2年に渡るコストカットと赤字半減の闘いのすえに、英紙ガーディアン(The Guardian)に明るい兆しが見えはじめた。現在、同紙は読者からの売上をベースにした新たなビジネスモデルを確立し、黒字転換を目前にしている。
2年に渡るコストカットと赤字半減の闘いのすえに、英紙ガーディアン(The Guardian)に明るい兆しが見えはじめた。現在、同紙は読者からの売上をベースにした新たなビジネスモデルを確立し、黒字転換を目前にしている。
ここまでの道のりは決して楽ではなかった。ガーディアンは事業規模の縮小と、世界展開の野望の見直しを余儀なくされた。だが、アクセス制限ではなく自発的寄付に頼る、独自の読者売上モデルへの転換は、このモデルへの批判が的外れであることを、さまざまな形で示す結果となった。
現在、リニューアルされたガーディアンは、近年でもっとも安定した経営基盤に立っていることに自信を深めている。同社の事業損失は2年前と比べて半減し、2019年に損益分岐を見込んでいる。なにより重要なのは、売上の大部分を、もはや広告に頼っていないことだ。この劇的な回復を認められ、ガーディアンは1月24日、「DIGIDAY アワード・ヨーロッパ(Digiday Awards Europe)」でパブリッシャー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。
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「我々の3カ年計画は素晴らしい成果をあげ、2019年には黒字に転換する見込みだ」と、ガーディアンメディアグループ(Guardian Media Group)CEO、デビッド・ペンゼル氏はいう。「メディア業界は依然厳しい。しかし、読者売上は好調に伸びていて、我々は競争力のある広告を提案し続けており、かつてないほど多くの人々がガーディアンを読んでいる。現在、我々の月間ユニークビジターは1億5000万人以上で、サポーターは80万人を超えている」。
リーチ追求は過去のもの
2016年、ペンゼル氏と編集長のキャサリン・バイナー氏は、コストカット3カ年計画を発表し、リーチ追求からの脱却を最優先課題に掲げた。オープンジャーナリズムを社是とするガーディアンは、そもそもオーディエンス数を稼ぐのに向いていて、コムスコア(comScore)によると、英国のユニークユーザーは月間2300万、米国では3100万に上る。だが、多くのパブリッシャーが思い知ったように、膨大なオーディエンス数は必ずしも売上につながらない。この事実を、ガーディアンは最初から率直に認めた。
「3カ年計画の核心のひとつは、読者との関係を深化させ、リーチへの執着を捨てることだった」と、ペンゼル氏は米DIGIDAYのインタビューで話した。
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やニューヨーカー(The New Yorker)が堅実なペイウォールを採用するのを尻目に、ガーディアンは善意に訴え、読者に単発寄付や有料会員登録を頼むという道を選んだ。これまでのところ、この判断は功を奏している。
いまや、ガーディアンにお金を払った読者は合計80万人に達した。このうち30万人は繰り返し寄付していて、2年前に有料会員プログラムが発足した当初の5万人から劇的に増加した。さらに同社によると、デジタル版と紙媒体をあわせた有料購読者は20万人、単発の寄付は30万回を数える。
「ガーディアンは間違いなく、皆の期待を上回った」と、調査会社エンダースアナリシス(Enders Analysis)のメディアアナリスト、アリス・ピックソール氏はいう。「長期的には、彼らは寄付以外にも読者から売上を得る方法を見つけなくてはならない。単なるサポーターではない、熱心なデジタル有料購読者から」。
ガーディアンは、データを利用して読者がもっとも関心をもっている話題を調べ、それに関連するイベントや記事に寄付依頼を表示した。この方法は、とくに米国で成果をあげた。
「米国市場は、人々の慈善活動への意欲という点で極めて独特だ。我々はもう、広告だけに頼ることはない」と、ペンゼル氏はいう。「我々は、まだ(寄付や有料会員に関して)可能性の山のふもとにいる。今後も試行錯誤して学びながら、報道全般とトピック特化型の寄付を募っていく」。
大々的なコスト削減
ジャーナリズムはコストの問題に直面している。読者あたりの広告売上は、紙媒体に比べれば微々たるものだ。そのため、ニュースパブリッシャーはもはや、あれもこれもと手を広げようとはしなくなった。
当然ながら、ガーディアンが持続可能なビジネスモデルを構築するにあたっては、全面的なコストカットが最優先事項となった。3年以内に20%のコストを削減すると宣言した同社は、まずキングスクロスにある約2800平方メートルのミッドランズ貨物上屋(旧鉄道車庫)をイベントスペースに改装する計画を撤回。また、カンヌライオンズを運営するアセンシャル(Ascential)の22.4%の保有株を2億3900万ポンド(約368億円)で売却した。コスト削減の波は雇用にも及び、400人が人員整理の対象となり、現在の社員数は1500人だ。
