Googleはニューズ・コーポレーション(News Corp)との契約で、豪国会議員らをなだめるつもりなのかもしれない。だが出版業界人らは、業界最大手を補償するこの契約について、まさしく豪州で審議中のメディア法案が対処しようとしている問題を複雑化していると、口を揃えて言う。
Googleは豪州発祥の巨大メディア・コングロマットの出版部門、ニューズ・コーポレーション(News Corp)との契約で、豪国会議員らをなだめるつもりなのかもしれない。だが出版業界人らは、業界最大手を補償するこの契約について、GoogleやFacebookなど大手プラットフォームが中小パブリッシャーを強大な力で支配する構図という、まさしく豪州で審議中のメディア法案が対処しようとしている問題を複雑化していると、口を揃えて言う。
この3年契約により、ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)やニューヨーク・ポスト(New York Post)をはじめ、ニューズ・コーポレーションが有する有名メディアのコンテンツがGoogleのニュースメディア向けサービス、ニュース・ショーケース(News Showcase)に掲載されることになる。その対価として、ニューズ・コーポレーションには同社いわく、「Googleから相当額の支払い」があったという。
この契約は、Googleに対する独占禁止法違反に関する調査が英米で実施され、豪州で上述の法案が審議されているなかで締結された。後者の法案については、他国でもパブリッシャー間に公平を期すべく、政府による同様の介入を引き起こすのではないかと、GoogleとFacebookはいずれも不安視している。
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とある中規模パブリッシャー幹部は米DIGIDAYに対し、ニュース・ショーケースはGoogleが「人々をGoogleのプラットフォームに留める機能およびインターフェース」を構築していることを示すさらなる一例であり、「我々のコンテンツもすべてそこで消費されている」と語った。同幹部はまた、GoogleとFacebookを公に非難すると、その報復として検索順位を下げられたり、広告契約を差し控えられたりするのではないかと恐れている、と言い添える。
「GoogleとFacebookにはそれができるだけの力があるし、反動が恐ろしい。だから、彼らとは仲良くしている」。
交渉の切り札? それとも口止め料?
ニューズ・コーポレーションとの契約がGoogleの米国における事業に関わってくるのか、ニュース・ショーケースを米オーディエンスにも売り込むことになるのかは、現時点では何とも言えない。Googleは米DIGIDAYに対し、ニュース・ショーケースについてはいまだ、米パブリッシャー勢との協議の初期段階にあると語った。
「現在、ニュース・ショーケースはブラジル、オーストラリア、UK、ドイツ、アルゼンチンで利用されている。500を越えるパブリッシャーと契約しており、今後、米国や諸外国のパブリッシャーも含め、さらなる契約の締結を期待している」と、Googleの広報は言う。
Googleの検索エンジンやほかのツールについては、パブリッシャーが制作したコンテンツの大部分をGoogle環境内で表示しているため、ユーザーにしてみれば、わざわざクリックしてパブリッシャーのサイトに移動する理由が見当たらず、それゆえ、この状態はコンテンツを有する者への搾取にあたるとして、パブリッシャー勢と国会議員らが声を上げており、ニュース・ショーケースはその圧力に対してGoogleが打った懐柔策のひとつと考えられる。
2020年10月、Googleはコンテンツ掲載料として、3年にわたり計10億ドル(約1058億円)をパブリッシャーに支払う旨を約束した。ただし、これには条件があり、Googleの提訟に関与するすべてのパリッシャーについては、訴訟の種類を問わず、その対象から外されると、当時米DIGIDAYは報じた。
出版業界団体デジタル・コンテント・ネクスト(Digital Content Next)のCEOジェイソン・キント氏は、Googleがニュース・ショーケースを米国で性急に展開するとは思えないと語る。「彼らは新たなコンテンツのライセンス契約を交わす前に、まずはそれらを掲載する場を新設するという非常に戦略的な方法を採っている」と氏は評し、ニュース・ショーケースを展開しているのは、「いま現在、もっとも危険と思われる国」だけだと言い添える。
豪州から手を引くと脅すプラットフォーム勢
豪州で審議中の法案ニュースメディア契約法(News Media Bargaining Code)が可決された場合、ニュースパブリッシャーはGoogleやFacebookのプラットフォームに掲載された自社コンテンツについて、個々にまたは共同で、その補償について交渉できるようになる。さらに、検索およびソーシャルメディア戦略に大打撃を与えうるアルゴリズムの調整前に、テック企業によるパブリッシャーへの通知も標準化される。
Googleはこの法案に反対しており、豪市場への検索サービスの提供停止もありうると警告した。「オーストラリアで審議中の法案については、すべてのリンクや断片に対して支払を要求されるのではないか、との懸念がある」と、Googleのニュース、ウェブおよびパブリッシングプロダクトパートナーシップ部門アジア太平洋地区を率いるケイト・ベドー氏は、2021年2月10日投稿の同社ブログに書いている。
ニューズ・コーポレーションとの契約に加え、Googleは2月第3週、豪メディアのセヴン・ウェスト・メディア(Seven West Media)およびジャンキー(Junkee)との提携も発表した。この提携に豪政府が納得し、法案を修正または廃案に持っていくのかは、現時点では不明だ。
一方、これらの契約は豪州検索市場からの撤退という脅しの取り下げを意味するのか? Googleからの回答はなかった。
Facebookも同じく、この豪法案に対し、抗戦の構えを見せている。2月17日、同社は豪ニュースパブリッシャー勢のコンテンツについて、Facebookを利用するすべてのユーザーへの配信を停止し、すべての豪ニュースパブリッシャーのコンテンツへのアクセスを制限する旨を発表した。
FacebookはFacebook News(フェイスブック・ニュース)を介するニュースコンテンツについては、パブリッシャーに補償金を払っている一方、豪州におけるニュースコンテンツ制限のこの動きは、ニュースフィードにおいて政治的コンテンツをあえて強調しないという同社の基本的姿勢に合致している。
米国でも同様の法案を検討中
デジタル・コンテント・ネクストの会員たちは、豪州で審議中の同法案に賛同していると、キント氏は言う。「これは、大いなる戦力不均衡を是正するひとつの方法だ」。
米連邦議会でも、同様の法案可決に向けた動きがある。前回の連邦議会に提出された法案の狙いは、中小パブリッシャーにGoogleおよびFacebookと好条件で交渉させることにあった。その法案、ジャーナリズムの競争と保護に関する法律(Journalism Competition and Preservation Act)は2019年に初めて提出された当時、アメリカ新聞編集者協会(American Society of News Editors)や 全米新聞協会(National Newspaper Association)のほか、全米のマスコミ関連団体が支持を表明した。
この法案は、現連邦議会に再提出される必要があるが、可決されれば、ニュースメディアは4年の猶予期間内に2大デジタルプラットフォームと補償について集団交渉できるようになる。その意図は、大きな市場シェアを持つごく少数だけでなく、すべてのパブリッシャーを保護する交渉条件の確保にある。
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やワシントン・ポスト(The Washington Post)、ウォール・ストリート・ジャーナルも参加する業界団体、ニュースメディア連合(News Media Alliance)もこの法案を支持している。 連合の代表責任者デヴィッド・チャヴァーン氏は、同法案の連邦議会への再提出を期待していると語る。
「多くの人々は勘違いしているが、全国規模の大手パブリッシャー勢はすでにある程度の交渉力を有している。ゆえに問題は、中小にいかにして同様の交渉力を与えるかであり、彼らも確実に対象に含める交渉法を成立させる以外に、それを実現する手段があるとは、私には到底思えない」と、チャヴァーン氏は言う。
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)