Googleが2018年に、アドブロックを備えたChromeブラウザをリリースするという計画は、パブリッシャーたちを不安にさせてきた。Googleは6月1日に公開したアドエクスペリエンスレポートに基づいて、各サイトの採点している。これまでに評価した10万サイトのうち700は修正が必要だと認定されたという。
Googleが2018年に、アドブロックを備えたChromeブラウザをリリースするという計画は、パブリッシャーたちを不安にさせてきた。
Googleが6月1日に公開したアドエクスペリエンスレポートを見れば、パブリッシャーたちは自分のサイトの広告がブロックされるかどうかを確認できる。Googleはこのレポートに基づいて、サイトの広告クリエイティブとデザインを採点しているという。レポートではユーザーの邪魔になるタイプの広告のビデオやスクリーンショットが確認できる。ポップアップ広告や音声付きの自動再生ビデオ、そして「コンテンツを表示するまであと何秒」といったタイプの「プレスティシャル広告(Prestitial Ads)」がそれにあたる。
Googleがこれまでに評価したという10万のサイトのうち700は修正アクションが必要だと認定された。その700のサイトのうち半分ほどは「失格」、残り半分は「警告」のステータスを与えられている。なかでも、もっとも広く見られた問題はポップアップ広告だ。違反と認定されたもののうち、ポップアップ広告が占める割合は、96%(デスクトップ表示)と54%(モバイル表示)だったという。
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「失格/警告」認定されたサイト
こういったサイトのほとんどは、メインストリームのものではない。checkthesevideos.comやfull-serie.bizといったエンターテイメントサイトなどが挙げられている。しかし、なかには歴史あるメディアの名前も十数個見られる。「失格」のステータスを与えられたメディアにはForbes、トロンク(Tronc)が所有するOrlando Sentinel、Sun Sentinel、そしてLos Angeles Timesのほかに、バウワー・エクセル・メディア(Bauer Xcel Media)所有のLife & StyleやIn Touch Weekly、The Wrap、Chicago Sun-Times、トリビューン・ブロードキャスティング(Tribune Broadcasting)によるFox 13 Now、そしてSporting Newsだ。
同程度の数のメインストリームサイトが「警告」のステータスを与えられている。そのなかには、Kiplinger、ギズモード・メディア・グループ(Gizmodo Media Group)によるLifehacker、The Jerusalem Post、The San Diego Union-Tribune、コックス・メディア・グループ(Cox Media Group)のWSB-TV(アトランタ)、トロンク所有のBaltimore SunとChicago Tribune、The Christian Science Monitor、the U.K. Independent、The Daily Caller、Reader’s Digest、All You、Smithsonian、New York Daily News、Salt Lake Tribune、そしてCBS Newsが含まれる。
実施の詳細については、まだまとまっていないことをGoogleは強調している。しかし、「失格」になったサイトは、違反行為だと見なされた広告だけでなく、サイトに存在するすべての広告を排除されてしまうかもしれない。この可能性をGoogleは否定していない。違反の数がふたつかそれ以上のサイトは「警告」ステータスを受け取るということだが、これらのサイトはブロックされない。その一方で、何が「失格」ステータスへとつながるのかは、具体的には述べられていない。
広告フィルターが搭載された新バージョンのChromeがローンチし、「失格」サイトの違反広告が30日以内に修正されなければ、あらゆる広告が取り除かれると、Googleは発表している。「Coalition for Better Ads(良い広告のための連合)」によって提唱された「Better Ads Standards(より良い広告の水準)」を採用しているという。「Coalition for Better Ads」はユニリーバ(Unilever)、グループM(GroupM)、ワシントン・ポスト(The Washington Post)といった広告とメディアの大物たちによるグループで、デジタル広告をよりクリーンなものにすることを目的としている。Googleはその創立メンバーの1社だ。
Googleのダブルスタンダード
今回のレポートが発表されたことで、パブリッシャーは来年の新バージョンのローンチの前にサイトを修正するチャンスを与えられたことになる。これはまた広告主やエージェンシーにとってはユーザー体験の悪いサイトに自社広告が流れることを防ぐツールともなる。サイトを修正すればパブリッシャーは再度Googleに評価をしてもらうことができる。もしくは今回の違反認定が不当なものであれば、それを報告することも可能だ。
同様のニュースはGoogle以外からも聞こえてきている。自動再生の動画広告をブロックし、広告トラッキングを停止するアップデートをAppleはSafariブラウザに加えた。大手プラットフォーム2社が、ユーザーからの要望に応えつつ、広告自体のブロックを防ごうとした動きだ。しかし、パブリッシャーにとっては、パブリッシャーの痛みを伴う形で、GoogleとAppleがデジタル広告マーケットのシェアを確実にコントロールしようとする動きに見えている。
パブリッシャーたちによるサイトのマネタイズに関して、Googleが調停者のように振る舞うべきではない、という批判も挙がっている。GoogleはYouTube上での広告に関しては硬く守っており、自社の収益が関係あるところには触れていない。さらに人気のアドブロックソフト、アドブロック・プラス(AdBlock Plus)にはお金を払って、自社の広告がブロックされないように働きかけている。このダブルスタンダードを批判しているのだ。
自動再生の動画広告を楽しんでいるユーザーがいるとは、誰も思っていないだろう。しかし、これらを取り締まることで、インデペンデント系のパブリッシャーに不当に大きな影響が出るのでは、という懸念もある。「警告」や「失格」のステータスを与えられたサイトの多くは、メディアタイトルをひとつしか持たない会社か、マネタイズに苦労しているレガシー企業かだ。トロンクのデジタル広告収益は減少しており、デイリーニュースは毎年数百万ドルを失っていると言われている。
対応に追われるパブリッシャー
しかし、現状ではGoogleの要望に応える以外、パブリッシャーには道は無いように思われる。トロンクのプロダクト開発シニアバイスプレジデントであるベン・ガースト氏は、広告関連のユーザー体験をさらに向上させるため、Googleと協働して前述の水準を満たすように取り組んでいるという。デイリーニュースのデジタル部門エグゼクティブバイスプレジデントであるグラント・ウィットモア氏は、同社のアドテク関連のパートナーと、水準を満たしているはずの画像内広告にフラグが立ったことが「警告」ステータスの原因であると語った。現在、Googleと協力して解決に取り組んでいるという。
Lifehackerの広報担当は、今回のステータスに関して間違った認定であった懸念を表明している。「我が社のキンジャ(Kinja)パブリッシングプラットフォームは、常にオーディエンスを中心に据えたアプローチを取ってきており、広告の取り組みもオーディエンスを第一に考えられている。このアプローチはマーケットに今後訪れるどのような変化よりも先に進んでいると考えており、それはChromeの新バージョンも例外ではない。Lifehacker.comが『Better Ads Standards』から外れているとは考えない」と語った。
あらゆるパブリッシャーが「ユーザー体験を第一に」と口にしているが、それを実現できているかはまた別問題だ。アメリカンメディア社(American Media Inc.)の収益オペレーションのバイスプレジデントであるポール・ライキンス氏は、違反を指摘された同社のMen’s Fitness、National Enquirerに関して、Googleのレポートでは何が違反だったのか明確ではなく、パブリッシャーが修正しようとするのを難しくしていると指摘している。
修正するためには、違反と認定された広告が生み出していた収益をパブリッシャーは別の方法で生み出さないといけない。これは簡単なことではない。Googleの手法は高圧的だが、Googleだけでなく広告主(も以前は「オーディエンスの注意に割って入る」広告を求めていたのだが)からの対処を考えると従うしかないと、ライキンス氏は言う。
「これを直そうとしているのは、すべてのプレイヤーが同意している。しかし、我々はベンダーベースのビジネスモデルから移行しつつある。これは時間、お金、リソースが必要だ」。
Googleのやり方に批判の声も
オンライン広告の技術的標準規格の策定をはじめ、動向調査や法整備などを行う組織であるIAB(Interactive Advertising Bureau)が要請する水準に、パブリッシャーが従う助けをしている企業にニューラネット(Neuranet)がある。ニューラネットのファウンダーであるポール・ヴィンセント氏は、Googleのような企業がウェブの調停者となってしまうことで、小さいパブリッシャーたちが諦めて彼らの技術的なニーズをGoogleに引き渡してしまうということが起きると指摘している。そうすることで、少なくとも自分たちのサイトがブロックされることはないだろうと考えるからだ。
「看過できないレベルの権力がGoogleに渡っている。このようなレポートを発表すると業界全体に巨大な影響を及ぼし、そしてGoogle自体の立場の強化や、業界の混乱を生み出すことになる」と、彼は言う。
Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)