次に目を向けたのは海外事業、とくに米国だ。昨年、ガーディアン米国版は大幅に軌道修正した。2014年に意気揚々とローンチした米国版だったが、60人の人員削減を余儀なくされ、現在の社員数は80人だ。さらにオフィスの賃料の削減のため、社員をニューヨークのウィーワーク(WeWork)のコワーキングスペースに移した。ここまで大胆なコストカットを行なったのは、米国版が広告収入主体のモデルだったためだ。ガーディアン米国版の2016年4月までの年間売上は1550万ドル(約16億8000万円)、対して損失は1600万ドル(約17億4000万円)だった。だが今年、米国版はガーディアンの収益に「ポジティブな貢献」をするだろうと、ペンゼル氏はいう。
「(コストカットが)いかに困難であったとしても、米国版はガーディアンの欠かせない一部だ。報道機関としても、商業的な意味でも」と、ペンゼル氏。「だが当時は広告収入主体でやっていく計画だったため、米国のデジタル広告市場の激変により、当初の財政的枠組みのなかでは持続不可能になってしまった」。
昨年1月、ガーディアン米国版のCEO代理にエブリン・ウェブスター氏が就任した。彼女は大々的な組織改革と、読者売上を重視した売上多様化を指揮する。ガーディアンへの30万件の単発寄付のうち、半分は米国からのものだ。同社によれば、米国からの寄付金額が最大を記録したのは、ドナルド・トランプ大統領の就任式の日だったという。
多くのパブリッシャーが気づいているように、莫大な資金を投じて新たな市場を開拓し、広告のみでそれに見合った売上を望める時代は、どうやら終わりを迎えた。ガーディアンは間違いなくそう考えていて、かわりに新市場の開拓には比較的小規模で小回りのきくチームを投入し、読者がそれにお金を出すかどうかを見極めるという方法をとっている。
もちろん、カットされたのはこれだけではない。先日、ガーディアンは紙媒体のサイズをベルリナー版からタブロイド判に縮小し、配達をトリニティミラーグループ(Trinity Mirror Group)に委託した。これにより、同社は数百万ポンドのコスト削減が見込めるとしている。
断固たる姿勢
読者からの売上にフォーカスしつつも、ガーディアンにとって広告がビジネスの要であることに変わりはない。同社は、プログラマティック広告における悪しき慣習にメスを入れた。ガーディアンは、アドテクベンダーが課す不明瞭な料金に対して断固たる態度を示した唯一のパブリッシャーであり、ルビコンプロジェクト(Rubicon Project)を相手取った訴訟は継続中だ。また、同社は業界が一丸となってデジタル広告に蔓延する不正と闘おうと呼びかけている。現在、同社はデータを利用して、オープンマーケットの高付加価値な広告主を特定し、彼らをプレミアムプログラマティックに移行させている。同社によれば、この戦略は収益増加にも、また広告料を効果的なメディアに活用することにもつながっている。
エージェンシーは、人員削減のあとも、ガーディアンが彼らに対して質の高いサービスを提供しつづけるだろうと楽観的にみている。「彼らのような大企業がこれほどの大変革を遂げたら、普通はサービスの低下は避けられない」と、メディアエージェンシーであるマインドシェア(MIndshare)の取引責任者、クレイグ・スミス氏はいう。「しかし、そのようなことになっていないのは評価できる。ただし、彼らがビジネス面で我々とどう関わるかは混乱状態にあるようだが」。
またガーディアンは、この2年間で営利構造と外部へのメッセージを総ざらいし、自らを「変化のためのプラットフォーム」と位置づけて、広告主に対し、クリックスルー率のような空虚な測定指標ではなく、ビジネスとして意味のある結果をもたらすと宣言した。この明確なメッセージと、読者売上の伸びにより、ガーディアンはエージェンシーのなかで優良リストの上位にあがるようになったと、スミス氏は語った。
また、ブランドコンテンツ部門「ガーディアンラボ(Guardian Labs)」も、ここ数年で改革が進んだ。従来の社内エージェンシーモデルをやめ、新たに就任したエグゼクティブエディターのイモージェン・フォックス氏が率いる、コマーシャルフィーチャーデスクが担当することとなった。これにより、ウィンレートは倍増したという。
先進的カルチャー
いまのガーディアンの体制は、2年前とは大きく異なる。もちろん、規模は縮小し、400人の人員削減によって社員は約1500人になった。だがそれ以上に、ガーディアンはここ数年で部署間の協働プロセスを導入し、プロダクトの進化を速めることに成功した。レガシー企業にありがちな、縦割り組織から脱却したのだ。
毎月数十の合同会議がおこなわれ、営業、編集、プロダクト、マーケティング、エンジニアリング、ユーザー体験といった部署の社員たちが一堂に会し、ひとつの課題に取り組む。彼らには3カ月ごとの進捗報告が義務づけられている。Googleをマネたこのプロセスは、ガーディアンの現行のビジネスモデルの構築に大きく貢献した。ペイウォールの代わりに寄付を頼むというアイディアも、このような会議から生まれたものだ。
こうした改革に加え、ガーディアンは4200万ポンド(約65億円)をベンチャーキャピタルのGMGベンチャーズ(GMG Ventures)に投資している。これは、配信形態に変化をもたらすであろう、AIなどの先端技術の進化に乗り遅れないためだ。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)