Googleが、パブリッシャー各社の幹部と新たな定例会を開始し、広告チームとChromeチームのメンバーに対して、パブリッシャーから出された質問に積極的に答えるよう働きかけている。Appleが先頃トラッキングのメカニズムを変更して、今後業界全体を巻き込む大きなうねりをもたらしているのとは、明らかに対照的だ。
デジタルメディアからアドエコシステムまで、ありとあらゆるビジネスに影響を与えるテクノロジー企業、Google。ここにきて、パブリッシャー各社の幹部と新たな定例会を開始し、広告チームとChromeチームのメンバーに対して、パブリッシャーから出された質問に積極的に答えるよう働きかけている。この動きから、アキュウェザー(AccuWeather)やアドバンス・ローカル(Advance Local)、リーフ・グループ(Leaf Group)をはじめとするパブリッシャーの目には、Googleがパブリッシャーとの関係転換を図っていることがよくわかる。それだけではない。Appleが先頃トラッキングのメカニズムを変更して、今後業界全体を巻き込む大きなうねりをもたらしているが、そのAppleの独自路線とはまったく対照的であることも明らかだ。
「最近のGoogleを見ていると、脆(もろ)さのようなものを感じる。それはこれまでのGoogleのイメージとは違う。まるで別の会社だ」。そう話すのは、ニュース専門パブリッシャー、アドバンス・ローカルでアドテクおよびプログラマティック担当バイスプレジデントを務めるジェフ・サットン氏だ。クリーブランド・ドッココム(Cleveland.com)やオレゴン・ライブ(Oregon Live)などのサイトを運営する同社は、前述の定例会のメンバーでもある。ビデオ会議でGoogleの役員や技術者が見せた態度は「オープンで、ざっくばらん」だったとサットン氏は評した。
この定例会の存在について米DIGIDAYがはじめてリポートしたのは、2021年8月16日。参加しているのは20~25社のパブリッシャーで、Googleの広告とChromeの各部門から役員と技術者が同席し、2021年3月から毎月開催されている。
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Googleの定例会には、最大手の上場企業から、小規模サイト向けの広告マネジメント企業カフェメディア(CafeMedia)のような中小企業まで、さまざまなパブリッシャーが出席している。参加者の本音の質問に真摯に答えようとするGoogleの態度から(ときには、「その質問の答はまだよくわかっていない」と正直に認めることもある)、Googleが「混乱を収めなければならない」と認識し、さらには「敵対心を鎮めなければならない」とさえ考えていることが伝わってきて、好ましい兆候だと参加パブリッシャーは話している。この「敵対心」が生じたのは、自社ブラウザーのChromeでサードパーティCookieの廃止が予定されていることをGoogleが発表し、さらにその後の曖昧な投稿で、プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)の取組みから開発された、Cookieに代わるアドテクツールに関して何度か発言したときだ。これで業界全体が不意を突かれた形になった。
GoogleがはじめてサードパーティCookieに反対する決断を発表したときには、「TwitterやSlackのチャンネルにあるパブリッシャーのコミュニティでは激しい反発が多く見られ、混乱が生じていた」と、リーフ・グループのメディア担当シニアバイスプレジデントを務めるスコット・メッサー氏がは話す(同社は定例会参加企業で、リブストロング[Livestrong]やイーハウ[eHow]などのパブリケーションを所有している)。「GoogleがChromeの変更で行ってきた初期の取り組みや提案されたソリューションを見るかぎり、コミュニティがGoogleの意図をしっかり理解できていたとは思えない。その結果、混乱が生じ、今回の廃止も、話を先に進めようにもなかなか進まない事態になっている」という。
Googleの失策とパブリッシャーの役割
この会議は秘密裏に行われているわけではない、そう定例会参加メンバーは口々に話すが、参加メンバーの一部の名前が報道されたのは今回がはじめてだ。そもそもパブリッシャーは、Googleとの提携に関する問題について公式の場で話したがらない。これは、彼らが事業収益のおもな部分をGoogleに依存しているからだ。「Googleが誰にとっても最大のパートナーであるのはほぼ間違いない」とリーフ・グループのメッサー氏は話す。「だから、Googleが適切な方向に舵を切れるよう、せめてサポートくらいはしなければ。それがパブリッシャーの責任だ」。
定例会の議題はおもに、Googleが開発中のプライバシーサンドボックスの技術事項についてである。たとえば、現在はまだ流動的なターゲティング広告手法、FLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)もそのひとつだ。それ以外の一般的な内容も議題に乗るのかという米DIGIDAYの質問に対して、パブリッシャーだけでなくGoogleも回答した。たとえばファーストパーティデータや、Googleのアドマネージャーのプラットフォームならパブリッシャーの売上をどのように直接支援できるのか、といったテーマが話し合われているという。ただし、定例会参加メンバーによると、一般に公開されていないGoogleの情報は一切知らされない(なお、彼らのビジネスモデルは多岐にわたり、ダイレクト広告、プログラマティック広告、ディスプレイと動画のインベントリー[在庫]などさまざまだ)。
「Googleの定例会はさまざまな立場の人から話を聞き、そこから学ぼうとする非常に真摯な取り組みだと思う」。そう話すのは、定例会に参加している企業のアキュウェザーで、デジタル広告の収益およびテクノロジーを担当するシニアバイスプレジデント、ステファン・マムミー氏だ。「一緒に方向性を考えながら、仕上げていく感じだ」。
アドバンス・ローカルのサットン氏は次のようにいう。「アドバンス・ローカルにおける私の責務のひとつは、社内でアドテク戦略の全体像を描くサポートをすることだ。定例会参加前は、今回の変化に社内で対応するにしても、私自身がどのように関わればよいのか、正直、分からなかった。しかし、実際に会議に出席してみて、Googleが業界で実現しようとしているこの重要な変化に対する理解が深まり、準備も整えられるようになってきた。おかげで、会議に参加する前には決して思いつかなかったような方法で、戦略が描けるようになった」。
定例会参加はパブリッシャーにとってメリットになるが、今回のインタビューに回答してくれたメンバーによると、定例会はGoogleにとっても良い話だという。プライバシーサンドボックスの広告手法をはじめとするツールを発展させていくなかで、定例会は相談役のような役割を果たしている。「我々は優秀なフォーカスグループだ」とサットン氏は話す。
「Appleは、パブリッシャーとの協調路線は考えていないらしい」
いまでは、月例会でパブリッシャーの声に耳を傾けるようになったGoogleだが、Appleをけん制する存在として、パブリッシャー各社はGoogleに期待している。Appleは、パブリッシャーとのコミュニケーション不足が批判されている。というのも、オペレーティングシステムの劇的な変化で、ユーザーがアプリ間トラッキングをオプトアウトするというスゴ技を手に入れることができるようになり、パブリッシャーがその影響をまともに受けているのだ。
Appleの事業はGoogleよりも広告依存度が低い。とはいえ、「Appleは、パブリッシャーやデベロッパーエコシステムには依存している」とリーフ・グループのメッサー氏は話す。それにもかかわらず、「Appleは、パブリッシャーや広告主の助けを必要としていないようだ。きわめて厳しいプライバシーファーストの姿勢を貫いていて、パブリッシャーがビジネスを進めやすくなるようなツールやソリューションは一切提供しない」という。この件に関してAppleにコメントを求めたが、本記事掲載時までに回答は得られなかった。
アキュウェザーのマムミー氏はいう。「Appleはすべて無視するだけだった。一方のGoogleはオープンに取り組もうと努力している」。
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)