米国のメディア企業の幹部たちは、Googleがオーストラリアを含む数カ国のパブリッシャーと結ぶパートナーシップが、今後米国で行われる交渉にどのような影響を与えるのか、大きな関心を寄せている。しかし、ニュースコンテンツの使用料をめぐる交渉は、長い時間のかかる難しいものとなりそうだ。
米国のメディア企業の幹部たちは、Googleがオーストラリアを含む数カ国のパブリッシャーと結ぶパートナーシップが、今後米国で行われる交渉にどのような影響を与えるのか、大きな関心を寄せている。ニュースコンテンツの使用料をめぐる交渉は、パブリッシャーへの補償の中身が少しずつ明らかになる一方、状況から判断するに、長い時間のかかる難しいものとなりそうだ。
米国の一部のパブリッシャーは、Googleを含むデジタルプラットフォーマーとの団体交渉を可能とするため、連邦法の制定を要望している(現行のままでは、複数のパブリッシャーが協力して交渉にのぞむと、反トラスト法に抵触するおそれが生じる)。だが、当のGoogleは、パブリッシャーとの団体交渉には消極的のようだ。
Googleは昨年、パブリッシャー向けの新サービス「ニュースショーケース(News Showcase)」を公開した。ニュースを提供する報道機関側が、ショーケースに表示される記事を自分たちで選択し、その対価を受け取る仕組みだが、Googleでニュース担当のバイスプレジデントを務めるリチャード・ジングラス氏によると、その参加交渉はパブリッシャー各社と個別かつ二者間で行った。同氏の経験に照らせば、パブリッシャーはむしろ単独での取引や交渉を望むという。
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米DIGIDAYとの取材で、ジングラス氏はこう述べている。「私の印象を率直に言えば、パブリッシャーは基本的に二者協議を望む。実のところ、これは法律の問題で、我々が選択できる問題ではない」。
だが、パブリッシャーとプラットフォーマーの団体交渉について、マリベル・ワズワース氏は別の見解を持っている。同氏は、ガネット(Gannett)が所有するUSAトゥデイ・ネットワーク(USA Today Network)のプレジデントで、米紙USAトゥデイ(USA Today)の発行人を務める人物だが、米DIGIDAYとの取材でこう述べている。「パブリッシャーの団体交渉が合法化されるなら、それは重要な第一歩になるだろう。もっとも重要なのは、質の高いオリジナルの記事の価値が正しく評価されることだ」。
米紙ロサンゼルス・タイムズ(LA Times)を発行するカリフォルニア・タイムズ・グループ(California Times Group)で、デジタル事業担当のバイスプレジデントを務めるデヴィッド・シュピーゲル氏は、微妙に異なる見解を持つ。団体交渉を望むとすれば、それは交渉力を強化したい小規模な、あるいはニッチなパブリッシャーだと同氏は見ている。
「全米規模の大手メディアは単独で交渉する方が有利だと考えるだろう。一方、ニッチなメディアにとっては、結束して交渉する方が賢明かもしれない」と、シュピーゲル氏は話す。とりわけ、ユーザーをGoogleの検索サービスに誘導するローカルメディアのコンテンツやサービス系のコンテンツなど、Googleにとってありがたみのある分野では団体交渉が有効だという。
Googleは、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、ドイツ、英国で、延べ500社のパブリッシャーとニュースショーケースの契約を締結している。なかでも、オーストラリアのニュースコープ(News Corp)と結んだ先ごろの提携は、特に大きな注目を集めている。Googleにとってこのプログラムは、検索結果に記事のリンクや抜粋を掲載するなら、その使用料をパブリッシャーに支払えというオーストラリア政府の要求への対抗策でもあった。
「オーストラリアでのニュースショーケースの契約は、Googleが検索結果に表示するリンクや記事の抜粋に対して報酬の支払を行わないことを明確化するものだ」と、Googleの広報担当者は述べている。オーストラリアの方針が変わらない限りと前置きしつつ、ジングラス氏はこう語った。「オーストラリアで懸念なく事業を継続し、同国のパブリッシャーと懸念なく誠実な交渉を正しく行い、かつ、インターネットとリンクの自由という[Googleの]基本原則に抵触しないアプローチに落ち着いた」。
団体交渉を模索するパブリッシャーたち
GoogleとFacebookという2強が支配するデジタルメディアと広告の世界で、パブリッシャーたちは過酷な競争を強いられてきた。彼らはオーストラリアでの交渉の行方を注視しながら、米国で「公正な競争の場」を整備するためのヒントを模索している。2月末、オーストラリアでは、ニュースメディアの取引に関する新法が可決された。デジタルプラットフォーマーが検索結果などでパブリッシャーのコンテンツを表示する際、対価の支払を義務づける法律だ。個別の交渉で合意に至らない場合、同法が要求する調停を通じて、プラットフォーマーからパブリッシャーへの報酬額が決められる。
