、現状を打ち破るために日常生活でどのようなことを行っているのかをPixel 2の動画で語ってもらうよう依頼した。その後、ラボのチームは、インフルエンサーたちのコンテンツを利用して美しい体裁の雑誌を制作し、ロンドン中のブティックに配布した。また、インフルエンサーのコンテンツから制作した短尺のスピンオフ動画を、ガーディアンのサイトだけでなく、インスタグラム(Instagram)やFacebookで公開した。これらの動画は、6週間のキャンペーン期間中に43万ビューを集めたという。さらに、Pixel 2の購入意思を示した人の数が40%増えるという重要な成果を上げられたと、ガーディアンは述べている。
「ROI重視なら別チャンネルへ」
パブリッシャーのコンテンツスタジオは、どこも問題を抱えている。質の高いコンテンツを作り、それなりの規模で配信する仕事は、マージンがますます減少しているのだ。だが、ラボの場合は、人々がガーディアンの記事で期待しているレベル(表現、論調、スタンス)以上のコンテンツを作っていることが、マージンの確保に役立っていると、フォーリー氏は話す。ガーディアンのサイトでは、ペイドコンテンツは広告であることが明記されているものの、その視認性は高い。「おかげで、我々は(有料ソーシャルに)たくさんのお金をつぎ込むことなく、ターゲットに訴求できている」と、彼は付け加えた。
エージェンシーは、パブリッシャーのオーディエンスに関する詳しいインサイトを求めている。どのようなトピックがオーディエンスの行動を促し、クライアントに代わってオーディエンスとの関係を深めているのかを明らかにできるからだ。「そのため、インサイトに投資しているコンテンツスタジオはどこも、頭ひとつ抜き出ている」と、エッセンスでコンテンツおよびイノベーション担当バイスプレジデントを務めるローラ・ウェイド氏は語った。なかでもガーディアンのラボは、ほとんどのコンテンツスタジオよりはるかに先を行っているという。
「クライアントがROIをもっとも重要な指標としている場合には、ブランデッドコンテンツをやめることを慎重に検討する。ROIを保証できるチャネルはほかにもあるからだ。ブランデッドコンテンツは主観的要素が非常に強いため、ROIを保証することは難しい。それに、実施面では変動的な要素が多い。たとえ驚くほどの販売実績をもたらす可能性があるとしてもだ」と、ウェイド氏は語った。
「強力なものになりうる」
ガーディアンのラボが、コマーシャルフィーチャーデスクとして再編され、編集チームとより密接に連携するようになったことは、エージェンシーにとって歓迎すべき状況だ。実際、クライアントへの販売が容易になったとエージェンシーは述べている。
「コンテンツパートナーシップは難しく、お金がかかる取り組みであり、コンテンツの制作などで、メディアのお金が流用される可能性もある。したがって、一見すると、最適な投資には思えないことが多い」と、トータルメディア(Total Media)でパブリッシャー担当責任者を務めるグラハム・マーティン氏はいう。「だが、確かな戦略に支えられ、期待される成果に対して、誰もが誠実である場合は、とても強力なものになりうる」。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)