ガーディアン(The Guardian)がこれまでポッドキャストに行ってきた投資が実を結びつつある。牽引しているのは毎日放送されている新番組だ。同番組は広告収入の増収に貢献しており、同社の会員プログラムに加入するオーディエンスが増加している。
ガーディアン(The Guardian)がこれまでポッドキャストに行ってきた投資が実を結びつつある。牽引しているのは毎日放送されている新番組だ。同番組は広告収入の増収に貢献しており、同社の会員プログラムに加入するオーディエンスが増加している。
昨年11月から、同社は25分間のニュース番組「トゥデイ・イン・フォーカス(Today in Focus)」をポッドキャストで毎日配信。これが同社の全聴取数の4分の1を占める大ヒットとなり、同社のなかでも最大級の人気を誇る番組へと成長した。同番組の1日あたりの聴取数は配信開始から実に5倍となっている(3月第2週における同番組の平均聴取数と、配信開始週における平均聴取数の比較)。同社は具体的な聴取数については明かさなかったが、オーディエンスはひと月あたりで30%増加しているという。
ガーディアンは現在、10のポッドキャスト番組を抱えている。
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高聴取数とダウンロード数が番組の広告主にとって重要なのは間違いないが、2月の終わりから本記事の執筆時点である3月12日まで、ガーディアンはポッドキャスト番組内で同社の会員プログラムに関する広告を流すことで加入者数を増やしている。同社はこの取り組みを成功としつつも、結果を公表するには時期尚早と語っている。
「普通とは異なった報道」
ポッドキャストのオーディエンスは右肩上がりとなっており、広告収入が期待できる状況となったことから、多数のパブリッシャーがポッドキャストをバリューチェーンのより上位に位置づけるようになっている。需要は以前高いままで、広告レートも高止まりしている。オーディエンスは比較的若く、番組を熱心に聞く傾向がある。ポッドキャストによって生み出される富は間違いなく存在しているが、意義のある広告収益を得られるのは10万以上の聴取数をあげられるようなトップクラスの番組に限られている。
ガーディアンでビジュアルジャーナリズム部門の編集長を務めるクリスティアン・ベネット氏は「ポッドキャストは会員数を増やすのに役立っているだけでなく、広告スロットにおいても成功を収めており、複数の収益源となっている」と語る。
「トゥデイ・イン・フォーカス」は、ひとつのニュースを大きく扱ったものに加え、ふたつの短めなニュースを加えた内容となっている。いずれも通常の報道サイクルとは少し異なった内容だ。これまでの番組で2番目に人気だったのが気候変動に関するもので、各メディアがこれまであまり効果的に報じられなかったような内容となっている。またトランプ米大統領やイギリスのEU離脱をとりあげた番組も多くのオーディエンスを集めたほか、人種差別やヘルスケア業界についての報道も行っている。
ベネット氏は「トゥデイ・イン・フォーカスはこれまでのジャーナリズムよりも人間味にあふれた番組として新たなオーディエンスをひきつけている」と語り、次のように述べた。「朝の番組として、明確に深く掘り下げた報道を直接届けられるというのは差別化になる。何を報道するかを決めるときは、オーディエンスがすでに知っているかではなく面白いものかどうかで判断している。普通とは異なった報道をしたいと考えている」。
「副次的な存在ではない」
同番組は8人の社員によって作られている。これはエコノミスト(The Economist)のポッドキャスト番組における制作チームの人数と同じだ。ベネット氏は「ポッドキャストは非常に重要な位置づけになる、いずれ紙面と同じ重要度を獲得するだろうと考えて制作を開始した。副次的な存在ではない」と語る。
毎日放送されているポッドキャストのニュース番組は多く、フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times)やエコノミスト、ワシントン・ポスト(The Washington Post)など多くのパブリッシャーが参入している。ポッドキャストプラットフォームであるエーキャスト(Acast)によると、同プラットフォームは2018年に2億3000万人のオーディエンスを集め、そのうち600万人がイギリスからのアクセスだったという。ガーディアンは2006年から2010年にかけてポッドキャストで毎日ニュース番組を放送していた。その頃から比べてポッドキャストの収益化モデルは成熟し、より手がけやすい商品となった。
エーキャストのグローバルコンテンツ部門でトップを務めるスージー・ワーハースト氏は次のように指摘する。「ポッドキャストで差別化するためには明確なアイデンティティとブランドが求められるが、今後さらに非常に大きな成長を遂げる余地がある。人々はポッドキャストの秘める可能性についてようやく気づきはじめたばかりだ。ポッドキャストは人々の生活にさらに深く根ざした存在になりうる」。
小さくも成長著しい市場
ガーディアンは、エーキャストのネットワークを通じて各地域を対象に30秒間の音声広告を展開している。それに加えて同社は高価格帯の広告として、ボーズ(Bose)をはじめとするスポンサー広告も制作し配信している。
音声メディアのスペシャリストであるクリエイティブエージェンシー、トリソニック(Trisonic)の共同創設者ハワード・ベアハム氏はこれについて「2つに分ける必要はないのではないか」とし、スポンサー広告はブランドから認められている印象を与えられるため、音声広告でもっとも急速に成長している分野である点を指摘している。イギリスにおけるポッドキャストの市場規模を表す一般的な数字は存在しないが、ベアハム氏は約2500万ポンド(約36億円)ほどだろうと推定している。規模としては小さいものの成長著しい市場だ。
エーキャストの2018年の調査によると、ポッドキャスト広告を聞いたリスナーのうち76%がウェブサイトの訪問や商品の購入、サブスクリプションへの加入といった何らかの行動をとっているという。
オーディエンスとつながる機会
サブスクリプションでは、コンバージョンによる売上につなげる前にいくつもの困難が存在する。だがガーディアンにとっては「トゥデイ・イン・フォーカス」と、ポッドキャスト全般が複数の収益源となっているのだ。
ベネット氏は次のように語っている。「ポッドキャストはオーディエンスとつながる機会を増やしてくれる。手や目を離せないときに、ポッドキャストを聴いてくれる。『トゥデイ・イン・フォーカス』は大規模なオーディエンスを対象にした重要な投資だ。このチャンスを獲得するために真剣に投資を進めていきたい」
Lucinda Southern(原文 / 訳:SI Japan)