一方、米国のパブリッシャーたちは、GoogleやFacebookとの団体交渉を可能とするため、いわゆるセーフハーバー規定を設けて、反トラスト法に抵触しない行動範囲を示してほしいと求めている。2019年に提出された「ジャーナリズムの競争と保護に関する法律(Journalism Competition and Preservation Act)」は、当初、米国ニュース編集者協会(American Society of News Editors:ASNE)、全米新聞協会(National Newspaper Association:NNA)、ニュースメディア連合(News Media Alliance:NMA)など、主要な業界団体から支持を集めた。NMAには、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)、ワシントンポスト(The Washington Post)、ウォールストリートジャーナル(The Wall Street Journal)ら、多数の北米報道機関が加盟している。この法案の狙いは、大きな市場シェアを握る一部の大手メディアだけでなく、すべてのパブリッシャーがプラットフォーマーとの交渉で恩恵を得られるようにすることだ。今後数週間のうちに、類似の法案が提出される予定もある。
米国でのショーケースは、一定数のパブリッシャーの参加が前提
ニュースショーケースをめぐる米国のパブリッシャーとの協議には、「最低でも半年はかかる」とジングラス氏は見ている。また、同プログラムの開始には、一定数のパブリッシャーの参加が不可欠のようだ。同氏は、「ショーケースはほんの2、3社との合意で始められるプログラムではない」と述べている。
米国に拠点を置くパブリッシャー2社の幹部たちが、匿名を条件に米DIGIDAYに語ったところによると、「ショーケースの詳細について話を聞く用意はあるが、Googleからの接触はまだない」という。別のパブリッシャーは、Googleと四半期ごとに行う定例の報告会で、この件も議題に上がるだろうと予想している。
「ニュースショーケースに関しては、まだ何のオファーもない。米国のパブリッシャー向けに何かしているという話も聞かない」。前出のメディア幹部のひとりはそう語った。
ほかのパブリッシャーからは、この件に関して何のコメントも得られなかった。今後の協議に慎重を要するというのがその理由のようだ。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は米DIGIDAYの取材に対して、ショーケースに関するコメントは控えると明言した。ローカル・メディア・コンソーシアム(Local Media Consortium:以下、MLC)も同様だ。LMCは、会員を代表して、Google、Facebook、求人情報会社のモンスター(Monster)など、パートナーとの交渉に臨む。LMCのプレジデントを務めるクリスチャン・ヘンドリクス氏によると、「MLCの理事会は、ショーケースおよび類似のプログラムに関して、公にコメントしないという立場を採っている」という。
大手のパブリッシャーは、報酬も高額
Googleのニュース配信は、パブリッシャーに大きな利益をもたらすため、あらためて対価を支払う必要はないはずだ。Googleは長年にわたり、この考えにとらわれてきた。しかし、ニュースショーケースの契約金を見れば、パブリッシャーのコンテンツやオーディエンスが、Googleに利益をもたらすことも明白だ。
大きなパブリッシャーほどコンテンツも多く、全国や地方のオーディエンスに対する影響力も大きいと、ジングラス氏は指摘する。「多くのオーディエンスを持つ大手のパブリッシャーには、閲覧者の少ない小さなパブリッシャーよりも、多くの報酬を支払う。こうした報酬額の調整は適切で公正だと考える」。
Googleの広報担当者は電子メールによるコメントで、こうも述べている。「Googleが採用する世界的に一貫したショーケースの報酬モデルは、オーディエンスの規模や有料記事の購読料など、客観的な評価基準も考慮に入れている」。
米DIGIDAYに取材に対して、パブリッシャーたちは「ショーケースはメディアのコンテンツをGoogleの支配下に置くための新たな一手ではないか」という懸念を語った。それでも、このプログラムが有料コンテンツの閲覧にかかる費用を、ユーザーに代わって一部負担しているのは事実だ。ショーケースに表示された記事をクリックすると、ペイウォールの有無にかかわらず、パブリッシャーのウェブサイトでその記事を読むことができる。
ジングラス氏の説明によると、「Googleが有料コンテンツのクリックを一定量買い上げて、ユーザーが試し読みできるようにしている」という。ペイウォールの記事を無料で閲覧できるこの仕組みの狙いは、パブリッシャーのウェブサイトでエンゲージメントとサブスクリプションを促進することだ。
さらに、購読料を支払う代わりに、個人データの登録を求められるケースも珍しくないとジングラス氏は指摘する。Googleが既存の登録情報を活用して、このプロセスを自動化することも考えられる。ただし、「Googleはパブリッシャーに顧客の識別情報を提供するだけだ。顧客関係を構築し、維持するのはパブリッシャーだ」と同氏は言い添えた。
KATE KAYE(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU