英紙ガーディアン(The Guardian)は、ニュースメディアが音声操作デバイスにどう関われるかを探る試みをはじめた。同社は4人の専任チームを編成し、Googleの音声コマンドAI、Google Assistant(アシスタント)と相性のいい記事やフォーマットを明らかにするプロジェクトに着手したのだ。
英紙ガーディアン(The Guardian)は、ニュースメディアが音声操作デバイスにどう関われるかを探る試みをはじめた。同社はデベロッパー、音声プロデューサー、デザイナー、プロダクト責任者からなる4人の専任チームを編成し、AmazonのAlexa(アレクサ)に対抗するGoogleの音声コマンドAI、Google Assistant(アシスタント)と相性のいい記事やフォーマットを明らかにするプロジェクトに着手したのだ。
Googleが出資する、この6カ月にわたるプロジェクトはまだごく初期の段階だが、チームは定期的にブログで進捗報告を行う予定だ。ガーディアンは、どのような実験を行うのか、今後何がリリースされるのかについて、詳細を明かしていない。
「我々は、まったく新しいニュースエコシステムへの進出を目指している。そのため、すべての発見に関してオープンな姿勢でいたい」と、ガーディアン・ニュース・アンド・メディア(Guardian News and Media)でマルチメディア編集主幹を務めるクリスティアン・ベネット氏はいう。「(音声アシスタントは)誕生まもないテクノロジーだが、ジャーナリストにとって、現在進行形で形成されつつあるこのプラットフォームを探索するのは非常に重要なことだ。構造を学び、ジャーナリズムにどう役立つかを考え、プラットフォームにフィードバックしていくつもりだ」。
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成功を定量化する指標
Googleがプロジェクトへの出資に合意したため、ガーディアンにとって、効果的なフォーマットを検討するこの実験的プロジェクトに4人のチームを割り振ることに伴うリスクは低い。彼らの目標は、どんな記事が音声デバイスと相性がいいのかを理解することだが、いまは成功を定量化する指標を開発している段階だとベネット氏はいう。最終的には、読者がスマートフォンやラップトップを使えない状態のときに、どうやってエンゲージメントを獲得すればいいかを知ることが狙いだ。
「たとえば、人々が家で料理や家事をしているときだ。こうした瞬間においても、ガーディアンには、人々とつながりを築くチャンスがある」と、ベネット氏。「音声メディアに何ができるかを実験によって理解するのが重要だ」。
ニュース消費に関して、パブリッシャーは消費者に新たな習慣を植えつけるのに長けている。だが、音声操作AIのエコシステムは、発見可能性など、新たな課題をもたらす。WPP傘下のウェーブメーカー(Wavemaker)などのエージェンシーは、音声担当部署を創設し、クライアントにとって、何が効果的かの検証を行っている。ウェーブメーカーでイノベーション部門を統括するベン・マキナニー氏によれば、ガーディアンはSEO戦略を参考に、デバイス所有者が何に反応するかを絞っていけるはずだ。「ニュースに関連して、人々がどんなキートピックを検索するかに注目する必要があるだろう。たとえばスポーツニュースなら、それに応じたキーワードを用意する。単独のキーワードだけでなく、テーマを関連づけることが重要だ。人々が知りたいのは、最新の結果なのか、今後の日程なのか、それとも試合会場への行き方なのか? 我々は、SEOに基づいて、(Alexa SkillやGoogle Actions向けに)質問と答えのモデル化を行っている。人々による情報の求め方は変わらないと見ているからだ」。
一方で、エージェンシーが神経科学者と組んで行った研究によれば、音声の性別や高低、アクセント、言語などの要素によって、人々の反応は異なる。「ガーディアンの場合、(ジャーナリズムへの)信頼が問われているいま、信頼できそうな印象を与える声を選ぶことが重要になるだろう」と、マキナニー氏はいう。
外部組織からの出資
期限の6カ月を過ぎたあと、ガーディアンがプロジェクトを継続するかどうかは未定だ。Googleの資金提供を得て報道への新たなテクノロジーの導入を模索するというモデルを、ガーディアンは以前にも、VR(仮想現実)プロジェクトで採用し、「6×9:独房拘禁の仮想実験」や「アンダーワールド」といった成果を生み出した。また、ガーディアン米国版のモバイルイノベーションラボは、2年間のプロジェクト期間中に20以上のモバイルストーリーのフォーマットを試したが、こちらも外部組織であるナイト財団の出資を受けていた。
スマートスピーカーの利用は始まったばかりだ。市場調査会社ユーガブ(YouGov)による今年4月の報告書によれば、スマートスピーカー所有者は英国の人口の10%であり、購入検討者は5%に過ぎない。10%の所有者の内訳は、デジタルインターフェース「Alexa」を搭載したAmazonのスマートスピーカーが75%を占め、Google Homeが7%、Google Home Miniが9%だった。
テレグラフ(The Telegraph)、BBC、MTVなど英国の他のパブリッシャーは、Amazon Echoでのコンテンツ配信に乗り出している。米国に目を移すと、ハースト(Hearst)やブルームバーグ(Bloomberg Media)が同様の実験に力を入れており、主な課題は発見可能性と収益化だと認めている。
「大きな数字ではない」
メディア調査会社エンダーズ(Enders)の推定によると、英国内でスマートスピーカーを所有する家庭は約300万世帯であり、その3分の1がニュースコンテンツを定期的に利用している。
「大きな数字ではない。だが、今後の普及次第では、ガーディアンは音声AI市場での優位を利用してロイヤルティを伸ばし、うまくいけば財政面に貢献する読者を増やせるかもしれない」と、エンダーズのメディア調査シニアアナリスト、ジョセフ・エバンズ氏はいう。「獲得の見込みのある市場は小さく、収益化は不可能だ。しかし、Googleが資金を出すのなら、試してみる価値はあるだろう。もちろん、Googleが他社の財政健全化のためにアシスタントを宣伝しているわけではないことを念頭に置いたうえでだが」と、同氏は語った。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)